カトリーヌ・ドヌーブが日本で妖怪に!? 高崎で撮影した映画がフランスで高評価、異国の地で新境地に挑む大女優【パリ発コラム】
2025年3月13日 09:00

昨年の東京国際映画祭でプレミア上映されたエリック・クー監督の新作「Spirit World」が、フランスで劇場公開された。クー監督が、「フランスのレジェンド」カトリーヌ・ドヌーブをはじめ、堺正章、竹野内豊、風吹ジュンらを迎え、高崎で撮影した作品だ。もっとも、そのフランス語題名は、「Yōkai – le monde des esprits(妖怪 魂の世界)」。フランスはもっぱら日本ブームで、最近は日本語をそのまま使用することも流行っているため、「ファントム」ではなくあえて「妖怪」にしたのかもしれないが、日本人だったらフランスの大女優が出演する映画のネーミングとしては思い付かないであろうことを考えると、可笑しい。
もちろん本作は、ドヌーブがSFXで妖怪に変化するわけではなく、リアルな描写によるしっとりと味わい深いドラマだ。かつて娘がいたものの、いまは天涯孤独でペットすら失ったフランス人歌手のクレアは、生きる情熱を失っていた。なんとか最後の日本公演を予定通り終えるが、居酒屋でひとり飲みをしている最中に倒れ、そのまま他界。しかし肉体から魂が抜け出し、やがて彼女は、やはり魂となって彷徨っている彼女の長年のファン、ユウゾウ(堺)に出会い、彼と疎遠だった息子(竹野内)のことを知る。
(C)lchampoussin彷徨う魂は映画のなかで自然な人間の姿として描写されているが、生きている者に彼らのことは見えない。しかし魂たちは、かつて大切な人であった家族を、守護霊のように優しく見守る。そんな魂に接し、クレアもまた心の安らぎをもたらされ、「たったひとり日本で死ぬのも、まんざら悪くないわね」と呟く。クー監督は、魂に対する日本的な考え方を理解しつつ、失った者を悼む気持ち、親子の確執や絆、孤独、悔恨といった普遍的なテーマを取り上げ、観る者の心に優しく語りかける。
フランスでは高い評価を受け、プレスの星取りは5点満点中3,7(映画サイトallocinéより)。ふだんは辛口のリベラシオン紙やレザンロックプティブル誌も4つ星を付け、「感動的で詩的な寓話」(レザンロックプティブル)、「穏やかでいてユーモラス、厳しくも温かい、超越したドヌーブの演技に負うところが大きい」と評している。
たしかにドヌーブの存在感は素晴らしい。飄々としたところがありつつも、孤独の辛さを滲ませ、ふっと官能的になるかと思えば母性的な優しさを醸し出したりもする。何よりそのチャレンジ精神は、2019年に軽度の脳卒中による入院を経験した後も変わらず、異国の地で「魂」を演じるという、まったく新しい体験に身を投じたことに感銘を受けずにはいられない。
(C)lchampoussinプレス資料にあるインタビューで彼女は、「コー監督のことはこれまで知りませんでしたが、彼と日本に行って撮影すること、日本に長く滞在して日本の俳優たちと仕事をすることにとても好奇心を持ちました。スタッフは日本の方とシンガポールの方が混ざっていましたが、みなさん素晴らしかった。とくに日本人のセットデザイナーは大変才能のある方だと思いました。現場は穏やかでありながら熱意があり魅惑的でした。とても楽しい思い出となりました」と振り返り、役作りについては、「魂ですから、どこか曖昧で穏やかで雲のような感じにしたいと思い、声の調子や演技もそれを意識しました」と語っている。
最近、ヴィム・ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」(2023)や、エリーズ・ジラール監督の「不思議の国のシドニ」(2024)など、海外の監督が日本の文化をテーマにした作品が続いているが、日本人では思いつかないような切り口や大胆さをもって、我々の琴線に触れるような作品を作り上げているのに感心させられる。(佐藤久理子)
執筆者紹介
佐藤久理子 (さとう・くりこ)
パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato
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