【上質映画館 諸国漫遊記】TOHOシネマズすすきの/ドルビーシネマ ドルビーが考える最新/最強の映画体験が味わえる
2024年12月11日 18:00
映画を愛する人にとって、テレビやネット動画もいいけれど、やはり映画は映画館で観るものだと考える方は多いだろう。本コラムでは全国の映画館の中から「これは」と思う上質なスクリーンを訪問し、その魅力をお伝えしたい。(取材・撮影・文/ツジキヨシ)
TOHOシネマズすすきの/ドルビーシネマ ドルビーが考える最新/最強の映画体験が味わえる
初回は、北海道は札幌の最新スクリーンを紹介しよう。昨年2023年11月30日にオープンした最新のシネマコンプレックス「TOHOシネマズすすきの」内にある<ドルビーシネマ>仕様のスクリーン10である。
北海道随一の繁華街すすきのといったら、ニッカウヰスキーの巨大看板が名物だが、その看板がそびえるビルの目の前、交差点を挟んだ18階建ての複合商業施設「COCONO SUSUKINO」(ここの すすきの)の5階にあるのが「TOHOシネマズすすきの」だ。
「ドルビーシネマ」は、全国で10スクリーンだけとなる特別な劇場であり、TOHOシネマズすすきのでは、北海道で初めてかつ唯一のものだ。ドルビーシネマとは2018年から日本で普及が始まった高画質・高音質劇場フォーマット。その名の通りドルビーが開発/促進しているもので、IMAXなどと並び映画ファンの中で徐々に認知を高めつつある存在だ。
ドルビー(Dolby)とは正確には「ドルビーラボラトリーズ」という名称で、アメリカ人エンジニア・レイ・ドルビー博士が1965年に立ち上げた技術志向の会社であり、「ドルビーデジタル」などの映画音響、あるいはカセットテープのノイズ除去技術「ドルビーNR」で知られている。ここでドルビーシネマの技術的なおさらいを少ししておこう。
ドルビーシネマの特徴は、大きく3つ。
まず①高画質(ドルビービジョン)。詳細は省くが、ドルビーシネマでは4K解像度・HDR(ハイダイナミックレンジ)対応の専用レーザープロジェクター2台を使い、明るく、しかもコントラスト(画面の明暗)に優れた、色の鮮やかな上映システム「ドルビービジョン」を用いる。
いまの家庭用テレビでは、4K解像度(解像度とは画面の繊細さを示す言葉)と、HDR(ハイ・ダイナミックレンジ)という技術で美しい映像を追求している製品が大半だが、実は現代の映画館で4K解像度を実現しているケースは多くはなく、HDRに至ってはドルビーシネマだけが対応している。その意味では極めて特別な存在といえるフォーマットである。
ふたつめの特徴は、②高音質(ドルビーアトモス)。一般的な劇場では、スクリーン裏と左右壁面、後方壁面にスピーカーを設置して、音が前後左右から聴こえる、5.1chとか7.1chなど呼ばれる音響システムが採用されている。ドルビーアトモスでは5.1ch/7.1chシステムに加えて天井にもスピーカーを設置、上から客席に向かって音も鳴らすことで、3次元的な立体音響を実現する仕組み。ドルビーアトモスは2012年に開発/誕生、現代では、いわゆるハリウッド大作のほとんどの作品で採用され、「ゴジラ-1.0」など邦画でも採用作品が増えている。ちなみにドルビーアトモスの再生設備がある映画館は全国37ヵ所45スクリーンとなる(2024年11月24日時点、導入発表済を含む)。
③「究極のシアターデザイン」もドルビーシネマの特徴だ。映像と音質の両面でハイスペックな再生方式で上映品位を高めつつ、スクリーンのエントランスから内装、座席までドルビー流のこだわりが横溢した快適性を追求し、それをドルビーでは「究極のシアターデザイン」と呼んでいる。座り心地のよいシートや映画に集中できる環境、ちょっと専門的にいえば、映画音響以外の無駄な音の響きを排した「静けさ」の実現など、一般的なスクリーンとは異なる特別なこだわりが盛り込まれた格好だ。
つまりドルビーシネマとは、要は画質/音質/再生環境の3つの観点で、ドルビーが考える「最強の映画館」を作り上げた、最新のこだわりのスクリーンなのである。
今回の取材は9月の中旬に行なった。東京・羽田から早朝のANA便で新千歳空港に向かい、そこからJRの快速で40分弱で札幌駅に到着。35度を超えていた猛暑の東京とは違い、気温は約25〜26度と秋の気配を感じつつも、寒くはなく、半袖シャツがちょうどいい絶好の気候。2024年夏の猛暑に疲弊し切っていた心が弾む。湿度も低く、かなり過ごしやい。
JR札幌駅から地下鉄南北線で二駅の「さっぽろ」駅に移動する。TOHOシネマズすすきのが入るCOCONO SUSUKINOは、5番出口と直結しているとの説明がホームページにあったので、この出口階段を上がってみた。すると目の前にCOCONO SUSUKINOという真新しいビルが現れ、通りを挟んでかの有名な「ニッカウヰスキー」の看板も飛び込んできた。
COCONO SUSUKINOは、パッと見た感じでは何階建てのビルかわからないほどの大きさであり、いかにも新しく、豪華設備を誇るような立派なビルの威容にたじろぐ。こんな繁華街のど真ん中に、最新のドルビーシネマを作ったのかと思うとちょっと昂奮してくる。雪のときも、地下鉄/地下街からアクセスでき、利便性に優れている。COCONO SUSUKINOは、TOHOシネマズのほかに、スーパー(ダイイチ)やレストランや物販店舗のほか、ホテル(東急ホテル系のサッポロストリームホテル)なども収まる一大スポット。100均ショップやフードコート、レストラン街を横目に、エスカレーターで目的地のある5階に向かう。
TOHOシネマズすすきのがある5階のエントランスは広めのスペースだが、ベンチなどは用意されていない。売店には、「ドリンクステーション」というドリンクバーが導入されていた。映画館にドリンクバーがあるのは珍しいが、TOHOシネマズすすきのは北海道で初めて採用されたものだとか。ドリンクバー単品では450円、ポップコーンMサイズとドリンクバーのセットで890円から。ザ・プレミアム・モルツ マスタードリームビールは900円だった。
受付時間になったので、さっそく入場する。スクリーンへの入場は、最新シネコンらしく、ネット予約時に送信された2次元コードを入口でリーダーにタッチすることで完了。チケット発券は不要だ。スクリーン10へは、エスカレーターで上階フロアに移動する導線となる。TOHOシネマズすすきのは、ドルビーシネマのほかに、スクリーン8「プレミアムシアター」、スクリーン9「轟音シアター」という高級仕様のスクリーンも備えた最新のシネコン。TOHOシネマズが開発した最新かつハイグレードシネコンらしい装備といえよう。「プレミアムシアター」と「轟音シアター」は、今回はタイミングが合わず鑑賞できなかったが、今後紹介したい(他の劇場でのリポートになると思うが)。
今回ドルビーシネマで体験したのは、フェデ・アルバレス監督の映画「エイリアン ロムルス」。スクリーン10のドルビーシネマは、具体的な設備情報は公開されていないが、目測では、スクリーンアスペクトはスコープ(2.35:1)で幅15m前後、スピーカーは、劇場両サイドに、それぞれ7基+サブウーファー2基が、後方は7基、天井にも7基×2列並んでいた。座席は13列(うち、プレミアムシート1列、ワイドコンフォートシート2列)で、261席+2車椅子用スペースとなる。
内装は黒ベースに青いLEDが差し色で入る純正「ドルビーシネマ」仕様。エントランスは、はAVP(Audio Visual Pathway)というプロジェクターを活用したアプローチで入場者をお出迎えしてくれる。今回は「ワイドコンフォートシート」というプレミアムシートではなく、通常の座席で鑑賞したが、それでもシート自体は大きく両サイドとの間隔も余裕があって実に快適だ。座面表面は固めで長時間座っても疲れ知らずの座りやすさ。スクリーンから座席の傾斜は緩めで、画面を少し見上げるような格好で鑑賞するスタイルだ。F13という席で鑑賞した。右脇は車椅子対応スペースがあり、スクリーンの中心から、やや左にオフセットした席となる。ベストポジションは、プレミアムシートのH9〜11席と車椅子対応スペースだろう。通常席であれば、車椅子対応スペース脇のE13/F13やE18/F18あたりではないだろうか。スクリーンは視野いっぱいとまではならないが、十分な大きさだ。
ドルビーシネマでは、映画冒頭に必ず「ドルビーシネマ」の説明映像が流れるが、そのおなじみの映像で観る限り、映像の明るさ/コントラスト(明暗差)、音の自由自在の移動感に優れ、低音の迫力と切れ味が両立している。
映画「エイリアン ロムルス」は、「漆黒の星空」と「無音」で始まる。このふたつの要素で「画質」と「音質」を評してみたい。
まず画質。漆黒の星空に墨がじっとりと広がるような様子で黒い物体が浮かぶ。それが放浪している宇宙船であることが徐々に認識できたのだが、この表現は、ドルビービジョンが備えているHDR性能の賜物である。極めて難しい映像描写であり、筆者が本作を見た別のスクリーンとは、まったく異なる映像描写だった。そこは決して劣悪な設備の劇場ではなく、どちらかといえば、普段は画質良好という認識の劇場なのだが、ドルビービジョンとの映像パフォーマンスの実力差は歴然。ドルビービジョンでは、漆黒の中から「徐々に」宇宙船が見えてくるのに対して、前述の劇場では「突然」見えてくるのである。専門的に言えば、暗部から明るさが推移する際の、階調表現性能が実にスムーズ、ということである。
ここだけを取り上げると、「そんな大げさな」とか「宇宙船が突然見えてくるのではマズイのか」と思うかもしれないが、実際にそれだけを取り上げると大した差ではないし、実際に何かを損ねているのでもない。
しかしながら、そうした僅かな映像表現の差が、映画全編の至る所に感じられ、その少しの描き分けが2時間近く積み重なると、映画のリアリティを少しずつではあるが、確実に高めていく原動力となっていく。その結果、映画の空想世界と、現実世界との見えざる壁を徐々に溶かす。これがHDRの効果なのである。
音質はどうか。「無音」の星空から、宇宙船にカメラは段々とズームアップし、船内に入りこむ。コンピューターが起動、ブラウン管とおぼしきモニター画面に緑色文字が点滅するのと同時に、その起動音がシアター全体を覆っていた無音を切り裂くように鳴り響く。この「無音」と「起動音」のコントラストが実に強烈。「無音」のシーンでは、自分の心臓音を感じるくらいスクリーン内に沈黙が立ち込め、「あれ、もしかして設備に何らかの問題発生か」と思うほどだった。それが一転、強烈な起動音が沈黙を破る。ドルビーシネマのこだわりである「静寂性能」が見事に発揮された格好だ。
その後も、ドルビービジョンのHDR映像表現とドルビーアトモスによる3次元立体音響の、その効果/潜在能力が申し分なく発揮されたショーケースのような場面が釣瓶打ちのごとく続く。音のつながり、天井を突き破る宇宙船の垂直発進。現実のシアター空間を遥かに超える宇宙空間の広がりを音で表現した場面。心臓を撃ち抜くパルスライフルの激烈な発射音。かすかにしかし確かに響く宇宙船内の暗騒音の中、エイリアンと対峙する緊張感……。
「エイリアン ロムルス」は、若者たちが非日常の世界で体験する恐怖を描いたホラームービースタイルの「エイリアン」シリーズ。しかも不朽の名作のオマージュを実に巧みにスパイスとしてまぶした「シン・エイリアン」というべき映画である。批判的立場で語ろうとすれば、いくらでも瑕疵は探せるが、だがドルビーシネマがもたらす映像と音声のハイレベルな共演によって、現実離れした設定やストーリー展開の強引さもすっかり霧散し、映画世界への身も心も引き込まれてしまった。このイリュージョン体験こそが映画を劇場で観る醍醐味である。
専門用語を使って言えば、「TOHOシネマズすすきののスクリーン10ドルビーシネマ」は、映像も音もキレ味の鋭さが際立つワイドレンジ再生が最大の特徴と整理できよう。映像は暗部がしっかり沈んで黒が黒らしい艷やかであり、低音は、深く沈みながらもダルなところがない。<ドルビーシネマ>というフォーマットからイメージする高品位鑑賞体験が万全にできた、とまとめておこう。なお、シートは快適で鑑賞後の疲れはほぼなし。空調も絶妙。暑くも寒くもなく、身体的な負担はまったくなかった。これぞプレミアムな体験だ。
ハリウッドの大予算アクション映画はもちろん、小規模/中規模であっても、映像と音にこだわりをもったクリエイターが緻密に作り込んだ作品を心ゆくまで味わい尽くす、そんなニーズにもマッチするだろう。近作でいえば「関心領域」や「フェラーリ」「シビル・ウォー アメリカ最後の日」などを鑑賞したいと思った。
映像9.0/音声9.0/座席8.5/総合9.0
映像と音声のキレが抜群。画面がもう少し大きいと最高でした
2600円(大人料金2000円+Dolby Cinema料金600円)
北海道札幌市中央区南4条西4丁目1番地1 COCONO SUSUKINO 5F
電話050-6868-5075
https://hlo.tohotheater.jp/net/schedule/089/TNPI2000J01.do
https://www.tohotheater.jp/theater/089/institution.html
https://cocono-susukino.jp/shop/floor
https://www.jas-audio.or.jp/journal-pdf/2019/09/201909_005-014.pdf
https://www.dolbyjapan.com/dolby-cinema
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