【「破墓 パミョ」評論】風水、祈祷、葬儀の風習やウンチクを満載し、破格のスリルを呼ぶ“墓”ホラー
2024年10月20日 14:30
近年ホラー映画が盛んに作られている韓国で異彩を放つフィルムメーカーがいる。「プリースト 悪魔を葬る者」「サバハ」のチャン・ジェヒョン監督だ。前者はカトリックの悪魔祓い、後者は仏教の流れをくむ新興宗教を題材にした恐怖劇なのだが、どちらも宗教の歴史と風習、その功罪に言及した内容は、観る者を置き去りにしかねないほどマニアック。しかも、それを具現化した美術や小道具などの映像面のディテールの凝りようが凄まじい。また、チャン監督はドラマやキャラクター描写も疎かにしないストーリーテラーであり、ホラー&ミステリーにタイムパラドックスの要素を融合させたトリッキーな衝撃作「時間回廊の殺人」の脚本家でもある。
そんな注目すべき気鋭監督が本国で大ヒットを飛ばした新作「破墓 パミョ」は、期待に違わぬユニークな着想で、なおかつ娯楽性にも富んだサスペンス・ホラーだ。身内に不幸が相次ぐ大富豪一族からの依頼を受け、彼らの先祖の墓を調査することになった風水師、葬儀師、巫堂(ムーダン)とその弟子の4人チームが、その墓に封印されていた恐ろしい何かを掘り起こしてしまうという物語である。
4人が向かった墓は江原道の人里離れた山岳地帯にあり、キツネがうろつく山頂付近に名前のない小さな墓石がぽつんと打ち立てられている。その異様な光景を映し出す導入部からして“何かよからぬことが起こる”不吉なムード満点なのだが、そこにエキゾチックな祈祷の儀式シーンを織り交ぜた映像世界に引き込まれずにいられない。風水師役にチェ・ミンシク、葬儀師役にユ・ヘジン、巫堂役にキム・ゴウンを配したベテランと若手の混合キャストも魅力的。それぞれの分野のプロフェッショナルになりきった彼らの迫真の演技と、陰陽思想などのウンチクを盛り込んだ脚本が、映画の不穏な濃度と虚構のリアリティーを高めている。
プロットのひねりにも驚かされる。主人公たちが関わった怪事件は、中盤の第3章「霊魂」でいったん解決を見るのだが、続く第4章「祟り」で予想だにしない新たな事態が勃発する。問題の墓から解き放たれるのは、私たちが思い描くありきたりな悪霊ではなく、奇想天外なまでにとてつもない魔物だったのだ! 日本人ならなおさらギョッとするであろうその正体は見てのお楽しみだが、まがまがしい風貌もサイズもこちらの想像をはるかに超えた魔物が、ついにスクリーンに姿を現すシークエンスが凄い。経験豊富な風水師も巫堂もたちまち無力化されるこの場面を目の当たりにした筆者は呆然とし、その先の展開が一切予測不能の状態に陥った。東洋的オカルティズムの外連味もたっぷりのコリアン“墓”ホラー、尋常ならざる見応えである。
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ハングルを作り出したことで知られる世宗大王と、彼に仕えた科学者チョン・ヨンシルの身分を超えた熱い絆を描いた韓国の歴史ロマン。「ベルリンファイル」のハン・ソッキュが世宗大王、「悪いやつら」のチェ・ミンシクがチャン・ヨンシルを演じ、2人にとっては「シュリ」以来20年ぶりの共演作となった。朝鮮王朝が明国の影響下にあった時代。第4代王・世宗は、奴婢の身分ながら科学者として才能にあふれたチャン・ヨンシルを武官に任命し、ヨンシルは、豊富な科学知識と高い技術力で水時計や天体観測機器を次々と発明し、庶民の生活に大いに貢献する。また、朝鮮の自立を成し遂げたい世宗は、朝鮮独自の文字であるハングルを作ろうと考えていた。2人は身分の差を超え、特別な絆を結んでいくが、朝鮮の独立を許さない明からの攻撃を恐れた臣下たちは、秘密裏に2人を引き離そうとする。監督は「四月の雪」「ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女」のホ・ジノ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
2012年に逝去した若松孝二監督が代表を務めていた若松プロダクションが、若松監督の死から6年ぶりに再始動して製作した一作。1969年を時代背景に、何者かになることを夢みて若松プロダクションの門を叩いた少女・吉積めぐみの目を通し、若松孝二ら映画人たちが駆け抜けた時代や彼らの生き様を描いた。門脇むぎが主人公となる助監督の吉積めぐみを演じ、「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)」「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」など若松監督作に出演してきた井浦新が、若き日の若松孝二役を務めた。そのほか、山本浩司が演じる足立正生、岡部尚が演じる沖島勲など、若松プロのメンバーである実在の映画人たちが多数登場する。監督は若松プロ出身で、「孤狼の血」「サニー 32」など話題作を送り出している白石和彌。
若松孝二監督が代表を務めた若松プロダクションの黎明期を描いた映画「止められるか、俺たちを」の続編で、若松監督が名古屋に作ったミニシアター「シネマスコーレ」を舞台に描いた青春群像劇。 熱くなることがカッコ悪いと思われるようになった1980年代。ビデオの普及によって人々の映画館離れが進む中、若松孝二はそんな時代に逆行するように名古屋にミニシアター「シネマスコーレ」を立ち上げる。支配人に抜てきされたのは、結婚を機に東京の文芸坐を辞めて地元名古屋でビデオカメラのセールスマンをしていた木全純治で、木全は若松に振り回されながらも持ち前の明るさで経済的危機を乗り越えていく。そんなシネマスコーレには、金本法子、井上淳一ら映画に人生をジャックされた若者たちが吸い寄せられてくる。 前作に続いて井浦新が若松孝二を演じ、木全役を東出昌大、金本役を芋生悠、井上役を杉田雷麟が務める。前作で脚本を担当した井上淳一が監督・脚本を手がけ、自身の経験をもとに撮りあげた。