江口のりこ&中条あやみが「かなわんわ」と脱帽した理由 笑福亭鶴瓶の凄味【「あまろっく」インタビュー】
2024年4月19日 18:00
兵庫県尼崎市を舞台に家族の物語を描く「あまろっく」が、4月19日から全国で公開される。今作に出演する江口のりこ、中条あやみ、笑福亭鶴瓶は、ともに関西出身。いわゆる“ローカル”での撮影を、3人が関西弁を交えながら振り返った(取材・文/大塚史貴)。
長編映画2作目となる中村和宏監督がメガホンをとった今作のタイトルにある「あまろっく」は、“尼ロック”という愛称で呼ばれる「尼崎閘門(あまがさきこうもん)」(兵庫県尼崎市)から付けられたもの。船舶が通航できる巨大な閘門で、尼崎市の「0メートル地帯」に海水が流れ込むのを防いでいる。
小学6年生まで尼崎で育った中村監督は、尼ロックについて「尼崎市民でも知らない人がほとんど。なんのアピールもせずただそこにいるだけで家族を守っている不器用な父親のようだと思った」と語り、「阪神淡路大震災からまもなく30年を迎える節目で、苦境の中から立ち上がる家族の姿を伝えたい」と思い立ったという。
物語は、人生に燻っている実家暮らしの優子(江口)の元に、町工場を経営する父・竜太郎(鶴瓶)が、とてつもなく若い再婚相手の早希(中条)を連れてくるところから動き出す。年齢、価値観が異なる39歳の娘と20歳の義母の共同生活は、想定外の連続。コミカルな会話劇に加えて、バラバラだった家族が様々な現実に立ち向かうなかでひとつになっていく姿を描く。
慣れ親しんできた関西弁で芝居をすることは、3人にとってアドバンテージになったのだろうか。普段の芝居との違いについて聞いてみた。
鶴瓶「僕はずっと関西弁やから。ただ、江口がしゃべっているなかで1カ所おかしいと思ったセリフがあって……」
江口「しばきまげるぞ」
鶴瓶「そう、それ! そんな言葉ないんですよ。監督にも言ったんですけどね。ややこしいんですが、監督が子どもの頃に『しばき倒すぞ』って話すときに、言葉遊びで『しばきまげるぞ』って変化させてしゃべっていたみたいなんですね。それをセリフに組み込んだらしいので、世間の人は分からんわな(笑)」
中条「初めて聞きましたよね」
鶴瓶「関西がこれだけぴったりな人間が3人おって、関西弁が飛び交っているわけやから、おもろいですよ」
中条「こんなに関西弁でお芝居をすることは初めてでしたが、素というか……、寝て起きてそのまま来た感じ。実際に大阪の実家から尼崎の現場へ通っていたので、母が朝ご飯を作って見送ってくれていました。朝5時起きのときもハイカロリーなご飯を作ってくれました。『なんで朝からこんなにハイカロリーやねん!』と思いましたけどね(笑)。高校生の頃に戻った気分になりました。脚本の読み合わせも母がしてくれたんですよ」
江口「ええなあ。私は普段から関西弁をしゃべりますが、芝居の中で関西弁のセリフを話す機会は多くないんです。やりやすさとともに、やりやすいからこそ自分が役を忘れてリラックスしてしまう危険な部分もあって、良い部分と悪い分、両面ありましたね」
三者三様の会話のリズムがありながらも、関西弁という共通言語が繰り出すテンポは小気味よくさえある。鶴瓶は、撮影を通して江口と中条の最大の強味をどこだと解釈したのだろうか。
鶴瓶「ふたりとも、すごく自分に忠実ですよね。それが自然さを引き出している。決して自然にやろうと思っていないんです、ふたりとも。もちろん作らないといけない芝居もあるんですよ。でも、そうではない部分が多いからこそ、この作品にはぴったりでしたよ」
一方、江口と中条は酸いも甘いも噛み分けてきた百戦錬磨の鶴瓶と対峙してみて、「かなわんな」と思わせられた局面について聞いてみた。
鶴瓶「あかんあかん。そんなん聞いたら……」
江口「今回一番驚いたのは、鶴瓶さんはセリフを現場で覚えるわけです」
鶴瓶「げほげほっ。やめろ……」
江口「段取りをやって、テストを経て本番……という流れの中で作っていくのですが、その中でセリフが抜けることもあるんです。ただ、出来上がったものを観ると、一番そこにいる人に見えるわけです。そこに驚かされました。誰にでも出来ることではないし、鶴瓶さんという人が持つ誰にも分からない秘密の部分なんでしょうね」
中条「江口さんがおっしゃる通り、セリフが全然入っていないんですが、本番でパッと出てくるんです。しかも、色々な人のことを見ている。撮影中にお昼寝しているなと思ったら、パッと助監督さんの話に加わったり、さっきまで下ネタ言っていたのに、人混みで自転車が通れないのを見つけると声をかけて通してあげたり……。細部にいたるまで神経が行き届いていて、嫌味がなくサラッと出来るのもすごいんです」
鶴瓶「やめろ……。なんかお通夜に来た子たちみたいやんか。あの人、ええ人やったな……みたいな(笑)。昔からそういう覚え方しか出来ないんです」
江口「落語はそうはいかないですよね?」
鶴瓶「昨日も家に帰ったら、ふと落語の言葉が出てこないことに気づいたんで、夜中に稽古したんですわ。年齢のせいにはしたくない。絶えず追われていて、ずっと自転車操業なんですよ」
さて、本編中で鶴瓶扮する竜太郎が「座右の銘」を披露しているが、表現者としての3人にとっての「座右の銘」はどのようなものなのだろうか。
江口「あまり格好良くないのですが、『よく眠る』ということです。よく眠るとその日、自分がすることに対して自信が出て来るし、人の話も聞ける。自分に足りないなあと思うことは、コミュニケーションをとって作っていくこと。疲れていると、自分だけの思いでやっちゃったりするので、やっぱりよく寝て、人の話を聞いて臨まないといけないですよね」
中条「私たちのお仕事って、求めていただけないことには成立しない。成長を続けないといけないし、『努力を怠らずに求められる人になる』ということですかね」
鶴瓶「僕は『巻き込む』ということですかね。いかに周囲を巻き込んで、現場を楽しむか。映画にしてみても、撮り終えて解散した後、何年かして別の組に参加してみると、かつて一緒に仕事をしたスタッフが仰山おったりするわけです。そうすると、すぐに戻っていける。“あの時”の状況が僕の脳裏にも、スタッフらの脳裏にも共通のものが入っていて、『あの時ああやったな』と言える思い出があることが大事やと思うんですよ」
確かに、かつて鶴瓶を取材した2010年当時(「おとうと」公開時)の内容が驚くほど鮮明に記憶に残っており、それは含蓄のある言葉の数々がいかに楽しいものであったかを証明しているかのよう。3人がそれぞれ既に別の仕事に向かうなかで、再びどこかの現場で相まみえた時にどのような“思い出”に触れることになるのか、のぞき見たい気分になるのは何も筆者だけではないであろう。
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