ミュージカル版「スクールオブロック」の西川貴教が、人と人とが心でつながる尊さを熱くシャウト!【若林ゆり 舞台.com】
2023年8月20日 10:00
「スクール・オブ・ロック」(2003)は、とにかく熱い映画だ。ジャック・ブラック扮する主人公のデューイは、全身に漲るロック愛しか取り柄がないのに、ロックミュージシャンとして成功する夢を叶えられず、親友の家に居候するダメ男。そんなデューイがニセ教師として潜入した学校で、生徒たちと無理やりロックバンドを結成する。バンドバトルに向けてひとつになっていくデューイと生徒たちの姿に、心を熱くせずにはいられない!
映画公開から12年を経てブロードウェイで開幕したこのミュージカル版、なんと作曲は「オペラ座の怪人」などを手がけたアンドリュー・ロイド=ウェバー。これが楽しくないワケがない! 待望の日本版公演は2020年に上演されるはずだったが、コロナ禍により中止となってしまった。そして映画から20年目の今年、ついに日本版が開幕した。ここではデューイ役を演じる西川貴教(柿澤勇人とダブルキャスト)に、作品への思いを熱く語ってもらおう。
「映画版は公開当時に見まして、すごく好きでした。ジャック・ブラックのキャラクターが非常に印象深いのはもちろんですけれど、時代背景に僕自身のローティーンの頃が色濃く映し出されていて。出てくるアーティスト出てくるアーティスト、本当に僕にとっての音楽的な原体験に直結する人たちばかりなんです」
この作品が描き出すロック愛やバンドといったモチーフに共鳴するのと同時に、西川のなかには別の感慨も湧きあがっていた。
「20年前、一緒にしのぎを削っていたバンドやアーティストの仲間たちが、いまではどんどん少なくなってきている。そのなかにはやはり、デューイと同じように夢半ばで叶わなかった人たちもいて。僕は、努力を重ねながらも去らざるを得なくなったみんなの思いも『背負っていかなきゃいけない』と思いながら、ここまでやってきたところがあるんです。だから、デューイだけではなくネッド(音楽を諦めたデューイの親友)の気持ちもすごく胸に刺さりました。一歩間違えば、自分もそうだったかもしれないから。それに、2020年に選ばれながら舞台に立てなかった24人の子どもたちの思いも、今回は背負っていくわけですからね」
映画版のデューイは、親友ネッド役を演じ、ブラックとは実生活でも親友だったマイク・ホワイトが、ブラックのために当て書きした役。それだけに、映画はデューイがひたすら濃く、際立つ作品だった。しかし舞台版では、生徒たちそれぞれの心にももっとスポットライトが当たるというところも、大きなポイントだ。
「迷ったり、一歩を踏み出せなかったりする人にはすごく響く作品になっていると思います。それぞれの目線で見ていろいろなことを感じて、そして持って帰ったものをまた種として育てられるような作品になるんじゃないかな。それでもね、舞台版でもやっぱりデューイは大変です! この作品におけるデューイの仕事量たるや。僕はブロードウェイで偶然この作品を見ていたのですが、そのときから『デューイが本当に大変そうだな、日本でやるなら誰になるのかな?』と思っていました。まさか自分がやるとは(笑)。僕もこれまでいろいろな作品をやらせていただきましたが、これほどのテンションと場の支配感は、いまだかつて経験したことがない。僕だけつねに7割、8割のエンジンがかかった状態で、同じテンションをずーっと維持していなければいけないんですよ! 現実がわからなくなります(笑)」
デューイは無責任でだらしなく、かなり利己的なロックおたく。そんな姿に「しょうがないな」と呆れながらも、その一途な思いと愛嬌で「憎めないなぁ」と思わせる男だ。「憎めないロック野郎」はともかくとして、「だらしない」とか「怠惰」という要素は、西川のイメージからは、かなりかけ離れているように思うのだが。
「いや、僕だってだらしないですよ。見せないようにしているだけで、似たようなところはたくさんあります。だって本音を言えば、あんな風にだらだらしたいです。夏中ハワイから帰って来たくない(笑)。でも僕はしっかり計画を練って、周りとの整合性を取ってから物事を進めるタイプなので、ある意味では真逆。デューイはもうロック愛しかなくて、周りのことは『なんとかなるだろ』と思っていますよね。でも昔、バンドマンだった頃の僕って、もしかしたらこういう感じだったのかもしれない。いまでこそ皆さんと協力しながらやっていますけど、あの頃周りにいた当時のバンドのメンバーは、僕のことをデューイみたいに見ていたのかもしれないな、と思うんです」
ロック愛に目覚め、デューイのように夢を追いかけていた頃の西川は、本人曰く「田舎の子ども」。周りにデューイのように夢へと導いてくれる存在もなく、「すべて偶然とか運に恵まれて歩んできた」と語る。
「滋賀の田舎で暮らしていた小学生の頃は、近所に住んでいた母方の祖父が大好きで、僕にとってじいちゃんがすべてだったんです。じいちゃんに褒めてほしくて剣道を始めたり、じいちゃんに褒めてほしくて書道をやったり。ところが、そのじいちゃんが病気で突然亡くなって。僕は心にぽっかりと大きな穴が空いてしまった。そんなときに、たまたまつけたラジオでビルボードトップ10の曲を聞いて、興味を持ち始めて。そこから中学に行ってバンドを組んだんです。友だちの間で、バンドというより『ギターかっこいいな』となったんですが、サラリーマン家庭ではギターなんか買ってもらえない。だから持っている友だちと一緒に遊んでいると、なんとなくバンドっぽくなってくる。でも、ギターやるなら、僕はもう脱帽だっていうくらい、うまいやつが周りにいたから。『歌ってよ』と言われて、『歌ならタダでできるし、いいや』と引き受けただけなんです」
偶然と運だけ、というのは謙遜だろう。地方のバンドマンが東京の音楽界で大旋風を起こすまでには、地元から離れたライブハウスを借り音響機材を借りて、バンドを集めてイベントを運営したり、チケットを手売りしたり。センスと実行力、セルフプロデュース力がなくては到底できないはずだから。
「不思議なんですけど、自分のなかでまず『20歳までにデビューしよう』と勝手に決めちゃったんですよ。いま考えたらよくあんなライブハウスもない田舎にいて『デビューできる』と信じられたなと思うんですけど(笑)。でも計画通り20歳でバンドデビューして、『24歳ぐらいに転機を迎える』と勝手に思って、22歳ぐらいでバンドをやめた。それからはひとりでまたゼロからスタートして、ひたすら曲作って歌詞書いて自分でデモ録って。それをダビングしていろんなところにまいていたら、本当に24歳ぐらいのときにデビューできました。T.M.Revolutionはそこから。本当に奇跡みたいな話だなと思います」
いま、稽古場で夢を追っている、才能豊かな子役たちと過ごして刺激を受けているという西川。彼らから学ぶことも多いのだとか。
「もう『子どもたち』とか『子役』なんて言い方が失礼なぐらい、みんな自分の役に責任をもって、すごい速度で成長していますからね。毎シーン終わるごとに、(演出の)鴻上(尚二)さんを捕まえに行って、ひと言のセリフに対してでも『こういう風に演じたい』と訴えて、熱意を持って役に挑んでいるんです。日本人って、自分の気持ちをうまく表現できないとか、自己主張が下手だみたいなことを言われますけど、彼らはすごい。やっぱり選ばれている子たちですから、すごく頼もしいです」
この作品は、ありがちな成長物語ではない。実は物語を通してデューイはたいした成長は見せないし、ぶれないロック愛を貫ききっただけ、かもしれない。しかしデューイには素晴らしい美点がある。彼は偏見や先入観にとらわれることなく、子どもたちに対しても色眼鏡をかけずにまっすぐに見て、それぞれのよさをストレートに言い当てることができるのだ。
「そこは僕もすごく好きなシーンです。子どもたちのキラリとした個性を濁りのない目で見つけて。『こんなにいいものがあるんだよ』と親御さんたちに見せてあげる。物事って実際、つねに減点方式になりがちじゃないですか。僕もそうですが、『あれができなかった』とか『これが叶わなかった』とか、減点方式で物事を考えがちですよね。でも『加点方式でいろんなことを考えられると前向きになれるのになあ』と思うんです」
そして何より、クライマックスのライブシーン。これは間違いなく映画には太刀打ちできない、舞台でしか味わえない魅力となるはずだ。
「それは間違いないですね。ロイド=ウェバーの曲は『ここはこうで絶対守らなきゃダメ』みたいなルールが非常に厳しいんですよ。だからがんばって、闘っています。はっちゃけるだけじゃダメなんです。まさに『冷静と情熱の間』になるわけで。でも精一杯楽しみたいと思います」
振り返れば1999年に『リトルショップ・オブ・ホラーズ』の主人公・シーモア役で初めて挑んでから、8本ものミュージカルに出演してきた。西川にとって、ミュージカルの魅力は?
「魅力のひとつは、やはりナンバー(歌)があることですね。自分のもっている武器を使いながら表現できるから。僕は最初、お芝居もよくわからなかったし、『やれって言われたからやってます』みたいな感じでした。それまでツアーなどでは自分で作って自分で演出して自分で主役やって、全部自分でやらないと結果が出ないみたいな気がしていたんですね。それが、こうして人に与えてもらって、セリフが用意されていることで、まったく違った世界が見えた。音楽ってメロディーと歌詞があると、『もうそれだけで成立してるもんでしょ』と思いがちなんですけど、そうじゃない。その人の、そのときの感情を歌えることが、本質的な歌の素晴らしさなんじゃないかと思うんです。僕はミュージカルをやらせてもらうようになって、そこをすごく大切にするようになりました。ミュージカルって何も知らないで見ると、『突然歌ってるね』となるんですが、お芝居のセリフや相手の気持ちとのやりとりのなかで、気持ちが乗っていちばん高ぶるところで歌ってるんですよね。だから段差がない。歌の本質ってそこだと思うんです」
もうひとつ、西川が感じているミュージカルの魅力は「人と人とのつながり、関係性をもてること、それが新たな可能性を広げること」だという。それは、この作品が伝えてくれるテーマそのものでもある。
「いま、PC一台あればバンドメンバーなんかいなくても、音声アプリやAIを使えばひとりでも歌っぽいものができてしまう。でも、やはり人が人と生み出す気持ちには絶対に勝てないと思うんです。生の演奏で人の気持ちが乗った歌を届けられるミュージカルほど、人の気持ちに届くものはないと思います。世の中、コロナもありました。この感染症にはマイナス面もたくさんありました。でも、『人と人とがつながる、人と人が交わるってやっぱり大切なんだなあ』ということを改めて感じさせてもらえる機会を作ってくれた。それを知ったいまだからこそ、より感じてもらえるはずだと僕は思っています。人と人とが本気で気持ちのやり取りをする、その意味を舞台から一生懸命伝えさせていただきたいし、大汗かいてやっているので、ぜひ見にいらしてください!」
ミュージカル「スクールオブロック」は9月18日まで東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)で、9月23日~10月1日に大阪・新歌舞伎座で上演される。詳しい情報は公式サイト(https://horipro-stage.jp/stage/sor2023/)で確認できる。
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