吉永小百合&のんが思いを巡らす、幸運な“出会い”【「てっぺんの向こうにあなたがいる」インタビュー】
2025年10月29日 12:00

一本の映画には、さまざまな出会いが入り交じっている。憧れの人、尊敬する人、懐かしい人との共演──。映画「てっぺんの向こうにあなたがいる」にも幸運な出会いが待っていた。世界で女性として初めてエベレスト登頂に成功した登山家・田部井淳子の実話をもとに、多部純子として田部井淳子を演じた吉永小百合とのんが、その出会いを振り返る。(取材・文/新谷里映)
主演の吉永小百合は、今作で映画出演124本目にして初の登山家を演じた。そして、エベレスト日本女子登山隊がエベレスト登頂を為し遂げた1975年から晩年までを描くにあたり、青年期はのんが担当。2人は純子という役をどのように捉えて演じたのか。
(C)2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会吉永は田部井淳子を「いろいろなことに挑戦して、人生を楽しんだ素敵な人」だと語る。「私が田部井さんにお目にかかったのはラジオ番組に出ていただいた時、その一度だけでしたが、強烈な印象を持ちました。とてもチャーミングな方で、私より3センチぐらい背が低くて、この方がエベレストに登ったんだ!と驚きました。とても気さくで、何でも話してくださって、明るい。すっかりファンになったんですね。どんなことも楽しむお姿にとても感動しました」。田部井が52歳の時にニューヨークシティマラソン完走の記念にピアスを開けたというエピソードを聞き、吉永もピアスを開けて純子を演じている。
(C)2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会のんは阪本順治監督から「田部井さんと吉永さん、両方の若い頃に見えなくてはならない」と言われ、研究を重ねた。「田部井さんについての資料の中に、エベレストを遠くからでも見たいと言って近くの山に登り、そこからエベレストを眺めている映像がありました。その目がとても透きとおっていて──。山に向けるその真っ直ぐな想いと、どんな逆境も乗り越えていくエネルギーを演技に活かしたいと思いました」。また、事前に吉永の撮影日を見学するだけでなく、若い頃の吉永の映画も鑑賞し、俳優・吉永小百合についても研究した。「田部井さんと吉永さんのエネルギーが重なって見えて、自分もこの方たちに近づきたいと思いました」。
同じ人物を演じるにあたり、メイク部の提案で、吉永の右の口もとにあるほくろをのんの口もとにも反映させ共通点も持たせている。

のんが演じた青年期を観て吉永は、新聞記者の悦子(茅島みずき)が純子の家を訪ねてくるシーンが印象的だったと話す。「純子と悦子が正明さん(工藤阿須加)について話す中で、のんさんが〈おととい来やがれ!〉というセリフを言いましたでしょう。あんなふうに(女性が)しっかりとあの言葉をセリフとして言うのは初めて聞きましたが、とても良かった。私も言ってみたいと思いました。ほかにも、正明さんとの出会いやバスのなかの2人のシーンも素敵でしたね」。
一方、のんは富士登山での純子と正明(佐藤浩市)の微笑ましいシーンを、好きなシーンとして挙げる。「私は、ベンチに並んで座っている2人のシーンがとても好きなんです。感謝の気持ちを伝える純子さんのあの行動、2人の空気感が大好きです!」。

劇中、〈天然記念物〉のような理想の男性だと褒められる純子の夫・正明役は佐藤浩市。青年期は工藤阿須加が演じている。吉永は、佐藤と共に富士山、御霊櫃峠、日和田山を登った。佐藤とのエピソードをこう語る。「佐藤さんは、高所恐怖症だっておっしゃっていたので心配していたんですけど、いざ登ったら、それはもうすいすいと登られて。しかも純子は病気なのであんまり早く歩けない。正明さんのストックに捕まって登るんですが、佐藤さんのスピード、力強さ、驚きました。優秀な元クライマーらしさが出ていました」。日和田山は、田部井淳子が日頃からトレーニングをしていた山でもあり、命日の20日になると田部井さんを偲んで登山家たちが集まることからも、彼女の偉業がどれほどだったのかが伺える。
もちろんエベレスト登頂も描かれる。登頂シーンの撮影は立山室堂の雪山で行われ、のんは吹雪(ダイヤモンドダスト)のなか撮影に挑んだ。「目が開けられないほどの吹雪で、撮影スタッフの髪の毛やまつげ、髭が真っ白に凍っていました。田部井淳子さんはこういう大自然の中、危険と隣り合わせで登ったのかと、ほんの少しですが感じることができました。室堂での撮影最終日がクランクアップでしたが、吉永さんがサプライズで来てくださったこと、むちゃくちゃ嬉しかったです。チョコレートの差し入れも美味しくいただきました!」。
(C)2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会吉永の行動力にも驚かされる。東京から雪深い室堂へ、吉永はひとりで訪ねた。そんなバイタリティーも登山家・田部井淳子に通じる。「本当に大変なシーンでしたよね、お疲れさまでした。青年期の撮影について、田部井淳子さんの息子さん・進也さんが、毎日〈今日はこんな撮影です〉ってメールを送ってくださって。夏の撮影から冬を待って、ようやく雪山の撮影で、しかも室堂での最後の撮影の日(5日目)は私も行かなくては!と思い新幹線に飛び乗りました。誰にも相談せずに(笑)。残念ながら吹雪のシーン(登頂シーン)は間に合わなかったけれど、のんさんのクランクアップには間に合いました」。スタッフ&キャスト一同、吉永のサプライズ訪問に感動したのは言うまでもない。
この映画は、女性初のエベレスト登頂という偉業をはじめ、夫婦愛、友情、家族愛が描かれ、映画を観る人それぞれが様々なメッセージを受け取るだろう。多部純子を演じた2人の俳優は、この映画からどんなメッセージを受け取ったのだろうか。
(C)2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会吉永は「人との繋がり」を再確認したと話す。「家族とか友達とか、そういう繋がりがあるから人は生きていける、それはとても大事なことだと思います。私ぐらいの年齢になっても、みんなと繋がりながら生きていくことの大切さを感じました」。3度目の共演となる天海祐希が悦子を演じていることもあり、純子と悦子の友情は、吉永と天海の関係性にも繋がっていく。「悦子さんのモデルである北村節子さんが何度か撮影を見に来てくださって。最初にいらしたのは、テントのシーンでした。天海さんと私が2人で歩きながら話すお芝居を見て、節子さんは当時を思い出して泣いてくださって──。そのお姿を見て、こちらも胸が熱くなりました」。
(C)2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会のんも「田部井さんの生き方と、その田部井さんの生き様を演じる吉永さんの生き方と、両方が刻まれている映画だ」と気持ちを噛みしめる。「純子を演じながら、田部井さんと吉永さんの力強さに感動する日々でした。お二人を見ていて、私も人生を生き貫く、大切な人と過ごす、自分らしく生きようという思いが強くなりました」。
最後に吉永が言葉を添える。「嬉しいですね。それだけ田部井淳子さんという方がチャーミングだったということですよね。その田部井さんという人物をこの映画の中で、のんさんと私、2人で演じられたことは宝物です」。
(C)2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会
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