【「ペパーミントソーダ」評論】ありとあらゆる“可愛い”が詰まっている思春期ムービー
2024年12月22日 14:00
13歳のアンヌ(エレオノール・クラーワイン)と15歳のフレデリック(オディール・ミシェル)。パリのリセに通う姉妹が1963年の夏休みの終わりから次の夏休みの始まりまでに体験した出来事が、日記のページをめくるようにつづられていく。ラジオから流れるのは、クリフ・リチャードの歌声やエディット・ピアフの葬儀のニュース。さらに、シルビー・バルタンのフレンチ・ポップス、ツイスト、映画「大脱走」、コカコーラの1リットル瓶など、劇中には60年代当時のポップカルチャーがちりばめられ、目も心も楽しませてくれる。
とはいえ、ちりばめられているのはポップなものばかりではない。リセの始業式の場面にアルジェリアからの転校生のエピソードが登場するのを手始めに、アルジェリア戦争の影と、それに伴う右派と左派の対立の空気が、学校の描写にも家庭の描写にも漂っている。とくに強い印象を残すのは、歴史の授業中、警察が左派のデモ隊を暴力で制圧し死傷させた事件について、フレデリックのクラスメートが生々しく語る場面。当時の中高生の間に、5年後の五月革命にいたる気運がふつふつと芽生えていたことを、ディアーヌ・キュリス監督はさり気なく伝えている。
もちろん、国も時代も超えた普遍的な思春期ムービーとしても、この映画は魅力たっぷりだ。とりわけ興味深いのは、13歳のアンヌと15歳のフレデリックでは、「大人になる」の意味が大きく異なる点。初潮を迎え、母にストッキングをねだり、カフェでツンとするペパーミントソーダを注文するアンヌにとって、大人になるとは背伸びをすることだ。一方、同年代のボーイフレンドとの恋愛から政治運動へ関心を移し、友人関係まで変化させていくフレデリックにとって、大人になるとは文字通り精神的な成長を意味する。
その成長を、妹アンヌの視点から描いているのは、他の思春期ムービーとは一味違うこの映画の特徴だろう。オープニングのタイトルバックには、「まだオレンジ色のセーターを返してくれない姉へ」という献辞が字幕で表示されるが、それは、「成長をずっとそばで見ていたよ」というキュリス監督から姉へのメッセージのように感じられる。そんな姉妹の親密な関係もキュートに思えるこの映画には、ありとあらゆる「可愛い」が詰まっている。
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