松村北斗&上白石萌音「夜明けのすべて」ベルリンでお披露目 三宅唱監督「ふたりのキャラクターを友だちみたいに愛して観てもらえた」
2024年2月23日 10:25
現在開催中の第74回ベルリン国際映画祭のフォーラム部門で、三宅唱監督の「夜明けのすべて」がワールドプレミアを迎え、満席の会場で大きな拍手で迎えられた。現地には三宅監督とともにベルリン参加は今回が初めてとなった、主演の松村北斗と上白石萌音が顔を揃え、レッドカーペットではベルリン在住と見られる日本人ファンに囲まれる一幕も見られた。
瀬尾まいこの同名の原作を映画化した本作は、職場で知り合ったPMS(月経前症候群)の藤沢と、パニック障害を抱える山添が、はじめは反発しながらも、次第に支え合っていくようになる物語で、人と人の繊細な距離感を見つめる。
終映は午後11時を回っていたにもかかわらず、上映後には観客との熱気に満ちたQ&Aが行われた。
「きみの鳥はうたえる」(2019年、フォーラム部門)、「ケイコ 目を澄ませて」(2022年、エンカウンターズ部門)ですでにベルリンを経験済みの三宅監督は、「前回はコロナ直後で、定員が半分に制限されていたので、今回はこうした熱気を体験できてとても嬉しいです」と、喜びをあらわにした。
どのようにふたりのメイン・キャストを決めたのか、という問いに三宅は、「プロデューサーの方々から提案を頂いたのですが、僕は瞬間的に素晴らしいアイディアだと思いました。またお二人が素晴らしいのはもちろんですが、僕としては出てくる全員を気に入っています。今日は観客の方も出てくる全員を愛してくれているように感じられたので、とても幸せでした」と語ると、会場に拍手が起こった。
さらに司会者から、恋人にはならないふたりの関係について尋ねられると、「原作の展開がそうで、それこそ僕が一番惹かれたところでした。僕らは習慣的に、スクリーンのなかに若い男女が出てくると恋をするか、あるいは失敗するか、どちらかに違いないと思うところですが、僕たちの現実は当たり前ですがそうではないですよね。違う者同士が(恋人になることなく)一緒にいい仕事をすることはできる。そういうものを撮ることは、とくにいまの日本の状況においては有意義だと思いましたし、実際にこのふたりが本当に素晴らしい演技をしてくれたと思います」と答えた。
一方、観客から松村と上白石に対して、本作のテーマについて問いかけられると松村は、「一般教養レベルではパニック障害について知っていましたが、いざ自分が演じることになって踏み込んでいくと、パニック障害を患っている人の数だけ症状も異なるということを知り、一概にひとつの言葉でまとめてしまうのは危険であると思いました。この映画を通してすべてを知ることは不可能だけれど、一歩、半歩でもその症状に対して寄り添ってくれたらいいな、という思いを強く持ちながら演じていました」と返答。
一方の上白石は、「まず初めにお聞きしたいんですが、日本では生理の話をするのはちょっと恥ずかしいことなんですが、それはこちらも一緒ですか?」と切り出し、会場の「そうでもない」という反応を受けて、「そうですか。日本もそうなるといいな、そういうきっかけにこの映画がなるといいなと思いました。またもともと原作の大ファンだったので、参加できてすごく嬉しいですし、PMSとパニック障害に主軸がある映画ではありますが、何かしらを抱えて生きているすべての人のための作品であるのが、すごく好きなところです。この映画を観て救われる人がいいなと思いながら撮影をしていました」と語り、再び会場に大きな拍手が響いた。
Q&Aを終え、日本のマスコミ向けに取材を受けた3人は「上映後、お客さんから力強い拍手を頂き感激しましたし、ふたりのキャラクターを友だちみたいに愛して観てくれたのだと感じました」(三宅)、「もっとこの映画のことを知りたいんだと感じさせられる質問ばかりで、さらにこの映画への自信が湧きました。本作はいろいろな人の人生がそのまま映し出されていますが、人生のしんどいことも笑えることも、お客さんが一緒になって感じてくれている空気が伝わってきました」(松村)、「国籍や人種が違ういろいろな方がいましたが、みんな同じところで笑ったり、張り詰めたりして、文化や言葉を超えた共通の何かがあるんだと感じさせられました」(上白石)と、それぞれ大きな手応えを感じた様子だった。
ちなみにフォーラム部門の日本映画は他に、想田和弘監督のドキュメンタリー「五香宮の猫」と、朴壽南監督と朴麻衣監督、母娘の共同制作による「よみがえる声」が入選した。こちらも別途リポートしたい。(佐藤久理子)
フォトギャラリー
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。