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「夜明けのすべて」藤沢さんと山添くんの物語を“映画”にするための試み 三宅唱監督、松村北斗&上白石萌音の“声”にも言及

2025年3月16日 08:00

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香港の観客からの質問に回答
香港の観客からの質問に回答

アジア全域版アカデミー賞「第18回アジア・フィルム・アワード」(以下AFA)の関連イベントとして、松村北斗上白石萌音が共演した「夜明けのすべて」が3月15日、Broadway Cinemathequeで上映され、三宅唱監督、和田清人(脚本)、Hi'Spec(音楽)がトークショーに登壇した。

同作は、人気作家・瀬尾まいこ氏の同名小説を、「ケイコ 目を澄ませて」の三宅監督が映画化。PMS(月経前症候群)のせいで月に1度イライラを抑えられなくなる藤沢さん(上白石)は、会社の同僚・山添くん(松村)のある行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。転職してきたばかりなのにやる気がなさそうに見える山添くんだったが、そんな彼もまた、パニック障害を抱え生きがいも気力も失っていた。職場の人たちの理解に支えられながら過ごす中で、藤沢さんと山添くんの間には、恋人でも友達でもない同志のような特別な感情が芽生えはじめる。

画像2(C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

まずは「原作をどのような意識を持って脚色したのか?」という質問が投げかけられた。三宅監督は「大事なことは、主人公2人のキャラクターを“守る”ということ。僕らはもともと2人のことが大好きで、その2人についての映画を作りたいなと思っていたからです。もうひとつ意識したのは、2人が“思い通りに働くことできなくなった”という点について。世の中にはPMSやパニック障害以外にも、色んな理由で“思い通りに働くことできない”という問題を抱えている人がいると思うんです。今の世の中で働くというのはどういうことなのか。幸せに働くためにはどうすればよいのかという点を議論することが、脚本作りの出発点だったと思います」と回答する。

そして、和田は「『夜明けのすべて』という小説のタイトルが素晴らしいと感じていたので、どうにか映画には“夜”と“朝”を導入できないかと考えていました。そこでプラネタリウムに関する設定やシーンを加えることにしたんです」と補足。「小説は藤沢さんと山添くんがの視点(=一人称)で書かれています。ですが、彼らを特別視するのではなく、周囲にいる人々も同様に重要な人間であるという考えから、もう少し引いた位置からこの世界を見たいと思って、脚本を作り上げました」と続けた。

(左から)三宅唱、和田清人、Hi'Spec
(左から)三宅唱、和田清人、Hi'Spec

作品にマッチした音楽のスタイルについては、Hi'Specが「映像を見る前に三宅さんと会話をして、一番最初に流れてくる音楽を作りました。その時に“寄り添う音楽”というイメージが湧き、そこからスタイルが決まっていったんです」と明かすと、“音の設計”について話題が及んだ。

三宅監督「登場人物たちは、最初“体の内側”の問題について思い悩んでいるわけですが、それが働くようになると、同僚と出会ったり、プラネタリウムや宇宙のことを知ったりと、どんどんと世界が広がっていくわけです。そこで今まで気づいていなかったもの――たとえば遠くから響く電車の音、街中の車の音、鳥の鳴き声に気づき始める。そのように世界が広がっていくようなサウンドの設計を試みています」
画像4

観客からは「とても静かで落ち着いた物語。人間関係は複雑なのに激しいやりとりはない。どのようにして複雑な感情を表したのか?」という問いかけがあった。

三宅監督「主人公たちの設定に関わると思います。あの2人はPMSやパニック障害によって“大変な事”が起きてしまうわけです。でも、なるべく“大変な事”が起きてほしくないと願って生きています。ですから、何も起きなければいいと考えて生きている人たちの物語であることが重要です。いわゆる障害があったり、敵がいたり、恋愛の駆け引きを求めるのではなく、何も起きず、毎日を幸せに過ごすことが目標となる物語だと考えていました」
画像5(C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

続けて「人物のクローズアップが少なく、全体をとらえた撮影手法が多かったのですが、この意図は? そして“光”が印象的ですが、この意味も教えてください」と質問が飛んだ。

三宅監督「カットバックの少なさについて――カットバックは、同じ場所にいる人物を“切り分ける”ということですよね。まずそれをしたくないと思いました。この物語を撮るうえで重要だと考えたのは、同じ場所にいる異質の身体の2人がどうやって共にいるかをとらえること。なので、藤沢さんと山添くんが2人でいる時は、同じフレームでとらえ続けるというアプローチを試みていたんです。“光”の表現についてですが、映画の“光”は大抵登場人物の心情を説明するように作るのが一般的な考え方。この映画では、一般的な考え方を半分、残りの半分を登場人物の心情とは全く関係のない“光”にすることにしたんです。人間の心と関係が無く存在している宇宙の働きを表現しようと、照明部と話し合っていました」
画像6(C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

観客からの質問を受けて、藤沢さんと山添くんが務める会社「栗田科学」のドキュメンタリーを作ろうとする2人の中学生(放送部)、そして“にわとり”の登場理由についても言及していく。

三宅監督「小説では藤沢さんと山添くんが一番年下の登場人物なんです。そのままの設定で映画にしてしまうと、青春映画のようになってしまう可能性がありました。ですが、この映画は先程も話したように“働くこと”についての映画にしたいという思いがありました。働く前の段階――つまり学生が出てくることによって、主人公たちが“働いている人間”であることを際立たせられるかなと考えました。“にわとり”の登場については、タイトルが大きく関わっています。タイトルに“すべて”とあるので、なるべく色々な登場人物を書いていたんですが、ある時『人間しかいない』と思ったんですね。だから動物が会社にいるといいのではないかと思ったんです。『ヤギがいいかな?』等々、色んなことを考えたんですが、最終的ににわとりに落ち着きました」
画像7(C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会
画像8(C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

最後の質問は、松村と上白石の起用にまつわるもの。松村は「すずめの戸締まり」、上白石は「君の名は。」「天気の子」とそれぞれに“声優経験”があるが「それは決め手のひとつになったのか?」という内容だ。三宅監督は「キャストに関してはプロデューサーのアイデア。それに対して素晴らしい提案だと思ったので、すぐに賛成しました」と前置きしつつ、次のように語った。

三宅監督「声優の経験はそこまで重要視してはいなかったんですが、本人たちと直接お会いして、シナリオについて話している時に『この2人、やっぱりめちゃくちゃ“良い声”だな』と感じたんです。なので、和田さんに『もっとセリフ増やしましょう』と提案したり、撮影中も『よし、ここはナレーションを足そう』と考えていて。『2人の“声”を聞きたい』と思いながら、映画を作っていました」
観客に配布された鑑賞特典
観客に配布された鑑賞特典

AFAの授賞式は、香港・西九龍(ウエストカオルーン)文化地区の戯曲センター(Xiqu Centre)にて、3月16日に開催。

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