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【「十一人の賊軍」評論】それでも生きてやる。名もなき者たちの“心の叫び”が全身を震わせる

2024年11月4日 22:00

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画像1(C)2024「十一人の賊軍」製作委員会

これは走り続ける映画である。人と人とを平たく横につなぐ物語でもある。賊と蔑まれた罪人は皆同列に並ぶ。駕籠屋も博徒も、女郎と白痴、坊主に医者、百姓も色男も、悪党に剣客も、死罪を宣告された名もなき者たちの間に貴賤はない。

戦後の広島を舞台にした「仁義なき戦い」シリーズの笠原和夫は、生きるためなら手段を選ばぬ男たちの血で血を洗う抗争を激烈に描いた。生き抜けと、その脚本は見る者を鼓舞する活力に満ちていた。笠原には未完の作品があった。一年を費やして書き上げた350枚に及ぶ「十一人の賊軍」である。全員討ち死にして果てる。映画化は却下され、激昂した笠原は脚本を破り捨てる。

企画は葬られたはずだった。だが未完の原案にたどりついた男がいる。「孤狼の血」(2018)で「仁義なき」世界を現代に蘇らせた白石和彌監督だ。主要人物が全員死ぬ。救いなき壮絶な結末故に映画化が見送られたプロットには、いつの時代であっても変わらない、生きることへの切実な問いがあった。いつか集団抗争時代劇を撮りたいと願っていた白石は、4度目のタッグとなる池上純哉と共に、世界を覆う現在進行形の時代の空気を盛り込んだ新たな脚本を練り上げた。

大政奉還後の慶応四年(1868年)、新政府軍は旧幕府軍を賊軍と見做し、鳥羽・伏見で勝利すると東へと進軍を続けた。「勝てば官軍」の謂れとなった戊辰戦争である。戦渦は旧幕府派の奥羽越列藩同盟に加わる新発田藩にも忍び寄る。負け戦は御免だ。思案した家老は密かに新政府軍への寝返りを謀る。周りを欺いてでも生き延びて藩を守る。それが使命だ。

各藩の思惑が入り乱れ一刻の猶予もない。だが予期せぬことが起こる。官軍の到着を待つ新発田藩に出兵を迫る同盟軍が押しかける。まさか、両軍鉢合わせは避けねばならぬ。案じた家老は一計を図る。新政府軍の進路にある砦に先回りし、行く手を阻んで時間を稼ぐのだ。旧幕府派で藩の対応に業を煮やす剣士を引き入れ、死罪を宣告された罪人たちに「首尾良く砦を守り切ったら無罪放免する」と契る。時が来たら狼煙を上げる、それが合図だ。こうして十一人の荒くれ者に二人の見張りを加えた決死隊が砦へと向かう。

「実のところ悪は存在しなくて、あるのは正義ともうひとつの正義だと思う」と言う白石は、突然襲いかかった理不尽な戦争に直面した者が、それぞれの選択によってどんな犠牲を払うことになるのかを正面から見据えた台本を手に現場に臨んだ。名もなき者には一度見たら忘れない風貌が要る。灰汁が強く決してブレない賊軍に相応する唯一無二の顔だ。大義のために穏やかならぬ心中を決して明かさぬ家老も然り。演者の誰もが献身的な所作で作品を支えている。

諍いの絶えない世界では、人と人との信頼関係が崩壊し、裏切りや嘘、欺瞞だらけの空約束が飛び交う。明日のことを考える余裕すらない。これが現実だ。笠原が問い続けた“生きることの意味”を託された十一人の壮絶な生き様に時代のエッセンスを注ぎ込んだ白石は、戊辰戦争で最激地となった長岡の先、新発田を舞台に熾烈極まる四日間の戦いを描く快作を仕上げた。

待てども狼煙は上がらない。捨て駒ならぬ使い捨て。生と死の狭間に立った十一人に究極の選択の時が迫る。それでも生きてやる。名もなき者たちの“心の叫び”が全身を震わせる。

(髙橋直樹)

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