山田太一の傑作小説をイギリスで映画化「異人たち」 アンドリュー・ヘイ監督「子育てや親としての愛、人間関係の中での愛を探りたい」
2024年4月20日 10:00

日本を代表する名脚本家・山田太一の長編小説「異人たちとの夏」を、「荒野にて」「さざなみ」のアンドリュー・ヘイ監督が映画化した「異人たち」が公開された。1988年に日本でも大林宣彦監督により映画化された喪失と癒やしの物語を、現代イギリスに舞台を移し、主人公の設定を同性愛者とし、ヘイ監督ならではの感性あふれる脚色と演出で描き出す。ヘイ監督が作品を語るインタビューを映画.comが入手した。

ロンドンのタワーマンションで暮らすアダムは40代の脚本家。12歳の時に両親を交通事故で亡くし、それ以来、ずっとひとりぼっちで生きてきた。両親との思い出に基づく脚本の執筆に取り組もうとしているアダムは、ある夜、同じマンションの6階に住む謎めいた青年ハリーとめぐり合う。そして幼少期を過ごした郊外の家を久しぶりに訪ねると、そこには30年前にこの世を去ったはずの父と母が当時のままの姿で住んでいた。アダムは、その後も実家に足繁く通う一方、自分と同じように孤独の影をまとうハリーと恋に落ちるが……。
ヘイ監督は、山田氏の原作に自らのプライベートな要素を織り交ぜて脚色を施し、愛と孤独、喪失と再生、家族の絆といった根源的なテーマを幻想的なタッチで描き出した。原作との出合い、映画化にあたり込めた思いをこう語る。

「製作会社がずいぶん前にこの本を送ってきました。おそらく6年ほど前です。その本を読んで感想を聞かせてほしいと言われました。何年もの間、多くの人々がこの本の映画化を試みていたことを、後になってから知りました。多くの監督が挑戦したと思いますが、うまくいきませんでした。というのも、この本は、両親に再会すること、そして彼らが自分と同じ年齢であるという、とても興味深いアイディアが中心になっているからだと思います。素晴らしいアイディアですよね。
私にとって重要だったのは、そのアイディアを自分が語ろうとしているストーリーの中に織り込んでいくことでした。この本を読んだ人なら誰でも、映画はかなり違っていると感じることでしょう。原作はもっと、古典的な日本のゴースト・ストーリーです。私は、この映画は必ずしもゴースト・ストーリーであるとは思っていません。それを別のものに変えましたし、それが私のやりたいことでした。もっと独自のものに感じられるようにしたかったですし、何が現実で何がそうでないのかを、はっきりと突き止めることができないようにしたかったのです。彼らはゴーストなのか、それとも違うのか?ここでのより適切な質問は、それは重要なことか?ということです。私は重要ではないと思いますし、それが私の意図でした。
私はまた、この物語を通して、子育てや親としての愛、人間関係の中での愛、そしてそれらがどのように結びついているのか、親を通してどのように愛を学ぶのかということを探りたいと思っていました。そして、世間や成長によっていかに簡単に傷ついてしまうかということを探究したかったのです。その傷を癒す方法を見つけようとしました」

本作では、ヘイ監督自身が子どもの頃に住んでいた家で撮影し、アンドリュー・スコット演じる主人公のアダムはゲイの脚本家という設定だ。ヘイ監督の自伝的な要素はどのように結びついているのだろうか。
「それは複雑に結びついています。私の両親は交通事故で亡くなったわけではありませんし、これは自伝ではありません。私の物語ではないのです。しかし確実に、この物語の中には個人的なことが多く含まれています。多くの感情や語られていることは、極めて個人的なものだと感じられます。80年代に育った人物の話であり、ゲイにとってはいかに違う時代であったかが描かれています。
その側面も物語の一部であり、それが家族という概念をどのように複雑にしているのかを探りたいと考えていました。ゲイの子どもを持つことで、そして子どもが本当の自分を親に知られないことで、子育てがどのように複雑になるのか。現代においても、それは多くの家族にとって複雑な問題です。
自分も理解できると感じることはたくさんありましたし、自分が育った家を舞台にした物語を思い描き始めたことから、書いているうちに個人的なものとなりました。そこで、『じゃあその家で撮影してみたらどうだろう?』と思ったのです。私は打たれ強い部分があるので、そのかさぶたに触れて、自分の感覚を取り入れた映画を作っているのなら、昔の家に戻ってみたらどんな感じがするのかを確かめたいと思いました。それが私の心理状態にとって良い考えだったのかどうかは分かりません」

そして、主演のアンドリュー・スコットとの仕事をこう振り返った。
「難しいことを分かち合うほど、カタルシスと解放感に満ちたものはありません。初めてカミングアウトする際、ゲイクラブに行くことがとても深い意味を持つのはそのためです。ゲイの人は皆、同じような経験をしていると思います。そのような経験をしたことのある他の人と話すことは、カタルシスと解放感を与えてくれます。私たちは、そこから前に進んだふりをし、自分たちはみんな大丈夫、みんなに愛されている、やったね、というふりをしながら過ごしているのですから。
私はそのような会話を人とするのが好きです。アンドリューもそれを楽しんでいたと思いますし、それが作品に反映されるのは素晴らしいことです。アンドリューのことであると同時に私のことでもあり、私のパートナーのことでもあり、私が知っている多くの人々のことでもあります。もし自伝的な作品であるとしたら、私だけのことを描いているのではなく、この世代の人々がどのように感じてきたかを描いているのです」
「異人たち」は公開中。

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