下北沢「LADY JANE」4月13日に50年4カ月の歴史に幕 “街は人と共に生きる”オーナー・大木雄高さんに聞く
2025年3月8日 11:00

俳優・松田優作ら多くの文化人に愛され、映画やドラマのロケにも度々使用された東京・下北沢のジャズバー「LADY JANE(レディ・ジェーン)」が、4月13日で50年4カ月の歴史に幕を下ろす。本多劇場グループ、下北沢ロフトと共に”サブカルチャーの街”を形成してきた店らしく、4月17日~20日には下北沢のザ・スズナリで「破の刻 終幕式」と題したライブを行い、中村達也、坂田明、ジム・オルーク、小泉今日子らゆかりのミュージシャン・俳優たちが参加する。(取材・文/中山治美、構成/大塚史貴)
2003年に始まった下北沢駅周辺の再開発。「LADY JANE」のオーナー・大木雄高さんは、住民に十分な説明もなく進められる再開発に異を唱え、反対運動の急先鋒として奔走。「SHIMOKITA VOICE」と題したプロジェクトで行政・民間・住民が”下北らしさ”を生かす街づくりを考える場を設けたり、街の変遷をとらえたドキュメンタリー「下北沢で生きる SHIMOKITA2003 TO 2014」も制作。その結果完成した線線路跡地を利用した「下北線路街」など住民の声を取り入れた再開発は、他の地域からも注目される存在になった。

それだけに同店閉店のニュースは衝撃が大きい。理由は、建物の賃貸契約を結んでいたオーナーが世代交代し、更新が認められず、退去を命じられたため。場所を移転して継続を望む声もあるが、大木さんは「50年築きあげたこの環境は、金をどれだけ積まれても他の場所で生まれようがない」と、悔しさを滲ませつつ、今の店を閉じることを決めたという。
「LADY JANE」は1975年1月にオープン。当時、小劇団を主宰し、映画や音楽にも精通していた大木さんが、新宿のゴールデン街よろしく”文化人が「論」と「論」を戦わせる場を”と、あえて下北沢駅の喧騒から離れた場所に店を設けた。資金がないため、内装は知人の舞台美術家たちに依頼。そのうちの一人が、ポール・シュレイダー監督映画「Mishima: A Life in Four Chapters」(85)の美術を担当した大野泰さん。金銭の代わりにメシと酒の提供を条件に快諾してくれたという。ウッディな内装と天井に貼られた映画や演劇のポスターは、50年の歳月と客たちが燻らせたタバコの煙で、熟成された大人の秘密基地のようだ。
思い出は尽きない。初めて映画のロケに使用されたのは、根岸季衣・吉行和子・長谷川泰子が自分自身を演じるオムニバス映画「眠れ蜜」(76)。長谷川は、根岸吉太郎監督「ゆきてかへらぬ」(公開中)で詩人・中原中也の運命の人として広瀬すずが演じて再脚光を浴びている。「実際は映画よりももっと、もっと激しい交友関係でしたから。『眠れ蜜』出演当時彼女は70代。彼女にとっては人生を回顧する映画だったんじゃないんですか」(大木さん)。

ドラマ「北の国から」シリーズでは店のマッチが使用されて話題に。連続ドラマ第6話で、喫茶店で雪子(竹下景子)と井関(村井国夫)が別れ話をするシーンで登場する。「(演出の一人だった)山田良明が常連だったから使ったのかな。マッチをアップにするもんだから、妙に話題になっちゃった」(大木さん)。
大木さんの影響か、娘の真琴さんは映画プロデューサーとして活躍中。夫でもある五十嵐耕平監督と映画「泳ぎすぎた夜」(18)、「SUPER HAPPY FOREVER」(24)などを発表。サンセバスチャンやベネチアをはじめとする国際映画祭でも高評価を得て、世界が注目する存在となっている。「大学を出てもふらふらしていたから”もう一回勉強し直せ”と東京藝大大学院映像研究科を薦めたら、五十嵐耕平と出会って。それにしても『SUPER HAPPY FOREVER』があんなにロングラン上映になるとはなぁ」(大木さん)

日本のカルチャー史にも確実に足跡を残す50年の歴史に、背を向けるつもりはないという。閉店後はアトリエを設けて「LADY JANE」で集めたLPや銘酒たちを保管しつつ、文筆家として50年史を綴る予定だ。アトリエの場所は、もちろんシモキタだ。ココで街の変遷を見守り続けるという。
大木さんは「そうじゃないと、今までやってきたことは何だった!? となってしまうでしょ。街というのは、(大手ゼネコンや行政が)勝手に造っていくようなところが多いけど、”そうあってはならぬ”というのがSHIMOKITA VOICEであり、下北沢の再開発に対する異論だった。”街は人と共に生きる”ということを、これからもシモキタから発信し続けていきたい」と語気を強めた。
歌手・中島みゆきが同店を歌った曲「LADY JANE」の中にはこんな歌詞がある。♪脛に傷ありそうなマスターはいつも怒ってる 何かを怒ってる、と。LADY JANEが終わりを迎えようと、大木さんの社会に対する怒りが続くかぎり、その精神は生き続けるに違いない。
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