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ニューヨーク公演を大成功させた「進撃の巨人」-the Musical-のエレン役、岡宮来夢が次に見る夢は? 【若林ゆり 舞台.com】

2024年12月18日 10:00

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岡宮来夢がニューヨーク公演を語る「不安が消えたのは、初日の幕が開いた瞬間」
岡宮来夢がニューヨーク公演を語る「不安が消えたのは、初日の幕が開いた瞬間」
撮影:若林ゆり ヘアメイク:田中紫央 スタイリスト:ホカリキュウ

日本が世界に誇るポップ・カルチャーといえば、漫画、そしてアニメ。世界中どこへ行っても、日本の漫画、アニメに熱狂するオタクたちがいる。だから、2次元世界のキャラクターを生身の俳優たちが舞台上に再現する「2.5次元」こそ、世界に見せるべきだ。ずっとそう思っていた。そしてついに、ミュージカルの本場であるニューヨークで、10月に日本発2.5次元ミュージカルの上演が実現! 快挙を成し遂げたのがこの公演でよかった、と心から思える作品で。言わずと知れた、諫山創氏による傑作漫画「進撃の巨人」のミュージカル版だ。

画像2撮影:Richard Termine (C)I・K/AMPC2024

ニューヨーク公演のチケットは全公演完売、観客を熱狂させ大成功を収めた。理由はいくつもある。原作の素晴らしさはもちろん、世界的なダンサーでもある演出家の植木豪が、超実力派ダンサーや俳優たちの身体能力を生かした驚くべき表現。最新のテクノロジーとアナログな演劇的手法を駆使して創意を凝らした演出。ダイナミックな巨人表現などなど、2.5次元ミュージカルでしかあり得ない、2.5次元ミュージカルだからこそ得られる衝撃と深い感動が、観客の心を鷲づかみにするのだ。

しかし何よりすごいのは、キャスティングの完璧さ。「キャラを忠実に再現する」ことに何よりも重きが置かれる2.5次元だが、本作のキャストは「再現度」と「表現力」が見事なまでに合致。なかでも主役、エレン・イェーガーを演じた岡宮来夢は誰もが納得、賞賛せずにはいられない体現ぶりだ。その名の通り、夢を叶えた岡宮に話を聞いた。

画像3撮影:若林ゆり ヘアメイク:田中紫央 スタイリスト:ホカリキュウ

本作が初演の幕を開けたのは、2023年1月。岡宮は出演が決まったときから、製作陣より「世界に持って行きたい」という野望について聞いていたのだという。

「まだそのときはニューヨークで上演するということが決まっていたわけではないんですが、稽古の顔合わせのときから(植木)豪さんも『世界を、ニューヨークを目指してみんなでがんばっていきたい』とおっしゃっていて。みんなの士気が上がりました。植木さんご自身もそうですけど、キャストにはヒップホップだとかバレエだとか、シルク・ド・ソレイユなど、多岐にわたるジャンルで世界チャンピオンレベルの戦いをしてきたダンサーさんたちがたくさん揃っていますから」
「初演の稽古はまず振付稽古から始まったんですが、まず全員で踊るナンバーの振りを稽古した時点で『これはすごい、世界で戦っている人たちのレベルはハンパない!』と感動して。構成も揃い方もテクニックもですが、とにかくエネルギーがすごいんです。それを肌で感じて『これは実際に世界へ行けるんじゃないか』と、正直、そのときから思っていました」
画像4撮影:Richard Termine (C)I・K/AMPC2024

そしてブロードウェイの近くに位置する劇場(New York City Center)で、実際に公演を行うことに「最初はもう本当にドキドキしたし緊張した」というのも当たり前。

「上演が決まってから、ニューヨークへ下見に行ったのが僕にとって初めての海外旅行だったんです。そこで『Some Like It Hot(原作映画の邦題は『お熱いのがお好き』)』などのミュージカルを観劇して、圧倒されました。言葉はわからない部分もあったんですが、わかる。舞台から放たれているエネルギーはすごいし、客席からのエネルギーもすごくて、『うわぁ、これが本場のエンタテインメントか!』とすごく実感して」
「『ここで僕たちは勝負するのか』と思うと、怖い気持ちもありました。しかも、その真ん中に立つわけですから。観客に『日本のミュージカルってこの程度か、主演がこんなもんか』と思われたらどうしよう。それとも『あの子いいね』『日本のものづくりは、そのクオリティはすごいね』と思ってもらえるのか? 本当に不安でした」
画像5撮影:Richard Termine (C)I・K/AMPC2024

その不安を払いのけ「見てくれ、これが僕たちのジャパニーズ・クオリティだ!」と誇らしい気持ちになれたのは、どのタイミングだったのか?

「ニューヨークへ行ってからも、何もかもがハイクオリティな現場だったので、少しずつ自信はもてていたんです。現地のスタッフさんとのコミュニケーションもうまくいって、僕らの安全をつねに考えてくださっていたので、本当に安心して場当たりを行うことができました。たとえば立体機動装置のワイヤーアクションは、チェックがとてもシビアな中、かなり難易度の高いことをやっているのにまったく危険を感じない。稽古もスムーズで不安なく飛ぶことができて、『日本の技術ってすごいな』と感じることが何度もありました。それでも責任が重大ですし、自分の体調管理を含めて『大丈夫なのか』という不安はなかなかぬぐえなかった」
「不安が消えたのは、初日の幕が開いた瞬間です。客席からすごい歓声が響き渡ったんです。それだけで現場が『うわー』と盛り上がって、『やってやるぞ』という目に変わりましたね。海外でも進撃ファンの熱気はすごいですし、その熱気を感じて僕も『見てくれ!』という気持ちになりました。楽しんでいただけているのが伝わって、本当に、類を見ない経験でした」
画像6撮影:Richard Termine (C)I・K/AMPC2024

それにしても、この原作は日本の漫画史上においても、並び立つ例がないほど深遠で壮大な作品。人間を捕食する巨人との戦いを軸にしたダーク・ファンタジーという衝撃で始まる大胆な展開に巧妙な仕掛けが張りめぐらされ、人間性、人間力、愚かさや強さ、正義とは、道徳とは何かを問いかける。岡宮がのめり込んだのは、「思いもよらない展開で面白いのと同時に、いろいろな感情を揺さぶられるところだった」という。

「読んでいくと『ええーっ!!』の繰り返しすぎて。2周目になると『だからなのか』と腑に落ちるような伏線がたくさんちりばめられているのがわかって、『すごい作品だな』と思いました。最初は巨人対人間だった物語が、だんだんとそれだけではなく、歴史や人種、宗教や差別など、この世界と通ずるような問題提起が見えてくる。巨人が現れることは現実にはないにしても、突如、日常が奪われるということは僕らにも起こりうると思うんです。そういう時に人間としてどう行動できるかというのは、その人の本性が見える部分だとも思います。だからこそ、『自分だったら』とものすごく想像するし、いろいろな共感が生まれる」
「綺麗事だけでは言い表せない、人間の醜いところにも焦点を当てているのが、僕はこの作品のすごさだと思います。たとえば調査兵団のみんなが、巨人ではなく初めて人の命を奪う瞬間。そういう場面での諫山先生の言葉ひとつひとつが、すごく心に刺さる。誰に感情移入するかで受け止め方が変わるのもすごいところです。『進撃の巨人』ファンで観に来てくださるみなさんには、登場人物と同じように苦しくなってもらいたいし、とんでもない敵に立ち向かってほしい。エレンの言葉を借りるなら『戦え』と。勇気をもらえるような作品になってほしいです」
画像7撮影:Richard Termine (C)I・K/AMPC2024

岡宮自身は、いちばん共感できるキャラクターはコニーなのだという。

「僕はコニーが大好きなんです。多分、僕があの世界にいたら、コニーみたいな立ち位置だと思うから。それか、ジャンみたいな感じかな。コニーの言葉、ジャンの言葉にはすごく共感できるし、全然他人事に思えない。きっと性格的に、自分はエレンではないと思うんですよ。でも、エレンのこともわかる。エレンは強い憎しみや怒りといった感情を抱えているけど、誰かのために動いている『愛の人』であることを大事にしながら演じています。僕は漫画が完結してから演じられたのが本当にありがたかったです。アニメの(声優)梶裕貴さんは、エレンの真意がわからないまま役をつくっていたんだと思うと、すごいなって。僕には難しかっただろうなと思います」
画像8撮影:Richard Termine (C)I・K/AMPC2024

岡宮が俳優として最初のブレイクをしたのは、19年上演の「刀ミュ」ことミュージカル「刀剣乱舞」で鶴丸国永を演じたとき。少年っぽくかわいい容姿とかなりギャップのある、凛々しく澄んだ歌声が評判を呼んだ。それから「王家の紋章」で帝劇のグランド・ミュージカルに進出し、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」ではロミオ役に。グランド・ミュージカルに出ると2.5次元を卒業していく俳優も多いが、岡宮は「そういう住み分けはなくていい」と言う。

「2.5次元もグランド・ミュージカルも、どちらも経験してきて、それぞれの素晴らしさを知っているからこそ、僕はどちらもやっていきたいんです。どちらがいい悪いというのはなく、伝えたいメッセージがある、という意味では同じだと思っています」
画像9撮影:若林ゆり ヘアメイク:田中紫央 スタイリスト:ホカリキュウ

2025年は帝劇が休場に入るため、明治座で上演されるフランス製グランド・ミュージカル「1789-バスティーユの恋人たち-」で4月より主役のロナンを務める。さらに8月からは新川直司氏の漫画をミュージカル化した「四月は君の嘘」にも主演。いずもピッタリの配役だと大きな期待が寄せられている。これまで順調に夢を叶えてきた岡宮が、この先、叶えたい夢とは?

「個人的には声優にも挑戦したくて、新海誠監督の作品に出るのと、ディズニー作品の声優をやるのが夢なんです。だから声を褒めてもらえるとうれしいですね。ストレート・プレイにも挑戦したいし、やはりいつかは『帝劇の0番(センター)に立ちたい』という夢を叶えたい。『1789』は帝劇で上演された作品ですし、この役で夢にまた1歩でも近づけたらいいですね。でも、それより何より、俳優としてオンリーワンでありたい。『この役は来夢にやらせたい』とか『これは来夢くんにしかできないよね』と言ってもらえるように、これからもがんばっていきたいと思います」

進撃の巨人」-the Musical-の日本凱旋公演は12月13日~22日にTOKYO DOME CITY HALLで、25年1月11日~13日に大阪・オリックス劇場で上演される。詳しい情報は公式サイト(https://www.shingeki-musical.com/)で確認できる。また、動画配信サービス・DMM TVでのライブ配信も決定。25年1月13日の午後1時開始の公演(全景映像版、税込2800円)、午後6時開始の公演(スイッチング映像版、税込3800円)が配信される。

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執筆者紹介

若林ゆり (わかばやし・ゆり)

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映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka


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