第80回ベネチア国際映画祭「ほかげ」に大きな拍手 塚本晋也監督「一般の人の目を通して戦争の恐ろしさを語りたい」
2023年9月6日 13:00
ベネチアの参加は本作が9作目、さらに審査員としても3回訪れている塚本監督にとって、本映画祭はいわばホームグラウンドのようなもの。彼の名前がクレジットで現れると会場には大きな拍手が鳴り響いた。また上映後のQ&Aでは、それぞれが言葉を述べるたびに拍手が会場を満たした。
前作「野火」に続く戦争を題材にした作品であり、「終戦企画」である「ほかげ」は、親を亡くした少年と、夫を戦争で失った居酒屋の女、復員して間もない若い兵士、テキ屋の男が、戦後の闇市で絡む物語だ。
本作を作った動機ついて塚本監督は、「10年ぐらい前に『野火』という作品を作ったのは、世界全体がきな臭くなって、戦争に近づいているのではないかという気がしたからです。『ほかげ』では、戦争に行った人だけではなく、行かなかった人も戦争によって酷い目に遭った、その一般の人の目を通して戦争の恐ろしさを語りたいと思いました。今日、一番心配なのは、次の世代のことであり、彼らが戦争に行かなくても済むようにという祈りを込めて作りました」と語った。
今回塚本監督と初めて組んだ森山は、「『鉄男』や『野火』『斬』など、塚本監督の力強い作品に感銘を受けていたので、参加できて光栄に思っています。さらにそれがベネチア国際映画祭に選ばれて、こういう形で参加させて頂けたことを本当にありがたく思っています。戦後の混沌のなかで少年がサバイブし、いろいろな男女に出会うなか、自分がテキ屋の男を演じる上でどういう経緯で彼と少年が一緒に旅をすることになったのか、彼がどんな風に生きてきたのかを掘り下げるために、監督がいろいろな文献を持ってきてくれたり、多角的な視点で捉えようとされている、その執念やエネルギーの強さにずっと圧倒されていました。それはこの映画の、また塚本監督のこれまでの映画のパワフルさに繋がっているのかなと思います」と感想を述べた。
一方、塚尾が用意してきたイタリア語で訥々と、「わたしの名前はオウガ・ツカオです。8歳です」と自己紹介をすると、会場には歓声と拍手が沸き起こった。
公式上映後に日本のマスコミの取材に応じた彼らは、「静かな雰囲気のなかにも、(観客に)こちらの祈りを込めた思いが届いたような気がしました。プレス向けの上映のときも同じような手応えがあったので、祈りが伝わった気がして嬉しかったです」(塚本)、「ヨーロッパの映画祭は初めてだったので、参加できてとても光栄でした。塚本監督がとても愛されているのがわかりました。日本人がこの映画を観る感覚と、ヨーロッパの人がこの映画を観る感覚は、(戦争が身近にあるという点において)もしかしたら距離感が違うのかもしれないし、その辺の反応は気になるところです。でも脚本を読んだ最初の印象としては、真正面から暴力を見つめ続けているという印象で、その視点の力強さに圧倒されました」(森山)と語った。
ベネチアを皮切りに、今後本作がどのように世界に受け取られていくのかも、興味をそそられずにはいられない。(佐藤久理子)
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