【世界の映画館めぐり】ニューカレドニア、ラ・フォア映画祭で「浅田家!」を見る ヌメア&田舎の映画館を訪問<後編>
2023年7月29日 09:00
映画.comスタッフが訪れた日本&世界各地の映画館や上映施設を紹介する「世界の映画館めぐり」。今回は早めの夏休みをとった編集部スタッフが、南太平洋に位置するフランスの海外領土、ニューカレドニアの2つの映画館に行ってきました。
レポート前編(https://eiga.com/news/20230723/3/)では、6月30日~7月9日に開催されたラ・フォア映画祭(https://www.festivalcinemalafoa.nc/)で、日本映画「浅田家!」が上映された首都ヌメアのシネコン、シネシティでの鑑賞レポートをお届けしました。今回の後編は、映画祭のメイン会場でもある、本島北西部のラ・フォア市(La Foa)を訪問。飛び入りで閉会式に参加&ジャン=ピエール・ジュネの名を冠した地元の施設についてレポートします。
エアカランの直行便で成田からニューカレドニアに深夜に到着し、翌日ヌメア市内で「浅田家!」鑑賞、その翌日にラ・フォアに移動というややハードなスケジュールを組んだ筆者。ここは公共交通機関がバスのみで、日本の田舎町や離島と同様、車がないと思うがままには動けないことがわかりました。日本でもペーパードライバー状態、国際免許証を持たない私が首都ヌメアから115キロ離れたラ・フォアに行く手段は、長距離バスしかありません。「浅田家!」鑑賞前にヌメアのツーリストインフォメーションで、バス乗り場を聞き、チケットを予約しました。
ニューカレドニアはフランスの領土ですが、人口の半数以上は先住民であるメラネシア系の方々です。ヨーロッパ系住民が多く、アジア系の方もちらほら見かけた首都ヌメアのある南部よりも、北部在住者が多いようで、長距離バスの中は私ひとりがアジア系でした。また、ニューカレドニアでは、この長距離バス以外に、ヌメア市内バスや民間の空港送迎バスも含め、大型車両を安全&快適に運転する女性ドライバーさんが数多く活躍されているのがかっこよく、印象的でした。
1時間半ほどのドライブを経て、ラ・フォアに到着です。自然豊かな田舎道が続くなか、バス停付近に近づくと映画祭の横断幕、そして、真っ赤なかわいらしい映画館、シネマドゥラ・フォア(Cinema de La Foa)が見えてきました。ここで、コンペティションで受賞したニューカレドニアの映像作家による短編を中心とした作品が映画祭最終日に上映されます。こちらはなんと無料鑑賞可能です(事前申込制)。すでに外観からわくわくする映画館、そして日本では見ることのできない作品群に期待が膨らみますが、まずは重い荷物を置くべく宿へ向かいました。
ニューカレドニア旅行と聞くと、リゾート旅をイメージする方が多いと思いますが、筆者の休暇は大概バックパック&安宿がメインでして、事前に予約した民泊のお宅を目指します。道すがら見かけた公共の建物の傍らに「鶴岡市記念広場」という漢字で書かれた看板を発見しました。ラ・フォア市は山形県鶴岡市と友好都市とのこと。ふと、他界した筆者の大正生まれの祖母が、鶴岡ではありませんが山形の農家の娘で、若い頃に農作業の手伝いで米俵を背負っていたという話を思い出しました。かつての日本のお百姓さんたちが背負った米俵は、バックパックなんかよりずっと重かったんだろうな……当時と違って飛行機で自由に外国にも行けるし、15キロでめげていられないなと反省。そして、いつか鶴岡市のミニシアター、鶴岡まちなかキネマに行ってみたいなと思いました。
映画祭最終日の前日に、ゲストや関係者を迎えた授賞式が開催されるとのことでした。私は休暇で来ていたのでもちろん招待状などありません。しかし、ヌメアで観た「浅田家!」の観客の好反応がとても気になっていたので、ダメもとで映画館のスタッフの方に、「日本の映画情報サイトの記者なのですが、もし可能なら授賞式に入れてもらえませんか?」と交渉したところ、「日本から来たの?」と驚きながら、「授賞式1時間前に映画祭関係者が来るから尋ねてみて」と言ってもらえました。(英語もフランス語も流ちょうに話せない映画記者という時点で十分怪しいですが…)怪しい者ではない、と証明したく、映画.comのSNSに投稿した「浅田家!」上映後の反応を見せたところ、日本のファンの反響の大きさに目を丸くされていました。
授賞式開始の夜まで、ラ・フォアの町を散策しました。とてものどかな田舎町で、牛の放牧や馬の品評会も行われていました。ニューカレドニアのメラネシア系の方々は自らをカナックと呼ぶそうで、カナックの伝統的な彫刻が飾られている公園が映画館ほど近くにあり、さまざまな独創的な作品を楽しめます。ハワイなど他の太平洋諸島はもちろん、そして、遠くは北海道のアイヌの木彫りも想起させるデザインです。はるか昔、このあたりにも住んでいた海洋民族の祖先が、海を渡って東南アジアや台湾などを経て、もしかしたら日本にも来たのかな?とロマンを感じます。
授賞式の夜、映画祭委員会のジュリア・トリンソンさんから、「当日欠席する人もいるだろうから、席は用意できると思います」とのうれしいお返事をいただきました。ジュリアさんも「浅田家!」にとても感動したと仰っていました。シネマドゥラ・フォアは、今年で25周年を迎えるラ・フォア映画祭を記念した施設で、第1回の審査委員長を務めたジャン=ピエール・ジュネの名が冠されています。真っ赤な外観に、映画関係者をハリウッドならぬラフォアウッドともじって描かれた迫力ある壁画が施された「アメリ」などジュネ監督の映画に出てきそうな建物です。館内も主にフランスのスターの写真やポスター、そして映画祭を訪れた数々の映画人の手形などがディスプレイされ、映画への愛にあふれた空間でした。
いよいよ授賞式。今年の審査委員長であるメインゲスト、バレリー・ドンゼッリ監督も登壇し受賞作品が発表されます。コンペ部門となるニューカレドニアの短編作品は、高校生など若い世代の先鋭的な作品、先住民の伝統的な暮らしをユーモアをもって紹介した作品、また、家庭内暴力をテーマとした社会派の作品などが印象的でした。残念ながら「浅田家!」は観客賞を逃しましたが、映画祭の関係者に「浅田家!」が多くの日本のファンに愛されている作品であることを直接報告できたことで、これから中野量太監督や二宮和也さんら俳優陣の才能、そして日本映画への注目はニューカレドニアでさらに高まるのではないかな、と思います。
そして最終日、映画祭に参加していたクララさんとパトリスさんというカップルが同じ民泊に宿泊しており、「一緒にヌメアまで乗っていきますか?」と声をかけてくださいました。帰路の長距離バスの予約をしておらず、ラ・フォアを通りかかるバスに空席があったら乗れる…という状況だったので、本当に助かりました。クララさんは趣味で短編映像を撮っており、映画祭に2年連続で作品を出品しているそう。そして、クララさんのお祖母さんは日系人だけれど、会ったことも、写真もないのです……と告白されました。レポート前編に書きましたが、明治、大正時代にニッケル鉱山への出稼ぎで日本から渡ってきた移民の子孫で、その後の戦争の混乱で家族が生き別れになってしまったのでしょう。情報として知っているだけではなく、リアルに出会った方から聞く話は重みが違います。
また、この映画祭の少し前におふたりは初めての日本旅行をしたそうで、個室温泉宿を楽しみ、物価の高いニューカレドニアに比べるとリーズナブルに食品が買えるコンビニに通ったり、東京の電車や地下鉄に驚き、雪見だいふくにハマり、私がその名の意味を解説したところ美しいと感激していたり……と車内では日本の話題で盛り上がりました。しかも、私が車内に財布を忘れるという失態をおかしてしまったのに、その後宿まで届けに来て下さって、親切なおふたりにはもう感謝しかありません。
そんなエピソードもあり、ヌメアに戻ってから公営墓地内にある日本人のお墓に行き、手を合わせました。ニューカレドニアにはすばらしい自然があり、気候も人もあたたかく住みやすい場所なので、島の家族と共に土地に愛着を持って一生を終えた日本人もたくさんいらっしゃると思います。一方で、日本人のお墓の傍らには、ヌメア近郊で沈没した海軍潜水艦での戦没者慰霊碑もありました。こちらも私は知らなかった歴史です。移民については様々な記録がありますが、太平洋戦争時のニューカレドニアにおいて日本は敵国側となるので、多くは語られていないのかもしれません。何にせよ生まれた時代によって、国家間の悲劇に巻き込まれてしまう人々がいることは本当に悲しいことです。
その後立ち寄ったスーパーでも、アルコール購入時のIDとしてパスポートを見せたら「あなた日本人? フランス語わかる? 私のルーツは沖縄だよ」とレジ係のお姉さんに明るく話しかけられ、ご先祖がチオの鉱山で働いていたというお話を伺いました。今、日本語を話す人は少ないでしょうが、ニューカレドニアの方々が日本に強いつながりを感じてくださっているのがうれしく、家族の物語である「浅田家!」がきっかけで、様々な人と歴史に思いを馳せることができる旅になりました。
ここではご紹介しきれませんでしたが、ヌメア市内には定期的にシネクラブが開催される上映施設Rex、郊外にはドライブインシアターもあるそうです。ニューカレドニアに興味を持った映画ファンは、来年のラ・フォア映画祭や各地の映画館を訪れ、最新の現地の作品や日本映画を楽しんでみるのはいかがでしょうか。
最後にこの場をもちまして、ラ・フォア映画祭、シネマドゥラ・フォアの関係者、ジュリア・トリンソンさん、クララさん、パトリスさんにお礼を申し上げたいと思います。
Remerciements particuliers au festival de La Foa, Julia Trinson-Kelly, Clara & Patrice.
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