【インタビュー】熊切和嘉監督×正源司陽子「ゼンブ・オブ・トーキョー」撮影で垣間見た東京の表情
2024年10月24日 10:00
人気アイドルグループ「日向坂46」の四期生メンバー全員が出演する青春劇「ゼンブ・オブ・トーキョー」が、10月25日から公開される。メガホンをとったのは、「私の男」「海炭市叙景」「#マンホール」で知られる鬼才・熊切和嘉監督。これまでとガラッと作風を変えてきた熊切監督と、主演に大抜てきされた正源司陽子に話を聞いた。(取材・文/大塚史貴)
「日向坂46」の四期生11人全員(石塚瑶季、小西夏菜実、清水理央、正源司陽子、竹内希来里、平尾帆夏、平岡海月、藤嶌果歩、宮地すみれ、山下葉留花、渡辺莉奈)が出演する今作だが、企画の成り立ちも興味深い。「HiGH&LOW THE MOVIE」シリーズの福田晶平と映画「おそ松さん」の土屋亮一が脚本を担当しているが、企画段階から11人全員に直接インタビューを敢行。それぞれの学生時代の思い出やアイドルになる前のエピソード、東京への思いなどを聞き取り、それをもとに11人のリアルな物語が盛り込まれたオリジナル脚本を作り上げた。
修学旅行で東京を訪れた高校生の池園は、東京の名所を巡る完璧なスケジュールを組み立て、班長として同じ班のメンバーたちと行動を共にするはずだった。しかし、待ちに待った自由行動の日、なぜか班の全員がバラバラになってしまい、気が付くと池園はひとり東京スカイツリーの下にいた。なんとか計画をやり遂げようと東京観光に乗り出した池園だったが、そんな彼女の思いとは裏腹に、班のメンバーたちはそれぞれの思惑を抱いて東京に来ていたのだった。
熊切監督のこれまでの作品を知る人が観れば、今作を「新境地」と表現してもおもむろに否定する人はいないのではないだろうか。そんな境地に至らせたきっかけは、「#マンホール」でタッグを組んだ「Hey! Say! JUMP」の中島裕翔の存在だという。
熊切「『#マンホール』で現場を共にした中島くんのプロ意識が素晴らしかったんです。表現力の高さにも魅力を感じましたし、アイドルの方々に特に偏見を持ったこともなかったのですが、そもそもの見方が変わりました。それで、僕なりのアイドル映画を撮ってみたいなと思うようになったんです」
そんなとき、「#マンホール」でもタッグを組んだギャガの松下剛プロデューサーから「変わった企画があるのですが、興味ありますか?」と持ち込まれたのが今作だったという。
熊切「日向坂46の映画ということだけが決まっていて、当初の内容からは二転三転して今の形に着地したわけですが、演技経験のない子たちで撮るというのは面白そうだと感じました。内容がどんどん変わっていくなかで、地方から来た女子高生たちが東京でちょっとした冒険をするというプロットが出来上がっていったんです」
脚本家とプロデューサー陣がキャスト11人にインタビューする際、熊切監督は別作品の撮影で参加できなかったそうだが、「その時の映像を見て、正源司さんがすごく映画向きだなと感じたんです。それで読み合わせの時に池園中心で読んでもらったら、しっくりくるものがあったので、ぜひ彼女を主役にしたいなと思いました」と明かす。
その“しっくりくるもの”が何なのか聞いてみると、「難しいのですが、本当に“映画的”としか言えないんです。演じてもらった池園って、良い意味で少年っぽさがあるのですが、正源司さんは面構えがいい(笑)。その面構えが映画的だと感じさせてくれるんです。あとは佇まいに芯があるので、映画で観たいと感じさせてくれたんです」と語ってくれた。
朗らかな熊切監督の横で聞き入っていた正源司にとっては、銀幕デビュー作での初主演。熊切監督の丁寧な演出に謝意を示す。
正源司「台本上で『これ、どちら側の表現なんだろう?』と迷ってしまうことが多かったんです。そんな時に、理由も添えて説明してくださったので、自分もそれに合わせて理解を含めていくことができてありがたかったです」
本編を観るにつけ、キャストはもちろんスタッフの多くが、撮影を通してもう一度修学旅行を楽しんでいたのではないか? と感じさせるほどに、作り手ひとりひとりの思いが同じ方向を指し示している。ふたりは、どのエリアを撮影しているときに最も気持ちが上がったのだろうか。
熊切「僕はこれまで、あまり東京で撮影をしてこなかったんです。ましてや生活拠点として東京を離れてみると、改めて東京の街中が魅力的であることに気づかされるんです。初日に撮った浅草でも、イメージがどんどん膨らんでいって『正源司さん、あの外国の方に写真撮ってって話しかけてみて』と無茶ぶりしてみたりして。すごく楽しかったです。
また、東京を舞台にした映画って、思った以上に記録性があるなと感じました。市川準監督の作品が好きなのですが、『ざわざわ下北沢』という作品があって、昔の下北沢が映像としてそのまま残っている。今回久しぶりに下北沢に行きましたけど、もう全然違う街になっているじゃないですか。迷子になりましたよ。そういう面白さもありますよね」
正源司「私は皆とバラバラになってしまい、色々なグループに街で巡り合っていくという設定なのですが、カフェのシーンは特に好きです。観てくださる方にも、そのシーンは楽しんでもらえたら嬉しいなと思います」
冒頭で「ガラッと作風を変えてきた」と記述したが、だからといって熊切監督らしさが消えているわけではない。俯瞰した立ち位置で街を見据え、そのなかで躍動する正源司ら瑞々しいキャストの魅力を撮りこぼすことは決してない。主演として作品世界を生きてみて、正源司の胸中には何かしらの欲が芽生えるなど、心の移ろいがあったのか聞いてみたくなった。
正源司「映画に出演するって、ずっと夢だったんです。まさか初めての映画で主演させていただけるだなんて、いまだに驚いていますし、本当に光栄でした。キャラクターの人生の1ページを切り取って演じさせていただいたことで、色々な人の生き方を感じることができました。その点が、私は最も興味深かったので、機会があれば再挑戦したいです。色々な役に挑戦して、自分がどういう人間なのかを知りたいとも思いました」
熊切「僕が正源司さんを“映画向き”と感じたのは、まさにいろんな色に染まれそうだと思ったからですよ」
正源司「ありがとうございます。嬉しいです!」
ちなみに、正源司はクランクイン前に「#マンホール」を観賞したという。
正源司「スリラー映画ってこれまで食わず嫌いで、あまり観たことがなかったんです。ラストに向けて夜中に『うわああ』って変な声を出しながら拝見していて、とにかく面白くて引き込まれました」
熊切「こんなにひどい事をさせられるのかって思ったでしょう(笑)。菊地凛子さんが主演した『658km、陽子の旅』という作品もあるので、陽子繋がりじゃないですが、ぜひ見てみてください」
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執筆者紹介
大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
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