中学生たちの映画づくり 特別講師・西川美和監督「自分の作品をつくるような緊張感でのめりこんだ」
2024年11月3日 19:30
東京・日比谷、銀座、有楽町エリアで開催されている第37回東京国際映画祭のユース部門で行われたワークショップ「TIFFティーンズ映画教室2024」の完成作品が11月3日、TOHOシネマズシャンテでワールドプレミア上映された。会場にはワークショップに参加した18人の中学生が集まり、特別講師の西川美和監督が講評を行った。
「TIFFティーンズ映画教室2024」は、全国各地で子どもたちを対象に映画鑑賞・制作ワークショップを開催している「一般社団法人こども映画教室」とともに実施された中学生向け8日間の映画制作ワークショップ。若い映画ファン・映像作家の創出を目的に設立されたTIFFユース部門の特別企画として行われ、「すばらしき世界」「永い言い訳」などで知られる西川監督が特別講師として参加。東京・大田区にある施設を拠点として、中学生が映画監督やプロの映画スタッフとともに本格的な映画づくりに挑戦した。
ワークショップに集まった18人の参加者たちは6人ずつ、3つのチームに分かれ、「人の話を聞いて物語をつくる」をテーマとした作品を制作。今年は赤チームの「××(ばつばつ)プロジェクト」、青チームの「あなたの夢は美しい」、黄チームの「編集後記」という3本の映画が完成した。
上映前に、「一般社団法人こども映画教室」代表理事の土肥悦子氏とともにステージに登壇した西川監督は、「わたし自身、映画教育というものをちゃんと学校で受けたことがなく……、わたしは人に映画を教えることはできませんと、おそらく10年以上前に一度お断りをしているんです。ですが、わたしもだいぶ年を重ねてきて。子どもたちが映画をつくるというのはいったいどういうことなんだろうと思い、1回見せていただきたいなと今回お受けいたしました」と特別講師に就任した経緯について説明。さらに「たった8日間のプログラムで、8日で映画をつくるなんて、われわれの感覚からすると考えられないこと。集まってくるのは、映画にものすごく興味があって、たくさんの映画を観てきた関心のある子なのかなと思っていたんですけど、気付いたらお母さんが応募していました、という子もいて。本当にゼロから始まる感じで、どうなるんだろうと毎日ハラハラしていました」と述懐する。
ワークショップの基本姿勢は「大人は手出し口出しをしない」ということ。「最初はわたしには手出し口出しはできませんと言っていたんですが、でも口を出さずにはいられないくらい、みんなのんびりとお菓子を食べながら全然集中できないところから始まったんですが、それがだんだん日を重ねて、締め切りが近づいてくると、やはりひとつのものをつくらないといけないという意識が芽生えてくるもので。それぞれの子がそれぞれに得意なことをなんとなく見つけていくんです。映画づくりってアイデアが豊富で、ものすごく積極的な人だけが向いているのではなく、いろんな仕事があって、いろんな役割があって。そこにいろんな人の個性がうまく生かせれば、とても素晴らしいチームワークになってひとつの作品ができるんだと。わたしも改めてプロの現場と離れたところから見て発見しました。最後は自分の作品をつくる時のような緊張感で、わたし自身がのめりこんでしまいました。とても良い機会をいただきました」と話した。
土肥代表も「こども映画教室のポリシーは、本気の大人たちと出会うということです。ということなので、西川さんがかなり(本気になって自分の現場である)“西川組”になっているよという噂を聞き。見に行ったら『今の良かったよ! もう一度!』と言っていたんですね。だから後ろから『西川さん、監督になってるよ』と言った瞬間があったんですけど(笑)。でも子どもたちはそれを身体ごと感じていたんだと思うんです。一生懸命になっている大人の姿を」と語った。
まずは18人の中学生たちの8日間の軌跡を追うメイキング映像「映画が生まれるとき~TIFFティーンズ映画教室2024~」(撮影:関瑠惟、空音央、編集:小林和貴)を上映。そこには、はじめてのことに試行錯誤しながらも、次第に映画づくりにのめり込んでいく参加者の姿が映し出されていた。
その後は各チームの作品を上映。赤チーム(青山明香里さん、和田こころさん、所慶裕さん、伊東優海さん、白石葵一さん、永久璃眞さん)の「××(ばつばつ)プロジェクト」は、突然生徒会長から廃部だと宣告された卓球部の部長たちが、諦められずに生徒会長に直談判をしたことから奮闘が始まるさまを描き出したコメディ作品だ。
西川監督は「完成した作品を観て、ちゃんとコメディになっていたので良かったと思いました。最初は彼らも不倫ものを撮りたいとか、怪しいことを言っていたのでどうなることかと思っていましたが(笑)。映画をつくりながら物語を考えたとは思えないくらい、シナリオの構成がよくできているなと思って。セリフも面白いし。わたしは別チームのチームリーダーをしていたので、全部の現場は観られなかったのですが、どう撮っていたのか観たかったなと思いました」と話す。さらに「アドリブが出てくるような、仲の良さが出ていますね。それから野球部のユニホームを用意したりと意外に細やかなところもあって、それも良かった。アクションシーンを撮るのも難しかったと思う。最初に撮った映像は、ゆるい温泉卓球のような映像になっていたので、チームリーダーの奥定正掌さんが頭を抱えていましたけど。最終的にはどう撮ればうまい選手のように見えるのかを研究したりして。4日で撮ったとは思えないくらいの作品になりました」。
続いて青チーム(朝永くるみさん、加瀬澤光希さん、小林英路さん、近藤都生さん、関口由莉さん、苫野凛子さん)の「あなたの夢は美しい」を上映。たったひとりの親友とひと夏を過ごしていた中学生の新(あらた)だったが、親友の不可解な行動からふたりの歯車が狂い出すさまを描いている。
「彼らは本当に語彙(ごい)も豊富だし、アイデアも豊富なグループでした。本当に詩的な作品だったなと思います。ひとつの画を撮るにも、どういうフレームをつくるか、ズームをどういう風に生かすのか、いろいろとじっくりと考え込まれてつくられた作品だなと思います。もちろん偶然集まったひとりひとりだと思うんですが、こうやって話し合いながらじっくり考えながらつくると、こんなに短い分数の作品でも作家性がにじみ出てくるんだなと思い、わたしも驚きました。この中から未来のつくり手が生まれてくるんじゃないかと期待されるような1本でした」。
そして最後は、西川監督がチームリーダーを担当した黄チーム(加藤瑠璃瑛さん、北澤香和さん、山田椋さん、神尾知寿さん、藤田なつみさん、月原千晶さん)の「編集後記」。普段全く仕事をしない不真面目な生徒であった新聞部に所属する髙岡と同級生の中谷だが、突如現れたふたりの登場人物により変化していく……という物語だ。
「今回のワークショップのテーマは『人の話を聞いて物語をつくる』という課題を投げかけてみたんですが、黄色チームは自分たちが持っているエピソードではなくて、参加者の皆さんが最初に自己紹介をしてくれた時のエピソードをきっかけにつくりました。赤チームの子が中学校で新聞部に入っているんだけど、自分はサボってて新聞を書いていないんだということから発想が生まれました」とその経緯を説明する。
そして「駄目な新聞部員が、何かを経て成長する物語をやりたいというのは早々に決まったんですが、そこから物語をどういう風にうねりをつけていくのか、ということにみんなずいぶん悩んでいました。それから実際に大田区の会場近くで話を聞きにいける人を探して。それをドキュメンタリーのように撮ってみようというアイデアが生まれて。その場面からの躍動感が仕上がりにとてもよく出ているなと思いました。音楽もたくさんつくってトライしてくれたけど、みんなが走りだしてから取材をするところで、最初は躍動的な音楽をつけていたんですけど、実は音楽を外した方が躍動感は出るんだということに気付いて。編集途中で音楽を外すという選択もありました。そういうことも経験しましたし、本当に苦労しながらでしたが、いい作品ができたと思います」とそれぞれに講評を送った。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
ホワイトバード はじまりのワンダー NEW
いじめで退学になった少年。6年後、何をしてる――?【ラスト5分、確実に泣く“珠玉の感動作”】
提供:キノフィルムズ
映画料金が500円になるヤバい裏ワザ NEW
【12月“めちゃ観たい”映画が公開しすぎ問題】全部観たら破産確定→ヤバい安くなる裏ワザ伝授します
提供:KDDI
【推しの子】 The Final Act
【社会現象、進行中】鬼滅の刃、地面師たちに匹敵する“歴史的人気作”…今こそ目撃せよ。
提供:東映
モアナと伝説の海2
【「モアナの音楽が歴代No.1」の“私”が観たら…】最高を更新する“神曲”ぞろいで超刺さった!
提供:ディズニー
失神者続出の超過激ホラー
【どれくらいヤバいか観てみた】「ムリだよ(真顔)」「超楽しい(笑顔)」感想真っ二つだった話
提供:プルーク、エクストリームフィルム
食らってほしい、オススメの衝撃作
“犯罪が起きない町”だったのに…殺人事件が起きた…人間の闇が明らかになる、まさかの展開に驚愕必至
提供:hulu
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
文豪・田山花袋が明治40年に発表した代表作で、日本の私小説の出発点とも言われる「蒲団」を原案に描いた人間ドラマ。物語の舞台を明治から現代の令和に、主人公を小説家から脚本家に置き換えて映画化した。 仕事への情熱を失い、妻のまどかとの関係も冷え切っていた脚本家の竹中時雄は、彼の作品のファンで脚本家を目指しているという若い女性・横山芳美に弟子入りを懇願され、彼女と師弟関係を結ぶ。一緒に仕事をするうちに芳美に物書きとしてのセンスを認め、同時に彼女に対して恋愛感情を抱くようになる時雄。芳美とともにいることで自身も納得する文章が書けるようになり、公私ともに充実していくが、芳美の恋人が上京してくるという話を聞き、嫉妬心と焦燥感に駆られる。 監督は「テイクオーバーゾーン」の山嵜晋平、脚本は「戦争と一人の女」「花腐し」などで共同脚本を手がけた中野太。主人公の時雄役を斉藤陽一郎が務め、芳子役は「ベイビーわるきゅーれ」の秋谷百音、まどか役は片岡礼子がそれぞれ演じた。