デビッド・リンチを偲び、「ツイン・ピークス」の謎解きについてひとつだけ【映画.com編集長コラム】
2025年2月20日 09:00

デビッド・リンチが亡くなった2025年1月15日、私はテキサス州オースティンにいました。映画とはまったく関係のない旅の途上、テレビで訃報に接したのですが、アメリカのテレビ局は各局ともけっこうな時間を割いてリンチの訃報を伝えていたのが印象的でした。
映画の業界における私のキャリアは、デビッド・リンチと「ツイン・ピークス」のお世話になった部分がとても大きかった。訃報が出ると、多くの友人や知人から、お悔やみの言葉をかけられました。それから帰国して1カ月経って、じわじわと喪失感がこみ上げてきています。リンチについて、ここで何か書こうとずっと考えていましたが、やはり「ツイン・ピークス」について書こうと。ネタが「ツイン・ピークス」なら、思い出じゃなくて謎解きだろうと。ちょうど2月14日から「ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間」の4K上映も始まってますし。なのでひとつだけ、「ツイン・ピークス」に関するちょっとした謎解きを披露します。
(C)2016 Showtime. All Rights Reserved.映画「ローラ・パーマー最期の7日間」のオープニングは、テレビのブルーノイズ(砂の嵐)のクローズアップです。テレビをハンマーか何かの鈍器でたたく音と、女性の叫び声。次のカットで、テレサ・バンクスが殺害されたと分かります。
「ツイン・ピークス」シリーズのパイロット版(あるいは第1話)を思い出しましょう。ローラ・パーマーの死体が浜辺に上がった直後、ローラの家では母サラ・パーマーが2階に上がってローラの部屋に様子を見に行きます。ローラの部屋のドアの外、階段室の天井にはファンが回転しています。カメラは回転するファンにクローズアップします。

天井ファンとテレビ画面のクローズアップ。これらは、ローラの父リーランドに憑依したキラー・ボブが殺人を犯すアクションと繋がっています。つまり、ボブの「通り道」が、電気(電線)を経由していることを示したシークエンスだと解釈することが可能です。
そう。リンチ作品では「電気」「電線」に関するシークエンスがとても重要なので、見逃さないようにしてください。
「ローラ・パーマー最期の7日間」では、他にも、デビッド・ボウイ演じるフィリップ・ジェフリーズ捜査官が、エレベーターから現れ、ゴードンのオフィスでしばらく滞在した後に忽然と消えます。消えた後には、電柱と電線のカットがインサート。さらに「彼は、(FBIの)受付を通っていません」という報告も。フィリップ・ジェフリーズ捜査官もまた、電気(電線とかエレベーター)を伝ってフィラデルフィアのゴードンのオフィスに現れ、電線を通って消えたと推測できます。

こんな具合に、リンチ作品における「スピリチュアルなキャラクター」は、電線を使ってワープするという特徴があります。「ツイン・ピークス The Return」におけるクーパー/ダギーは、壁のコンセントからにゅるにゅると現れるという極端な描写もありました。
是非、「ツイン・ピークス」のすべてのシリーズを通して、電気と電線に大注目してご覧になってください。他のリンチ作品でも同様の特徴があるかも知れません。
(C)1992 Twin Peaks productions. All Rights Reserved.なにを隠そう私は、2014年ぐらいから個人的に「TWIN PEAKS JAPAN」というWebサイトとTwitter(現在のX)アカウントを開設して、「ツイン・ピークス」に関する情報を徒然なるままに発信しています。2017年に「Twin Peaks the Return」が全米で放映された時には、毎週のSHOWTIMEでのエピソードをストリーミング視聴して、ネタバレ解説を誰よりも早くアップしていました。
この、電気(と火)に関する考察も、TWIN PEAKS JAPANで既出の内容です。もっとディープな「デビッド・リンチの統一場」という解説も披露していますので、最近「ツイン・ピークス」にハマった人や、昔ハマった経験があって、またリピートして楽しんでいる方のご参考になれば幸いです。
それにしても、リンチ本人が亡くなってしまったので、もう謎解きの答合わせはできません。新たな謎を提示されることもありません。とても残念ですね。ただ、遺された作品を楽しむのみです。
デビッド・リンチ、フォーエバー。ツイン・ピークス、フォーエバー。
執筆者紹介
駒井尚文 (こまいなおふみ)
1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
KILL 超覚醒
【面白すぎてヤバい映画】世界中の観客が熱狂・発狂し、配給会社が争奪戦を繰り広げた“超刺激作”
提供:松竹
ズートピア2
【質問:すみません、今年の冬、どの映画を観たらいいですか?】答え:私は「ズートピア2」を絶対に観ますね!!
提供:ディズニー
人生にぶっ刺さる一本
人生に迷ったとき、この映画が“効く”だろう。すべての瞬間が魂に突き刺さる体験が待っている
提供:ディズニー
ブルーボーイ事件
【日本で実際に起きた“衝撃事件”を映画化】鑑賞後、あなたは“幸せ”の本当の意味を知る――
提供:KDDI
プレデター バッドランド
【ヤバすぎる世界へようこそ】“最弱”ד下半身を失ったアンドロイド”=非常識なまでの“面白さと感動”
提供:ディズニー
てっぺんの向こうにあなたがいる
【世界が絶賛の日本映画、ついに公開】“胸に響く感動”に賞賛続々…きっとあなたの“大切な1本”になる
提供:キノフィルムズ