藤竜也「この映画は国境や文化を超えたのかしら」海外映画祭受賞「大いなる不在」上映に感慨 原日出子は若き日の藤の色男ぶり暴露
2024年6月25日 21:00
第71回サン・セバスチャン国際映画祭コンペティション部門で藤竜也が日本人初となるシルバー・シェル賞(最優秀俳優賞)受賞、第67回サンフランシスコ国際映画祭では最高賞のグローバル・ビジョンアワードを受賞と既に海外で高く評価されている本作は、幼い頃に自分と母を捨てた父が警察に捕まったという知らせを受け、久しぶりに父、陽二のもとを訪ねることになった卓(たかし)が、認知症で別人のように変わり果てた父と再会することから始まる。さらに、父の再婚相手である直美も行方不明になっていた。卓が妻と共に様々な手掛かりを基に、父の人生をたどっていくさまをミステリータッチで描くドラマ。
劇中ではキャストの4人が全員揃う場面がないため、この舞台挨拶で初のメインキャスト全員の登壇が実現し「とてもうれしいです」と近浦監督。2020年のコロナウイルスのパンデミックと、近浦監督の実父が認知症を発症したことがきっかけで、着手していた別の作品に先駆けて、本作の企画が進んだと明かし「コロナで社会が変容して、父も変わって、今の社会や今の自分自身と共鳴するような物語を作りたかった。そのキーワードが不在だった。フィクションですが、不在の輪郭をなぞることによって、その存在をつかめるかなと思ったのが契機です」と語る。
長く父と別れて暮らし、認知症の父の不在期間を解き明かしていく息子を演じた主演の森山は「脚本が魅力的で、こんな奇妙なシチュエーションの中で、僕はどのようにこの物語にいるべきか近浦さんとたくさん話し、近浦さん自身のお父さんの変容も脚本に大きく影響を及ぼしていることが分かった。近浦さんを知ることが僕にとって重要で、そこからこの映画への旅が始まったようだった」と振り返り、近浦監督と6時間にも及ぶディスカッションを重ねたという。また、藤との共演は「現場で仲良く話すとか、反対に距離を取ることもなかった。現場に入るまでお会いすることはなく、シーンに入ってからコミュニケーションが始まる、良い意味で緊張感のある現場だった」と述懐する。
認知症を患っている陽二役の藤は「自分も老いと相対しているので、役に入りやすくシンパシーも感じた。今回はスポッと捕まえられてやりやすかった」と役柄を語る。
森山演じる卓の妻、夕希を演じた真木は「台本を読んだ時点で絶対参加したいと思った」といい、「作品にスパイスを入れるような役柄で、このようなメンバーで参加できることが幸せでした。未來君とお芝居すると居心地がよく、そして内側から出る色気が半端なく、どういう風になったらこうなるんだろうと目が離せなかった」と「モテキ」(2011)以来の共演を喜んだ。
原が演じたのは、陽二が再婚した妻の直美役。「オファーが来て、台本を読む前に『やる』と言いました。藤さんにお会いしたくて。昔『ションベン・ライダー』(1983)という作品でご一緒して優しくしていただいて。今回は妻の役なので、やらないわけにはいかない(笑)」といい、「(『ションベン・ライダー』)当時の藤さんはすごくハンサムで。私は20代で生意気だったので『藤さんおいくつですか?』と聞いたら『君のボーイフレンドにちょうどいい歳だよ』と言われたんです。久しぶりにお会いできてうれしかった」と藤の色男ぶりを暴露。藤も「(車で)お送りしたことがありましたね。その気があったのかもしれません(笑)」と告白し、会場を沸かせた。
そのほか、近浦監督の実家で撮影が行われたというエピソード、海外映画祭での反応などが語られた。サン・セバスチャン国際映画祭ではスタンディング・オベーションの慣例がないにもかかわらず、上映後に大きな拍手が起きたそうで、藤は「お客様の笑顔が迫ってくるようだった。これは(他の映画祭とは)ちょっと違うなと思った。送り出される時もみなさん染みるような笑顔だった。この映画は国境や文化を超えたのかしらと思いました」と手ごたえを感慨深げに語る。
全編35ミリフィルムで撮影された本作を「ぜひ大きなスクリーンで見てほしい、良質なエンタテインメントを撮りたいと思って作った作品」と近浦監督。「サスペンスヒューマンドラマと銘打たれていますが、人間の根源に訴えかける叫びのようなものがあります」(森山)、「ミステリアスな物語で、ミステリアスな魂の揺さぶられ方をします。どうぞ楽しんでください」(藤)と見どころをアピールした。映画は7月12日全国公開。
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