【第78回カンヌ国際映画祭】ウェス・アンダーソン、リンクレイターらベテラン陣ずらり スパイク・リーは黒澤明「天国と地獄」をリメイク、デンゼル・ワシントンに名誉賞
2025年5月24日 12:00

現在開催中の第78回カンヌ国際映画祭の中盤には、ベテランの人気監督たちの作品が並んだ。今回はコンペティション参加となったカンヌ常連のウェス・アンダーソン、カンヌ・コンペ初登場のリチャード・リンクレイター、後から追加になったアウト・オブ・コンペティション部門のスパイク・リーらである。

アンダーソンがベニチオ・デル・トロと再タッグを組んだ「The Phoenician Scheme」は、1950年代、ヨーロッパに君臨する大富豪の波乱に富んだ半生を描く。アップテンポな進行や細部まで凝ったヴィジュアルの魅力はいつもながらに、強欲な実業家が父親としての意識に目覚める精神的な旅路が軸となり、物語に深みを与えている。娘役にケイト・ウィンスレットの実娘、ミア・スレアプルトンが扮しているのも見逃せない。

開幕前から注目を浴びていたリンクレイターの新作「Nouvelle Vague (New Wave)」は、フランス映画のヌーヴェル・ヴァーグを意味し、ジャン=リュック・ゴダールが初長編「勝手にしやがれ」(1960)を撮影する舞台裏をフィクションにしたものだ。ゴダール役に新鋭ギョーム・マルベック、ジャン=ポール・ベルモンドにオブリー・デュラン、ジーン・セバーグには「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」でリンクレイターと組んだゾーイ・ドゥイッチというフレッシュな顔ぶれ。ヌーヴェル・ヴァーグから大きな影響を受けたと語るリンクレイターが、愛情とリスペクトたっぷりに制作現場を描く。軽妙でユーモラス、何より自由で生き生きとした映画制作の楽しさが伝わってくる作品である。

スパイク・リーの新作は、黒澤明の「天国と地獄」を現代のニューヨークを舞台にリメイクした「Highest 2 Lowest」。オリジナルで三船敏郎が演じた役は、音楽業界を牛耳るレコード会社の大立者(デンゼル・ワシントン)という現代的な設定に。音楽に関連づけたのはいかにもリー監督らしく、全編ラップやソウルなどが流れグルービーなエネルギーをもたらしている。もちろん、身代金受け渡しのシーンにおけるサスペンスやアクションも出色。Appleオリジナル・フィルム制作で日本の劇場公開は未定だが、AppleTV+で世界配信が決まっている。
さらに今回、盟友リー監督と組んだワシントンには、カンヌで名誉パルムドールが授与された。こちらは開幕前には発表されておらず、本人にとってもサプライズ受賞となった。(佐藤久理子)

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