【インタビュー】進化した「クワイエット・プレイス」シリーズの“新しさ” ルピタ・ニョンゴ&ジョセフ・クインが語る
2024年7月4日 14:00
チェーンソーの鳴る音、殺人鬼が迫る足音、ドアの軋む音、ナイフが人の体に刺さる音――これまで、ホラー映画にとって音は、常に重要な要素として描かれてきた。そんな音による恐怖を極限まで高め、完全な静寂のなかでしか生存が不可能な世界を舞台にしたのが、2018年にジョン・クラシンスキー監督が手がけた映画「クワイエット・プレイス」(公開中)だった。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
シリーズ第1作では、冒頭で画面の文字が「89日目」であることを告げ、何が起きたかは不明だが、廃墟と化した町と荒らされたスーパーマーケットが、大惨事があったことを示していた。そんな世界で静寂を守って生きる、アボット一家の姿を描き、低予算のホラー映画でありながらも、記録的な興行収入を叩き出した。そして、2年後のシリーズ第2弾「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」は、父親を失ったアボット一家が、危険を覚悟で外の世界の生存者と出会い、協力し合う設定だった。それから4年、音を立てたら襲ってくるあの未確認生物がアメリカの大都市ニューヨークを襲う、すべての始まりを描いたシリーズの前日譚と言えるのが今作「クワイエット・プレイス DAY 1」だ。
本作では、田舎町からニューヨークへと舞台を移し、未確認生物の襲来が始まり、世界が沈黙するに至った最初の日の悪夢を映し出している。今作では、前2作のクラシンスキー監督に代わり、「PIG ピッグ」のマイケル・サルノスキがメガホンをとった。さらに主演を務めるのは、「それでも夜は明ける」でアカデミー賞助演女優賞を手にしたルピタ・ニョンゴ、ドラマ「ディケンジアン」などのジョセフ・クイン。そのほかに、アレックス・ウルフ、ジャイモン・フンスーらも出演している。今回は、そんな待望の新作について、ニョンゴとクインに単独インタビューを敢行し、作品への思いを吐露してもらった。
まず、今作は2001年に起きた同時多発テロ後のアメリカ人の強い意志を彷ふつさせる。当時のアメリカ人は、まるで全てが破壊されたような感覚になったものの、ともに生き抜こうとする意志があったように思えた。
そんな考えに至った今作の脚本の第一印象について、クインは「(これまでの『クワイエット・プレイス』フランチャイズとは)まったく違うものに到達していると思います。マイケル監督がこのフランチャイズを取り上げ、非常に特殊なことをやっているのは明らかだと思います。そしてそれは、彼が製作した前作『PIG ピッグ』と非常に一致していました。(キャラクターの)人間性に深みがあるんです。悲しみに打ちひしがれながらも、ある意味とても楽観的な要素も含まれている。そしてそれは、とてもバランスを取るのが難しい線引きだと思う。(個人的に)マイケルは素晴らしい監督です。彼はタビーキャット(縞模様の猫)のような内気さと、(大胆な)カバのような荒々しさを同じ人間として持ち合わせている。そんな彼と一緒にいるのは、とても素晴らしいことでした」と感謝した。
一方、ニョンゴは、下記の通り出演経緯を明かした。
「今作は(『クワイエット・プレイス』フランチャイズという)大きな世界観の一部でありながら、脚本はとても(人間関係が)親密なのに驚きました。(命の)危険を晒すリスクも高く、モンスター映画のスペクタクルでもあります。そして、危機が迫っている登場人物たちの親密な関係も描かれている」
「(アボット一家が描かれた)前2作と違って、サム(自身が演じるサミラを略している)とエリックという登場人物はお互いに血縁関係がないんです。だから、全くの他人である彼らは、一緒に生き残る方法を見つけなければならなくなる。(観客が)家族を応援してきたケースとは異なる困難の乗り越え方が、今作では描かれています。見ず知らずのふたりが恋に落ち、このような事態を乗り越えて、生き残ることを願うということは、人間の精神を団結させる必要性の証だと感じました」
今作に登場する猫のフロドは、なかなかニャーとも鳴かないが(声が命取りになるため)、手を振るとやってきたり、ピザを食べたりしているのがかなり印象的だ。フロドについて、クインは「我々は恵まれていました。エコとシュニッツェルという名の猫2匹の優れた才能のプロがいたんです(笑)。そして、猫のためのセットであることに、疑いの余地はありませんでした(※セットは、猫が動きやすいように組まれていたそう)。彼らは無情に(淡々と)撮影を進め、それは素晴らしい出来栄えになっていきました。彼らが出演してくれて本当に幸運でした。(ニョンゴの方を見て)確か、彼ら(猫たち)はあなたの人生を変えたんですよね?」
そんなクインの言葉に、すぐにニョンゴは「ええ、そうなんです。撮影前の私は猫が怖くて、猫と一緒の部屋に入ることができなかったくらい苦手だった。でも、サムを演じるためには、そんな恐怖を克服しなければならなかったんです。でも、演じているうちに猫が好きになり、自分でも猫を飼うようになりました。彼らは美しい動物だと思います。そして、(通常)動物が登場するシーンでは、彼らはしばしば観客の目をさらってしまうんです。なぜなら、その動物は演技をしていないことを誰もが知っているし、ただ存在しているだけだから。猫に負けないようにすることこそが、我々俳優陣の挑戦でもありましたが、達成できていると思います」
劇中で特に印象的だったシークエンスは、ふたりが水の溢れた地下鉄内で、未確認生物から逃げようとする場面。撮影について、クインは「撮影のなかでも最もエキサイティングなシークエンスでした。このような規模の映画製作では、各部門の優秀な責任者たちが協力して特定のシークエンスを撮影することになりますが、このシークエンスも、そんな協力し合う撮影のひとつでした。スタント部門や美術部門の努力も必要だったし、特殊効果もたくさんあって、(最終的には)スリリングなものになりました」と振り返った。
さらに、エリックが、サミラにノートを渡すシーンがある。その行為は、まるで彼女に「物を書く」という生きる意味を与えたかのように映った。クインは、「ふたりはまったく異なるレンズを通して自分の死を見つめていました。サミラはこの侵略の前に、自分の人生や死と向き合わなければならなかった。観客は、すでに全てを喪(うしな)ったキャラクターを見ているんです。これは、とても興味深い視点だと思う。一方、エリックは若く、心身ともに健全で、生き延びようとしている。エリックとサムには、ある種の(将来のない)無益な目的と楽観主義な部分が共存している。それが、あの瞬間、ノートの手渡しの瞬間に完璧に凝縮されていると思うんです」
本シリーズを手がけてきたクラシンスキーは、脚本家として参加しているものの、今作は完全にサルノスキ監督の作品だ。彼とのコラボレーションについて、ニョンゴは振り返る。
「ジョン(・クラシンスキー)が、私にサム役を打診してきた際の売り込みは、このシリーズで別の物語を語りたい唯一の理由は、語るべき新しいことを見つけ、ホラー・スリラーというジャンルに含まれている世界観を拡張したいというものでした」
「ただ最初のステップは、マイケル・サルノスキという脚本家兼監督を見つけることでした。彼は処女作『PIG ピッグ』で(あなた方が)ご覧になったように、シビアな状況にあるなかで、優しさも捉えている監督です。彼はその感性を今作にも持ち込み、劇中ではいろいろなことが起きて、スケールも大きいものの、核心には優しさも含まれています。そんなマイケル監督の演出には純粋さがあり、とても新鮮なタッグでした」
最後に、物語を通して観客には何を感じ取ってほしいのか聞いてみた。クインは「本作は、何事も主観的な体験をもとに描かれている。つまり、観客自身が考えなければならないんです。だから、映画内で起きるそんな怖さ、興奮、高揚を感じて帰ってほしい。この3つを持ち帰ってもらえればいいですが、観客に委ねられています」と、締めくくった。
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