「ラヴィット!」で話題“ヨギソダイブの通訳さん”は何者か? 放送の反響を聞いてきたら、驚きの話になった【前編】
2024年3月26日 08:00
「おい、こいつ売れようとしてるぞ !」
1月23日。お笑いコンビ「麒麟」の川島明さんが、テレビ画面のなかで叫んだ。何事? リビングで在宅仕事をしていた僕は思わず作業の手を止め、テレビに映るTBS系情報バラエティ「ラヴィット!」に注意を向けた。
見ると、川島さんは1人の女性を指さしていた。周囲の芸人たちも野次を飛ばしまくる。黒いスーツ、黒いメガネの小柄な女性だった。しかもなんだ? スタジオが割れんばかりの笑いに包まれている。
女性は韓国語の通訳者らしい。どういうことこれ? 状況を把握するのに時間がかかった。その直後。世間でも大きな話題となったように、さらなる爆笑を、この通訳者が巻き起こすことになる。
番組の模様を知らない人は何らかの方法で確認してもらいたい。「ラヴィット!」放送後、SNS上でも特大のバズとなっており、数々のポストやネット記事から通訳者についての断片的な情報が得られた。“みょんふぁ”という方で、司会・通訳・翻訳・女優として活躍し、映画でも「血と骨」など様々な作品に出演しているらしい。
普通は前に出てこない通訳の人が、お笑い界の怪物たちが暴れまわる尖った番組である「ラヴィット!」で、「ヨギソダイブ!」と声を張り上げ、見たこともないくらい大きな爆笑の爆心地にいたという事実が面白すぎて、僕は素朴に「このヨギソダイブの通訳さんはどんな人なんだろう」と思った。多くのユーザーが同じ気持ちだろう。ならば本人に話を聞いてこよう。気になったら企画を立てて取材に行けるのが、記者という仕事のいいところだ。
2月某日。東京・下北沢で、みょんふぁさんに話をうかがうことができた。(企画・編集・取材・文/尾崎秋彦)
ドラマ「Eye Love You」番宣で出演したチェ・ジョンヒョプの韓国語通訳者・みょんふぁが大暴れ。お笑い芸人・盛田シンプルイズベスト(ワラバランス)の持ちネタ「イメージダイブ」がジョンヒョプに対して披露され、みょんふぁが盛田の動きや話し方をマネしながら通訳した。予想外の行動がスタジオや視聴者の爆笑を誘い、終盤に叫んだ「ヨギソダイブ(ここでダイブ)」のインパクトも相まって、日本のみならず韓国でも爆発的な話題を集めた。一晩でXフォロワーが900人→5000人、Instagramフォロワーが500→1000人に急増したとのこと。
※以下、インタビュー
みょんふぁ:面白かったですか(笑)。ありがとうございます。
番組には「Eye Love You」番宣の通訳として参加しましたが、ドラマにも女優として出演しています。ジョンヒョプさん演じるテオの母親役なんですが、プロデューサーさんから「番宣の通訳と女優の両方をお願いします」という流れです。
主に女優・通訳・司会・翻訳・ナレーターで、全てが本業だと私は思っています。演劇、ドラマ、映画にも出演していて、一番大きく活動しているのが演劇です。
非常に話題になったので、「テレビすごいな」と思いましたね! 普段の私をよく知っている人たちからすると「いつものみょんふぁだった」そうですが(笑)、番組中や放送が終わってから「すみません、すみません……こんな予定では……」とずっと謝っていました。川島さんや皆さんが面白がってくれて、どんどんフィーチャーされて、通訳したジョンヒョプさんももうめちゃくちゃ面白がってくれてました。
はい、もうおっしゃる通りです、普通、通訳は主役の影にいて、だから黒系統の服を着ているわけでもありますが……あれはもういろいろな奇跡が重なりました。
どこまで話しちゃっていいのかわからないですが、もちろん盛田さんから「自分の通訳のときだけ、自分の横に来てください。それと、自分みたいな言い方で通訳をしてもらえますか?」と事前に言われたので、現場の空気で自然発生的にあんな風になってしまいました。
いやもう、あれは私ではなく、やっぱり川島さんや皆さんの力ですよ。私はずっと謝っていました(笑)。ジョンヒョプさんに「ごめんなんか変なことになっちゃって」と言ったら、彼は「いや、よかったじゃん! トレンド1位だし!」みたいに言ってくれて。本当に優しい人で。
とは言え、放送が終わってからもドラマ関係者に謝ってたんですが、でもみなさんもすごく喜んでくれて。生放送ということもあり、私、あんな緊張したのは初めてでした。出ちゃったらすぐ緊張は解けましたが、出るまでは自分にしては珍しくド緊張でしたね。
他のバラエティもそうですが、全員が同時にしゃべったりするから、彼の耳元で、ほとんど「1人コント」状態でした(笑)。「あの人がこう言ってて、その人がこう返して、どうのこうの」、でも見逃すし、聞き逃すのもあって申し訳ないなと思いつつ、同時に、過剰通訳なくらい忙しかったですね。
私、たまに英語の通訳もやっているのですが、韓国語の現場は大丈夫なんですけど 、英語の通訳の現場では毎回「この現場で今日こそクビを宣告される」とビクビクしています(笑)。というのも専門的な訓練を受けたわけではなくて、現場で覚えてきてる感じなので……。
大きめの会談の通訳などもやったりもするんですが、「今日こそクビ」と思うその度に、「ラヴィット!」みたいな奇跡が起きるんです。で、まるで「できる人」みたいに思われ、次に繋がる、という……。とてもありがたい話なんですが、いつも現場の帰り道に復習しています(笑)。
●女優になりたい、でも…父親に嘘をついて、高1からピアノを始めて芸大に入学
実は、私自身すっかり忘れていたのですが、子どもの頃、兼高かおるさんの「世界の旅」(1959~90年に放送された紀行番組)の影響から、小学校の作文で「いつか通訳になる」と書いて賞をとったことがあったんです。今回の出来事のあと、母親から、「これ覚えてる?」と、その時の賞品でもらった置き時計を見せられました。びっくりしました。私は小学校で韓国舞踊団に入り、ステージの華やかな世界にのめり込んでしまっていたので、そんな自分がいたなんて。
中学・高校では演劇部に入り、ぼんやりと女優をやりたいなと思い始めました。それで大阪芸術大学に進みたかったんですが、演劇で行くのは親が強く反対するとわかっていました。だから、親には「大阪芸大にはピアノでいく」と嘘をついて、ピアノで大阪芸大に入りました。
いえ、中学卒業前の春休みからピアノの先生を探し始めました。高校生1年生でハノン(基本的な指の練習)を始めて、ハノンの教本が全部終わってない状態なのに、大阪芸大に推薦で入れたんです。周囲の人のなかには、3歳からピアノをやっていて、推薦で落ちて、一般入試でやっと入った人がいっぱいいるなか、私だけハノンが終わってなかった(苦笑)。
ピアノをやる人はわかると思うのですけど、芸大って絶対音感だらけじゃないですか。私はもうグダグダ。高校3年間、もちろんめちゃくちゃ練習したとは言え、ある意味ほとんど一夜漬けみたいなものだから、私だけ音がわからないみたいな。芸大でもやっぱり「あいつは何なんだ」って伝説みたいになって(笑)。
(笑)。でも、私はそうまでしたピアノを辞めました。元々の計画である演劇を始めるためです(※筆者補足:同時期の大阪芸大には古田新太、羽野晶紀らが在籍・出入りしていたそう )。演劇を始めて、辰巳琢郎さんと川下大洋さんたちが立ち上げた「劇団そとばこまち」に入った……んですが、そこも1年半ぐらいで、大阪の言葉でいうところの“ケツをまくって”やめちゃったんです。
親もやっぱり演劇は反対したし、なにより芸大の卒業も危うくなったからです。安い大学じゃないし、親に無理を言って入れてもらった以上、まずはちゃんと卒業しようと思って。
親をこれ以上泣かせちゃいけないと思ったんですね。大体、体育の授業は1、2回生のときしかしないものですが、私は3、4回生になっても緑のジャージを着て体育やっていました。なので3、4回生はめっちゃ学校へ行きました(笑)。
卒業して、晴れて演劇の世界へ……と思っていたら、結婚したんです。そのあと、阪神淡路大震災がありました。そこでラジオの番組をやらないかとお話をいただいたんです。当時、被災地の人たちの生活情報の、外国語の番組がなかったんですね。日本語がわからない人たちに、生活情報を届ける必要がありました。電気も復旧していないからテレビはつかないので、ラジオで。
いろんな国の人たちに発信するための、「FMわぃわぃ」という番組です。私は韓国語担当で、2時間ぐらいのコーナーを持ったったんです。ですが、そのときはまだ韓国語がしゃべれる状態じゃなかったんですよ(笑)。
読み書きはできましたが、私は在日三世で、両親も韓国語は話せなかった。それでも勉強しながらやって、ついでに「韓国語を勉強しよう!」みたいなコーナーを作って。
そこから翻訳の仕事や、日本語・韓国語の司会やナレーターをやるようになりました。その後、離婚して、ニュージーランドに住む叔父が「『男はつらいよ』のミュージカルをやる」というので1年間ニュージーランドへ行き、営業と振り付けと演出を担当し、日本へ帰ってきたタイミングで一発目の韓流ブームがやってきました。
・みょんみょんの体で覚える韓国語レッスン 随時
・映画「レンタル×ファミリー」阪本武仁監督 2024年3月6日(水)配信スタート Amazon、U-nextほか
・映画「渇愛の果て」有田あん監督 2024年5月18日(土)東京・新宿K's cinemaほか全国順次公開
・舞台 ワンツーワークス主催「GOTT」2024年7月 下北沢駅前劇にて(予定)
執筆者紹介
尾崎秋彦 (おざき・あきひこ)
映画.com編集部。1989年生まれ、神奈川県出身。「映画の仕事と、書く仕事がしたい」と思い、両方できる映画.comへ2014年に入社。読者の疑問に答えるインタビューや、ネットで話題になった出来事を深掘りする記事などを書いています。
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