【「ブルーバック あの海を見ていた」評論】自分を見つめ直すことが生み出す新たな発見。
2024年1月2日 22:00

「自分に戻ろう」…これはあるアスリートがスランプを脱した後に語った言葉である。不調に陥ったとき、思うように事が進まないとき、悩み、逡巡する。伸び伸びと活動するために何をすれば良いのか。これは誰もが幾度となく突き当たる切実な問題だ。
原点への回帰。子役として活動を始めた後、ティム・バートンの「アリス・イン・ワンダーランド」(2010)で華々しいハリウッドデビューを飾った女優ミア・ワシコウスカは、エンタメ大作からジム・ジャームッシュ、デビッド・クローネンバーグ、ギレルモ・デル・トロなど、作家性の高い映画監督と現場を共にしてきた。オファーが絶えない中で、彼女はある重大な決断をする。活動の拠点を母国オーストラリアに移す選択をしたのだ。
そしてもうひとり、スティーヴン・スピルバーグの「ミュンヘン」(2005)やガイ・リッチーの「キング・アーサー」(2017)など、ハリウッド映画の常連俳優エリック・バナ。本作の製作者で、猟師として出演しているバナは、大作志向から一線を画すかのように母国オーストラリアで映画の製作を続けている。
前置きが長くなったが、この映画は海洋研究者である主人公が、母が倒れたとの報を受けて故郷である豪の海岸沿いの我が家へと戻るお話である。言葉を発しなくなった母を気遣いながら、彼女は幼少期から成長期へ、海岸の自然と海を棲家とする生命たちを守り続けてきた母と過ごした日々に思いを巡らせる。
8歳の誕生日、その日を待ちわびていた母は、娘をボートに乗せると一緒に海にダイブする。生まれて初めての海でアビー(ミア・ワシコウスカ)は巨大な硬骨魚類ウェスタン・ブルーグローバーと出会う。背中が青いことから“ブルーバック”と呼ばれて愛される魚との“一生もの”の出会いによって海洋生物の美しさに魅了されていく。
15歳に成長したアビーは、海で出会った魚たちを描きながら進学の準備をしている。海を見渡せる場所で自然と共生する母と娘の穏やかな暮らしは、リゾート開発を目論む男の登場で荒波に晒される。更に、絶滅危惧種にすら水中銃を向ける密猟者が海を荒らす。侵略者たちの蛮行を見かねた母は身を以て立ち向かっていく。
1997年、原作者のティム・ウィントンは、海の見える家から都会へと引っ越した幼少期の体験と、30代になって切実に感じた自然が訴えかける「枯渇」感を記した小説「ブルーバック」を発表。出版直後、監督のロバート・コノリーが映画化を申し出る。“ブルーバック”をCGで再現することも可能だが、監督はリアルな描写にこだわり、当初はアニメ作品として構想されていた。その後、クリーチャー制作技術が劇的に進化し、青い背の巨大魚“ブルーバック”を実寸大で再現し、水深20メートルの海中で泳がせることが可能となった。
未来を見定めるために自分に戻ること。この映画の根底にあるのは、自らの原点に立ち戻り、かけがえのないものを再認識することの大切さだ。過剰な描写などは一切なく、どこまでも自然にある“そのもの”を見つめようとしている。作り手と演者たちのつながりと故郷への慈しみの精神が、飾り立てることがないこの映画に独特な味わいを与えている。(高橋直樹)
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