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【「花まんま」評論】子供の前世の記憶を扱う原作小説が、大人の感動娯楽映画へと華やかに転生

2025年4月20日 15:15

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画像1(C)2025「花まんま」製作委員会

大正末期から昭和初期にかけて童謡と詩を発表し、26歳の若さで自ら命を絶った金子みすゞの「花のたましい」という短い作品がある。散った花の魂は仏様の花園に生まれ変わる、だって花は優しいから、蝶に甘い蜜をやり、人には匂いを与え、散った花びらさえもままごとの御飯になってくれるから――といった内容の詩だ。

1963年大阪生まれの小説家、朱川湊人はこの詩に着想を得て、自身が幼少期を過ごした昭和40年代の大阪の下町を舞台に、幼い兄と妹が体験した不思議な出来事を描く短編「花まんま」を執筆。これを表題作とする短編集が2005年に出版され、直木賞受賞作となった。

兄・俊樹の視点で語られる短編は、小学校に上がる前の妹・フミ子に突然、ある事件で犠牲になった20代女性の記憶がよみがえり、俊樹は不安と困惑を抱きながらもフミ子のたっての願いをかなえてやろうとする話。ラスト近くで兄妹は成人しており、俊樹による簡潔な報告で、フミ子は明日、大好きになった学者肌の真面目な男と結婚する、と締めくくられている。

映画「花まんま」の前田哲監督は、短編の終盤でわずか数行の言及しかない、両親を早くに亡くしたあと親代わりになって妹を見守ってきた俊樹と、結婚を控えたフミ子の日々を中心とする新たなストーリーを、脚本担当の北敬太とともに創作。原作の主要部分は回想シーンとして丁寧に再現しつつ、幼少期の時代設定を昭和から平成へ、フミ子の前世の職業と命を落とした事件も時代に合ったものに変更するなど細かなアップデートも行い、家族を想う気持ちや大切な人を亡くした喪失と再生といったテーマが今の時代を生きる大人の胸に響く良質なドラマに仕立てた。

俊樹役の鈴木亮平は、早くに就職して妹を養い守ってきた自負と、他人の記憶を持つ妹が遠くに行ってしまうのではないかという不安を抱えつつ、話を盛りがちなお調子者の面もある、頼れる兄貴を魅力的かつ説得力十分に熱演。フミ子役の有村架純も、幼い頃から亡き20代女性の記憶を保ったまま成人し、前世の時の家族をひそかに想い続けているという複雑なキャラクターを繊細に表現した。兵庫県出身の鈴木と有村をはじめ、酒向芳、キムラ緑子、六角精児、ファーストサマーウイカら主要キャストを関西出身者で固めたのもポイントで、アドリブも大いに活かされたというネイティブの関西弁の掛け合いが軽妙で楽しく、物語のつらく悲しい要素を緩和して希望につなげる効果が認められる。

改めて思うに、花を愛でる感性と、心を花に託して大切な人に贈る慣習は世界共通とはいえ、自然物に神仏が宿ると信じてきた日本人にとって、花の不思議な力はより深い意味を持つ。ノスタルジックホラーの旗手とも称される朱川湊人は、金子みすゞの詩にあった“転生”と“花びらで作ったままごとの御飯”の要素を巧みに活かして短編小説を生み出し、これを原作として前田監督らスタッフとキャストが新たな映画に生まれ変わらせた。

創作物が言霊を伝えるものとするなら、金子みすゞの詩から朱川湊人の小説へ、そして映画「花まんま」へと、作品の姿かたちを変えながら言霊が語り継がれていると考えるのもありだろう。本作の劇場公開の約1カ月前、朱川は映画のサイドストーリーとして新刊「花のたましい」を上梓しており、言霊のリレーが続いているようで感慨深い。映画を鑑賞の折には、その物語と語られる言葉の奥に、関わった大勢の人たちの想いが込められていることも含めじっくり味わっていただけたらと願う。

(高森郁哉)

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