黒澤明監督×作曲家・早坂文雄の打ち合わせ音声が残っていた! 12月に世界初CD化
2023年10月9日 12:00
この音声は、CD「黒澤明と早坂文雄の対話」として12月下旬ごろに発売予定。音楽研究家でレーベル「Salida」を運営する出口寛泰氏が音声発見にいたった経緯や、会話の内容について映画.comに語った。
黒澤監督と早坂は、「野良犬」「醜聞」「羅生門」「白痴」「生きる」「七人の侍」「生きものの記録」で仕事を共にし、世界的に高い評価を受けてきた。しかし、早坂が1955年10月に41歳の若さで死去。親友であり盟友の間柄だった黒澤監督は、友の早すぎる死に大きな喪失感を抱いたという。
早坂は、55年2月に当時の一般家庭では普及していなかったテープレコーダーを購入。今回の音声も、来客があるたびに録音していたうちのひとつ。今までどこにあったのかというと……。
出口「早坂さんの研究をしていた音楽評論家の秋山邦晴さんが70~80年代、早坂さんの遺品確認・調査のために早坂家を頻繁に訪れ、音声も含めてごっそり預かっていたらしいんです。秋山さん亡き後、それら管理していた妻でピアニストの高橋アキさんが、私の運営するSalidaを以前から応援してくれており、そのご縁で今回の発見へと結実しました」
録音当時、黒澤監督は45歳、早坂は40歳。話題が豊富で、脚本完成後の「生きものの記録」に込めた思いから、共通の趣味であった古美術の話題にいたるまで多岐にわたる。
出口「当時のテープレコーダーは、6ミリか6ミリ以前のもの。それを秋山さんがカセットテープに入れてくれていた。ただ、右チャンネルしか音が入っていませんでした。それを右と左、交互に分けて聞けるようにしてみたら、文化的示唆に富んだ音声が明瞭に確認できるようになりました」
ふたりの対話は、完成したばかりの新作のタイトル(後の「生きものの記録」)を検討するところから、溝口健二監督作「楊貴妃」を酷評する様子も聞き取ることができる。さらに、黒澤監督が多摩川の鮎釣りに早坂を誘うひと幕も。早坂は「10月くらいなら……」と答えて意欲をのぞかせているが、くしくも早坂は10月に他界しているだけに黒澤監督の失意のほどをうかがい知ることができる。また、大映の永田雅一社長が日本映画界に好意的だったフランスの悪口を新聞の対談で連発し、カンヌ国際映画祭組織委員会の逆鱗に触れたことも話題に挙がり、ふたりで呆れ果てている様子も。
黒澤監督と早坂の和気あいあいとしたやり取りに、出口氏は大きな意義を見出しており「音声を初めて聞いたときは『こりゃあ、えらいこっちゃ』と思いました。と同時に、色々な問題をクリアして、ひとりでも多くの人に聞いてもらえたら……、と思いました」と振り返る。
出口氏は黒澤監督の権利管理関係者への許諾確認に1年間を費やし、日本が誇る世界的な映画監督と作曲家による対話録音の世界初CD化を実現させた。
この功績について、「黒澤明の映画術」(筑摩書房)を上梓している映画評論家の樋口尚文氏も喝采をおくる。
「音楽評論家の秋山邦晴さんには、生前さまざまなお話をうかがって勉強させていただきましたが、秋山さんが自主的に音楽、映画をめぐるさまざまな資料を集めて整理されていたことで、さまざまな文化的遺産が今に伝えられることになりました。そして今回、そんな志を継いだSalida主宰の出口さんが、まさに秋山さんの遺したアーカイブを埋もれさせず世に出すべく奔走されたのは大変意義あることです。黒澤明と早坂文雄の信頼関係はつとに知られることですが、それを肉声で聴くとここまで親しく深いものだったのかと感動させられます」
フォトギャラリー
執筆者紹介
大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
ホワイトバード はじまりのワンダー NEW
いじめで退学になった少年。6年後、何をしてる――?【ラスト5分、確実に泣く“珠玉の感動作”】
提供:キノフィルムズ
映画料金が500円になるヤバい裏ワザ NEW
【12月“めちゃ観たい”映画が公開しすぎ問題】全部観たら破産確定→ヤバい安くなる裏ワザ伝授します
提供:KDDI
【推しの子】 The Final Act
【社会現象、進行中】鬼滅の刃、地面師たちに匹敵する“歴史的人気作”…今こそ目撃せよ。
提供:東映
モアナと伝説の海2
【「モアナの音楽が歴代No.1」の“私”が観たら…】最高を更新する“神曲”ぞろいで超刺さった!
提供:ディズニー
失神者続出の超過激ホラー
【どれくらいヤバいか観てみた】「ムリだよ(真顔)」「超楽しい(笑顔)」感想真っ二つだった話
提供:プルーク、エクストリームフィルム
食らってほしい、オススメの衝撃作
“犯罪が起きない町”だったのに…殺人事件が起きた…人間の闇が明らかになる、まさかの展開に驚愕必至
提供:hulu
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
文豪・田山花袋が明治40年に発表した代表作で、日本の私小説の出発点とも言われる「蒲団」を原案に描いた人間ドラマ。物語の舞台を明治から現代の令和に、主人公を小説家から脚本家に置き換えて映画化した。 仕事への情熱を失い、妻のまどかとの関係も冷え切っていた脚本家の竹中時雄は、彼の作品のファンで脚本家を目指しているという若い女性・横山芳美に弟子入りを懇願され、彼女と師弟関係を結ぶ。一緒に仕事をするうちに芳美に物書きとしてのセンスを認め、同時に彼女に対して恋愛感情を抱くようになる時雄。芳美とともにいることで自身も納得する文章が書けるようになり、公私ともに充実していくが、芳美の恋人が上京してくるという話を聞き、嫉妬心と焦燥感に駆られる。 監督は「テイクオーバーゾーン」の山嵜晋平、脚本は「戦争と一人の女」「花腐し」などで共同脚本を手がけた中野太。主人公の時雄役を斉藤陽一郎が務め、芳子役は「ベイビーわるきゅーれ」の秋谷百音、まどか役は片岡礼子がそれぞれ演じた。