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押山清高監督がクリエイター志望者に語るキャリアと「ルックバック」制作の舞台裏【ひろしまアニメーションシーズン2024】

2024年8月17日 22:15

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「ルックバック」が大ヒット中の押山清高監督
「ルックバック」が大ヒット中の押山清高監督

広島市で開催中のアニメーション芸術の祭典「ひろしまアニメーションシーズン2024(HAS)」でクリエイター志望者向けのプレゼンテーション「メイキング・オブ・『ルックバック』」が8月17日開催され、アニメーション映画「ルックバック」監督の押山清高が来場。「tampen.jp」編集長で、新千歳空港国際アニメーション映画祭のプログラムアドバイザーの田中大裕氏が聞き手を務め、押山監督が自身のキャリアや「ルックバック」制作の舞台裏を語った。

(C)藤本タツキ/集英社 (C)2024「ルックバック」製作委員会
(C)藤本タツキ/集英社 (C)2024「ルックバック」製作委員会

原作は「チェンソーマン」で知られる藤本タツキ氏が、ウェブ漫画サイト「少年ジャンプ+」で2021年に発表した長編読み切り漫画。小学4年生の少女・藤野と京本が、タッグを組んで漫画家を目指していくが、高校卒業を期にたもとを分かった2人に悲劇が訪れる。劇場アニメ版は「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」「借りぐらしのアリエッティ」「風立ちぬ」などにスタッフとして参加した押山が、監督、脚本、キャラクターデザインを一手に担っている。若手俳優の河合優実が藤野、「あつい胸さわぎ」「カムイのうた」の吉田美月喜が京本の声を演じた。

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アニメーション監督、またスタジオドリアンの代表としての顔を持つ押山監督。アニメーション業界に入ったきっかけは「絵を描く仕事を探していたら、1番自分がなれそうなのがアニメーターだった。そこで、アニメ会社をいくつか当たって、唯一引っかかった会社に入って、そこからアニメーターとはなんなのかを勉強していった」

「会社の入社試験で『タップを持ってこい』と言われていたが、それが紙を固定する道具ということもわからなかったし、本当に絵を描くこと以外知らなかったし、その方法も独学だった。背景画を描くときに、透視図法ってなんだ? 消失点ってなんだ?というところから僕のアニメーターの原画はスタートしました。それくらい何も知識がなかったので、会社に入って、線の引き方、トレースの仕方から学んだのが起点」と明かす。

その後、NHKのシリーズ「電脳コイル」に作画監督として関わり「あの作品で、井上俊之さん、磯光雄さん、本田雄さんという日本のレジェンドの仕事を間近で見られたのが僕のキャリアの方向性を決定づけた」と振り返る。そして、「フリップフラッパーズ」のシリーズ監督に抜擢された。

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「オリジナルのテレビシリーズの経験は1回もやっていないレベルでその話をいただいたので、かなりのチャレンジ。不安を抱えて臨みましたが、若いうちに失敗をしておいた方がいいと思ってお受けした。それまで、作画監督をして自分の思い通りに仕事をしてくれないとイライラすることがあったが、監督となると幅広くスタッフへの感謝の気持ちが芽生えた」と立場の変化とともにスタッフとのかかわり方も変わっていったそう。

自らのスタジオ設立についての経緯は、「作品全体を作ることを経験して、僕は、いろんなところに首を突っ込みたがるタイプ。短い時間で、作品に対して貢献するには、僕の限られたリソースでは画面作りに割くのがパフォーマンスとして一番良いと思った。設定も起こせるし、原画も書けるし、修正もできる。それは監督としての仕事が多岐にわたって、膨大になってしまうことがわかった。ほかのスタジオでここまでやる人はあまりいないので、これほど作品に入れ込む、自分のリソースを100%注ぎ込むタイプだと、スタジオから雇われて監督するのは割が合わないと思った」と理由を述べる。

日本の長編劇場作品は大規模な集団制作で作り上げられるのが一般的だが、「僕がアニメ業界に入った時は、既に商業アニメーションの制作システムやアニメーションがたどってきた歴史の蓄積があり、その上に僕は立たせてもらって、キャリアをスタートしましたが、アニメーションの作り方をもっと0ベースで考えるようになったんです。監督をしてみて、もっとコンパクトに作れるのでは? 僕が作るんだったら少人数でやりたいと思った」と、スタジオを設立した自身の理想を語った。

(C)藤本タツキ/集英社 (C)2024「ルックバック」製作委員会
(C)藤本タツキ/集英社 (C)2024「ルックバック」製作委員会

自身のスタジオで制作した短編映画「SHISHIGARI」で手ごたえを感じ、「ルックバック」へとつながった。「『ルックバック』の話をいただいて、自分の制作手法と相性が良いと思ったんです。今回、『ルックバック』で原動画という特殊なクレジットをつくりましたが、『SHISHIGARI』は原画も動画も僕一人で描きました。原画を着彩して動画として出す、『ルックバック』でも同じことをやっています。原画の線を表現していい作品として、『ルックバック』は絵描きの話だし、絵描きの気持ちを表すのに良いと思った。一人でやりたかったですが、さすがに長尺なので、限られた人数で同じことを…と考えた」と、「SHISHIGARI」の経験とともに振り返った。

原作がある「ルックバック」を映像化するにあたって意識した点は「原作物はほとんどやったことがなくて、湯浅政明監督の「DEVILMAN crybaby」の1話演出くらいで、純粋に原作ものを映像化するのは初めてに近かった。どこまで原作を自分の中で消化できるかが重要でした。『ルックバック』絵描きの話だったので、ストーリーの気持ちも、藤本さんが何を描きたいかはわかった。あとは作品を自分事としてどう表現するか。原作を大きく改変してはいけないけれど、自分を作品に投影してもあまり原作を変えないでいられるビジョンがあった。でも、原作のままで良かったと言われるような映像化はしたくなかったので、原作にはない、映画にする意味を考えた」と述懐する。

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押山監督のオリジナリティとして、「アニメーター、アニメ業界に僕が描くからこそ別な意味が出るとか、表面上は同じ人間に見えるけれど、ラストも原作で描かれてる物語とは別な解釈、別の角度からの見え方ができるのではないかというアイディアが生まれた」といい、藤野の成長に関する描写について説明した。

画面作りについては「前半は小学校4年生から6年生までの間のライトな物語なので、画も写実さを強調するような絵柄ではなくライトな感じ、後半はリアルな展開で深刻な物語になっていくので、絵柄もそれに合わせて写実的になっていく。そういう想定が最初からありました」といい、また設定や、キャラクターデザインの変化などにも言及し、「作品に応じて臨機応変に。人が描く場合のエラーが魅力だったり、面白さや生っぽさだと思う、今後はその人間が描く絵の不完全さみたいなものに価値が出てくるかも」と持論を述べる。

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「ご自身のスタジオでコントロールできることもあって、こういうやり方が正解という考えよりも、作品や原作が求める方法を作品ごとに考えるある種のカスタマイズが大切なのですね」と、聞き手の田中氏が問いかけると、「僕も20年近くアニメ業界にいるので、ルーティーンでアニメ作りとはこういうもの、みんなで作ったらこうなるよねって、頭が固くなってしまうんですが、常に状況は変化していますし、同じことを繰り返しててもつまらない。僕はそういう意味で飽きっぽくて、同じことをやりたくなくなっちゃうんです。作品ごとに別なことをチャレンジしたいという気持ちがあります」と自身の仕事に対する姿勢を語った。

そのほか、作画の工夫、ベテランアニメーターの井上俊之氏との仕事や、背景美術のコントロール、撮影処理など技術面、アニメ制作の作業工程や、監督としてのチームづくりなど多岐に渡る話題を様々なスライドとともに展開し、会場に詰め掛けた日本国内外のクリエイター志望者たちは熱心に聞き入っていた。

「ひろしまアニメーションシーズン2024」は、8月18日まで開催。全プログラム、チケット詳細は公式HP(https://animation.hiroshimafest.org/schedule/)で告知している。1日券は3000円。1回券は1200円。そのほか全プログラム券や、大学生、高・中学生料金あり。

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