イザベル・ユペールが来日 筒井真理子とホン・サンス監督の才能、魅力を語り合う
2025年10月14日 11:00

第74回ベルリン国際映画祭で5度目の受賞となる銀熊賞(審査員賞)を受賞した、ホン・サンス監督の「旅人の必需品」の先行上映会が10月13日、渋谷・ユーロスペースであり、主演のイザベル・ユペールが来日。女優の筒井真理子と対談した。
ソウルを旅する謎めいたフランス人女性イリス(イザベル・ユペール)。フランス語の個人レッスンをしている彼女は、生徒たちの家を渡り歩くが、あまりに風変わりな教え方に、人々はみな戸惑うばかり。レッスンが終わると、彼女は年下のボーイフレンドの家へと帰っていく。イリスは何をしに韓国へやってきたのか。なぜフランス語を教えているのか。韓国の国民的詩人・尹東柱(ユン・ドンジュ)の詩に触れるなかで、徐々に彼女の謎に満ちた日常が浮かび上がっていく……という物語。

書籍「フィルムメーカーズ 24 ホン・サンス」の責任編集を務め、長年ホン監督を敬愛する筒井は、「旅人の必需品」から「ホン監督の死生観が垣間見えた」という。「イリスはほとんどものを持っておらず、物欲がない。タイトルは『旅の必需品』ですが、(死までの)旅には結局何も持っていけないということを感じましたし、欲や執着から抜け出した透明な人のようでとても素敵だった」とユペールが演じたイリスを評する。
ユペールは、「真理子さんは、ずっと聞いていたくなるほどとても美しいことを言ってくださった」と筒井の感想に感謝を述べ、「私自身はこの作品に死については考えませんでした」と語る。「イリスは物質性のない人物だとは思いますが、深いメランコリーがあると感じており、そこは実存主義的な感じ。妖精であり魔法使いのような雰囲気もある、現実的でない、超現実的な存在だろうと想像しました」と自身が演じた役どころへの印象を語る。そして、「ホン・サンスは、映画の中で世界と人生、たくさんのことを語ります。彼独特の映画言語で自分の国を語るために、外国人の私の姿を借りているのでしょう」と想像する。
「3人のアンヌ」(12)、「クレアのカメラ」(17)に続き、3度目のタッグとなるが、「彼はいつも映画のことを考えさせてくれます。台本もなく、参加するたびにスタッフの数が減り、カメラのサイズも小さくなり、今回常に(現場に)いたのは女性の録音技師くらいです。ミニマムで撮影し、壮大な作品を撮れる監督です。意地悪な言い方をすれば、その逆の監督もいますから」とホン監督の現場を振り返る。

女優として、筒井から役作りについて質問されると、その秘訣として「まず動く前に考えます。そして、その人物のイメージを膨らませます。イメージが私の思考を豊かにするのです。それは衣装のように具体的なものではありませんが」と回答。監督によって要求が異なるため、なにより考えることが大事だと強調する。「アメリカ人監督はたくさんリハーサルをしますが、フランスの監督のほとんどはリハーサルせず、クロード・シャブロルはまったくしません。ミヒャエル・ハネケは読み合わせさえしません。でも、私はどんなやり方でも大丈夫です。彼らの要求に合わせられます」ときっぱり。
そして、「大切なことは内側からその演じる人物が見えるかどうか。その確信がないと役作りは難しいです。でも撮るうちに、その確信は強固になってきます。スクリーンの中には登場人物のみでなく、美術などいろんな情報が入っています。その情報を演じながらキャッチしていくのです」と、思考し、撮影しながらそのイメージを自身の中に定着していくやり方を大事にしている。
ホン監督の過去作で、印象深かった作品を問われると、ユペールはまず2022年・第72回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員大賞)を受賞した「小説家の映画」を挙げる。モノクロームで撮影されているが、とあるシーンがカラーに変わる瞬間に「涙が出るほど感激した」と話すと、筒井も深く同調し、「私もあのシーンは正に“慈しみ”を切り取ったように感じ、涙が出ました」と振り返った。
「ヘウォンの恋愛日記」「ソニはご機嫌ななめ」の2本立てを鑑賞してからホン監督作品にはまったという筒井。その後デビュー作の「豚が井戸に落ちた日」を観て、「天才だと思いました。そして、その才能を惜しげもなく捨てていく、才能ある人にしか作れない映画」とホン監督の才能を称える。
ユペールは「彼のアイディアがどこから出てくるのかがミステリアス。机に向かって出てくるのではありません。唯一無二の才能」と言い、ソウルでホン監督とともに昼食をとった際の会話から「3人のアンヌ」へ出演することになったと経緯を明かす。「彼が気に入った場所があったら物語がはじまるのです。その時、ソウルから6時間の浜辺を気に入っていて――『3人のアンヌ』もそこで撮影しました。しかし、物語は決まっていなかった。そうしたら君も映画出たい? と聞かれて。1カ月後、パリからまたソウルに戻って撮影しました」と振り返る。

筒井が、ホン監督の色彩感覚について言及すると、「彼の衣装の選び方も色からです。画家が絵の具を選ぶように、正確に分かっているのです。小説家というより、画家の目を持っている人。細密画ではなく、抽象的。オブジェは発揮しないけど、まず色を見つけていくようなシネアストです」とユペール。
最新作の「旅人の必需品」では、ユペールが演じるイリスの、ショッキングピンクを基調とした小花柄のワンピースに緑色のカーディガンが印象的だ。これまでの作品の衣装は、ユペールのワードローブの写真をホン監督に送り、やり取りすることが多いそうだが、今作の衣装は、ユペールが韓国に撮影に向かうフライトまでの空き時間に、たまたま見つけたブティックで購入したもので、ホン監督のイメージ通りだったという逸話を披露。「衣装係がいないことが功を奏しました」と、撮影前から監督と俳優がコミュニケーションを取ることの利点を語った。

出演作品を選ぶ際に大事にしていることを問われたユペールは、「今、私は特権的な立場にあると思います。選ぶ自由があり、やりたい、と思う映画をやれることがほとんどです。やはり監督に対する敬意、どんな世界観を持っているかが大事です。時には何が私を惹きつけるのかわからない時もありますが、この映画をやりたい、そんな感覚的なものです」とこれまで積み上げてきたキャリアを振り返る。筒井は「脚本と監督と、座組。でも、脚本を読むと全部の役を演じたくなってしまうのです(笑)」と回答する。
各国を代表する実力派女優同士の濃密な対談が終わり、会場から大きな拍手が上がると、最後にユペールは、日本人の監督との仕事を熱望しているとメッセージを寄せた。映画は11月1日から、ユーロスペースほかで順次公開。
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