実写「【推しの子】」プロデューサー&宣伝プロデューサーが明かす収獲と課題
2025年1月30日 18:00
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赤坂アカ(原作)と横槍メンゴ(作画)による大ヒットコミック「【推しの子】」の実写映像化プロジェクトが発表されたのが、2024年1月。Amazonと東映がタッグを組んだ今作の製作に携わったスタッフが、疾風怒濤の1年間を過ごしたことは想像に難くない。東映に同期として入社した企画・プロデュースの井元隆佑氏、宣伝プロデューサーの寺嶋将吾氏は映画が封切られて約1カ月が経過したいま、何を思うのか話を聞いた。
「【推しの子】」の実写映像化プロジェクトは、24年11月28日からAmazon Prime Videoでドラマシリーズ「【推しの子】」第1~6話が世界独占配信を開始。12月5日午後9時には第7~8話が同様に配信された。そして映画「【推しの子】 The Final Act」は、12月20日に全国363館で公開された。
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社会現象化するほどの人気原作だけに、映像化に関して必ずしも全方位で歓迎ムードだったわけではない。だが、原作へのリスペクトを貫いた製作サイドの姿勢は作品の至るところに反映され、ドラマシリーズの評価は、日本のAmazonオリジナル作品で配信後30日間における歴代1位の国内視聴数を記録するほどに高かった。
井元「劇場公開から1カ月が経過し、世の中の反応に嬉しいと思う部分と、その反面でもう少しこうすれば良かった…と考える点はもちろんあります。ただ、これから海外での公開を控えていますので、このプロジェクトは現在進行中なんです。Amazonさんと組んだことでドラマシリーズは既に世界200カ国で配信されています。映画はこれから世界51カ国(24年12月25日時点)での公開が予定されていますので、各国のお客様にどう見ていただけるかを考えているところ。まだまだ『ing』なんです」
寺嶋「会社としても新しい取り組みとなりました。Amazonさんとタッグを組み、ドラマの部分も含めた宣伝を構築していきましたし、音楽要素が強い作品でもあるので音楽をどう売っていくのかも同時に考えていきました。また、SNSでどこまで細かく宣伝展開ができるかも含めて挑戦的なことばかりでした。プロジェクトとしては現在も『ing』で進んでいますが、人気原作の実写化が難しいと非難されやすいなかで、どう作り手の思いを間違えず、誠実にお客様に届けていくのかという点において、宣伝としてはひとつやり切った感はあります」
実写化プロジェクトが発表された際、原作は連載中。クライマックスへ向かうなかで、原作サイド、版元サイド(集英社)、Amazonサイドと連携しながら製作を進めるのは、口で言うほど簡単なことではない。相当な信頼関係を構築してきたからこそ、企画が結実したといっても過言ではないだろう。ふたりが大きな“渦”の中で奮闘するうえで得た手応え、そして次に繋げるべき課題がどのようなものであったか聞いてみた。
井元「スミス監督と松本花奈監督という、MVも手がけてきた方々と一緒に作ると、絶対に面白くなるだろうなという仮説のもとにチームを集めていったんです。Amazonさんの配信ドラマと劇場公開する映画を連動する展開で、というのはコンペ段階から僕の中では固まっていました。それを北川亜矢子さんとしっかり脚本に落とし込みました。きちんとモノ作りに向き合えた手応えはあります」
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井元「これまでは、プロデューサーとして脚本作りが主の仕事でした。ついつい脚本に書き過ぎちゃうというか、ト書きに指定を加え過ぎていたんです。いつも監督に脚本というラブレターを渡す側だったわけですが、指定し過ぎてがんじがらめの脚本を渡しちゃっていたんだなと気づかされました。
今回、自分が監督として現場で脚本を開いて段取りをしてみたとき、『このト書き邪魔だな』『このト書きが役者の芝居の邪魔をしてしまっている』『美術部の考えを狭めてしまっている』と感じたタイミングがありました。この点は今後の脚本づくりに生かせるなと。このことを東映東京撮影所の木次谷良助所長に話したら、木村大作さんも現場でト書きを削っていたのを見たという話を聞かせてくれました」
寺嶋「今回は井元が同期ということもあり、だいぶ早くから現場に入り製作サイドの思いを肌で感じ、プロデューサーと一緒に話しながらやれたことは大きかったです。今まではプロデューサーや監督が先にいるので、その思いを尊重していましたが、今回は同じ目線に立って一緒にやれました。宣伝と製作が一体になってやれたというのは大きな収穫です。
また、映画の枠を超えて如何にプロジェクトとして売っていくのかという経験はありませんでした。映画宣伝をしていくうえで、SNSをどう使っていくかは各社の宣伝マンが悩んでいると思いますが、その中で登録者数や再生回数という面でいえば自分たちが設定していた目標値ははるかに超えることができました。ただ反省点としては、もう少し興行に繋げたかった。まだ興行が終わっていませんし、どこに原因があったのかお話しできるタイミングではありませんが、きちんと分析して次に繋げられるようにしなければなりません」
井元「YouTubeは劇中で描かれていたこともあり、かなり早いタイミングで登録者数10万人を設定していました。そのなかで、総再生数が9000万を超えて来ていて、1億を突破しそうなんです。実写作品で、こういう数字はなかなか出てきません。
ただ、僕は結構暴れました(笑)。YouTubeとして、本気で番組を1本作るような規模で展開したかったので、何とか本編撮影中に撮りたいと。役が1回抜けると大変だから、というのが理由だったのですが、実現するためのスケジュール調整も大変で、宣伝チームには苦労をかけました」
寺嶋「宣伝チームも現場からフル稼働でした(笑)。YouTube・SNSの企画立案、各事務所様への説明であったり、スケジュールをどう切るのかという作業はもちろん、メイキングとは別に自分たちで縦型動画を撮ってほしいと井元から要望がありましたので……。そういう意味でも、一緒に並走している感じでした。とにかく撮っておけば、後々どうにかなるじゃないですか。欲しい時に素材がないというのが一番困るので」
井元「現場のメイキングカメラを普通に回して後から縦型にすればいいというのではなく、最初からスマホの縦型で撮らないと伝わらないものなんです。それで、宣伝部が一緒に現場で走ってくれているのだから、常に縦でも撮ってほしいとリクエストさせてもらいました」
劇場公開日が、原作最終巻の発売日の翌々日という点も見逃せない。関係各所とのコミュニケーションが円滑にいかないと、どこかのタイミングで破綻しても不思議ではないほどにセンシティブだ。だが、それ以上にふたりを悩ませたのは別の問題だった。
井元「2年前のコンペの段階から、原作と共にあるべきだと提案してきたので、脚本もチェックして欲しいとお願いいました。ただ、そういったなかで世の中では原作者と製作サイドの関係に疑問を投げかける流れが出てきました。【推しの子】もそうなんじゃないの? という目で見られてしまうのがしんどかったです。赤坂先生や横槍先生からいただいたコメントにもありましたが、信頼関係のもとにプロジェクトを進められていただけに、心がギュッとなった瞬間は確かにありました」
寺嶋「課題は、それをどう世の中に伝えるかということでした。ちゃんと向き合っている人がいるのに、言葉を間違えてしまうと頑張っている人が報われない。むしろ批判されてしまう世の中です。一方で、誠実にやっているって、大袈裟に言うことでもないと思うんです。当然のことですから。だから、【推しの子】の実写にトライしていることも含めて、いかにフィルターがかからずにお客様に届けられるか。今作は製作委員会方式ではなく、東映が原作の先生方や版元の集英社さんにも誠実に向き合ったうえで、いかに面白がってもらえるかを考え、心がけていました」
本編を観れば、両者が口にする「原作へのリスペクト」「誠実に作品の魅力を届ける」ということに、どれほど注力してきたかが伝わってくるはずだ。映画は、原作ファンだけでなく初見の人でも楽しめるよう巧みに構成されている。製作、宣伝と立場は違えど、ふたりが最も気を配ったのはどこにあるのだろうか。
井元「まず音楽の部分です。曲がなんとなく耳に入って、意外と良さそうだなと思ってYouTubeを開いたらアイドルのライブをやっていて…みたいなところから間口を広げていきました。ドラマシリーズでは主題歌を8組の豪華なアーティストに参加して頂いたのも狙いでした。構成面でいうと、転生ものはキャラクターへの感情移入がハードルだと感じていたので、登場人物を中心人物だけ(アイ、アクア、ルビー、カミキ)に絞って、映画では原作の1巻と最終巻を描くイメージでいました。お客様がどこから来ても楽しめるように意識しましたし、敷居を低くして観ようと思っていなかったとしても、音楽が耳に入ったり、SNSで流れてきた動画を見たりしたところからスタートしてもらえたらという意識はありました」
寺嶋「製作された配信ドラマと映画に関して、宣伝としてどこでどういう情報を出していくのか、時代の流れに合わせて柔軟に対応していかないと、これからの宣伝は難しいなと感じました。プロデューサーと並走し、どう打ち出していくのかを一緒に考えていかないと、ひとつの言葉や文章、映像の見せ方によって真逆の捉え方をされてしまう世の中。あらゆることを先読みしていかないと、思いが伝わらないということが身に染みました。いかにお客様に伝えていくか、真剣に向き合っていかないといけないんだと改めて考えましたし、今後も突き詰めていくべきだと思っています」
冒頭でも触れたように、「【推しの子】 The Final Act」は世界51カ国で公開を控えているほか、日本国内でも公開中。ドラマ、映画とも作品としてクオリティが高く、その評価は興収や動員だけで推し量れるものではない。今後は応援上映や一気見上映などが開催される可能性もあるだろう。そんなとき、キャスト陣の頑張りと共に製作、宣伝の両翼を担った2人の真摯な仕事ぶりに意識を向けてみるのも一興だ。
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