第97回アカデミー賞の受賞予想 よしひろまさみちさんが主要6部門を考察
2025年3月1日 13:00
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第97回アカデミー賞の授賞式が3月2日(現地時間)に米ハリウッドのドルビー・シアターで行われます。昨年は山崎貴監督作「ゴジラ-1.0」が視覚効果賞に輝く快挙を成し遂げるなど、日本映画が3部門を受賞して大きな話題を呼びましたが、今年も日本の作品が3部門に名を連ねています。そして、気になる主要部門はどのような展開を見せるのでしょうか……。映画.comでは、3人の映画ジャーナリストに主要6部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞)の受賞を予想してもらいました。今回は映画ジャーナリスト・よしひろまさみちさんの予想をご紹介します。
昨年の“オッペンハイマー祭り”と同数ノミネートされた作品もあれど、今年は大混戦決定。というよりも一つの作品が過大に評価されるよりも健全な賞レースなのかもしれない。というのも、どの候補もオスカーノミニーになるだけの素晴らしい仕事だったのだが、頭一つ抜けて「これ」といった決め手に欠いた本命なきレースとなる。
多部門受賞の可能性がある作品はいくつかあるが、それぞれ問題が多い。最多ノミニーの「エミリア・ペレス」は、助演女優のゾーイ・サルダナはほぼ当確とはいえ、麻薬戦争の被害者団体やトランスジェンダーコミュニティをはじめとするラテンアメリカでの批判と主演カルラ・ソフィア・ガスコンのスキャンダルがネガティブに響き、ノミネート投票終了後から評価は急低下。興行的大成功を収めている「ウィキッド ふたりの魔女」は2部作の前編だけに、後編で祭りにしようという気運が。例年ならばオスカー向きとされる純文学ならぬ純シネマな「ブルータリスト」は、あまりの冗長さと賞狙い見え見えの作りに辟易する層も。となると、PGA、DGAを制している「ANORA アノーラ」が最有力で作品賞と監督賞のW受賞の可能性は高くなるが、俳優賞では他の作品に、と票が流れることも考えられる。
この部門でもっとも影響の大きい前哨戦PGAを制した「ANORA」がフロントランナーとなる。対抗馬となるのは「ブルータリスト」。10年代までだったら、作品の規模感、テーマ、物語からいっても「ブルータリスト」がもっとも票を集めやすい作品だったが、オスカー会員の多様化が進んだ今、この作品への評価は過大にされることがないのでは? また、「ANORA」は他の候補作と比べて圧倒的低予算(600万ドル)で、ほぼ無名のキャスト陣、オリジナルの脚本、マイノリティ(女性とセックスワーカー)に対するリスペクトなど、他の候補とは一線を画するオリジナリティがある。また、この部門で強いとされる伝記・実話ベース映画は「名もなき者」「I'm Still Here」「ニッケル・ボーイズ」があるが、どれも飛び抜けた評価がなく、フィクションの「ANORA」「教皇選挙」の物語構築の巧さが評価されるでは。
この部門で最重要前哨戦DGAを制したショーン・ベイカー一択。監督自身の脚本で、セックスワーカーや社会的弱者のコミュニティに焦点を当て続けてきたベイカーにとって、「ANORA」は集大成的な作品だけに、カンヌ映画祭でのパルムドールから独走。DGA以前からこの部門は彼への注目が高かった。対抗馬は1月まではジャック・オーディアールだったが、ネガティブなニュースが続いたことで失速。この中で唯一、オスカー主要候補の経験があるジェームズ・マンゴールドをはじめ、ブラディ・コーベットやコラリー・ファルジャは本部門初ノミネートだけでも栄誉、という流れができつつある。
俳優賞はSAGの結果によって変わりそうだが、最有力は近年のオスカーロビーで力を見せているA24配給「ブルータリスト」のエイドリアン・ブロディ。だが、近年叫ばれ続けている“白すぎるオスカー”問題のバランスをとるとしたらこの部門しかなく、実話ベースで熱演が高評価で、同じA24配給「SING SING」のコールマン・ドミンゴに票が流れる可能性も高い。ティモシー・シャラメとセバスチャン・スタンは、今回の候補作がベストとは言い難く、今後に期待という意味でのノミニーになるのでは。ダークホースはアンサンブルでの圧倒的高評価を持つ「教皇選挙」の座長レイフ・ファインズ。だが、あくまでアンサンブル芝居での高評価が続いているだけに、単体での受賞となるとかなり弱い。
1月まではトランスジェンダー女性俳優で初ノミニーとなったカルラ・ソフィア・ガスコン一択だったが、彼女自身のスキャンダルによってオスカーキャンペーンから離脱。次点は「ANORA」のマイキー・マディソンなので、そのままゴールとなるかもしれないが、ここで取らずにいつ取るという「サブスタンス」のデミ・ムーアが功労賞扱いになり一騎打ち。マイキー・マディソンは開発から監督と二人三脚をした「ANORA」での経験で、今後俳優だけでない活躍が期待されるだけに、大本山オスカー初候補&初受賞は逃すのでは? ただし、急進成長中の配給会社MUBIが、オスカーロビーに長けたユニバーサル(「ウィキッド」)やNEON(「ANORA」)にまさるエサをまけているのかは不明。
主要賞で一番の混戦部門となる。最有力はオスカー初ノミネートながら、お茶の間人気指標となるエミー賞で主演男優賞を獲得している「リアル・ペイン」のキーラン・カルキン。順当な対抗馬は「アプレンティス」でロイ・コーンを演じたジェレミー・ストロングだ。第二期トランプ政権が始まり、カルチャーシーンからありとあらゆるトランプへの批判と意見が上がっている中だけに、今のトランプと我欲を許す現代社会を創った男を演じた彼にも評価が集まる可能性が。となると、彼と同クラスのキャリアを持っているガイ・ピアース、エドワード・ノートンも横並びになるうえに、この部門は新人や初ノミニーに大きなチャンスがあることも忘れてはならない。
ゾーイ・サルダナ一択。前哨戦からフロントランナーとなっているだけでなく、1月までは最多受賞も夢ではなかった「エミリア・ペレス」において、彼女への評価はゆらぎがない。むしろ同作は、他で候補になっている部門では取りこぼす可能性が非常に高いため、彼女へのオスカーはほぼ確定といっていい。順当な対抗馬はウザかわいいグリンダを演じたアリアナ・グランデだが、大ヒットした今回のミニーの前編の勢いをそのままに、後編での受賞が約束されている。となると、ニューカマーのモニカ・バルバロと大ベテランのイザベラ・ロッセリーニにもチャンスが。
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