【監督インタビュー】ピクサー最新作「マイ・エレメント」 亡き両親に捧げる驚きと感動の化学反応
2023年7月23日 11:00
第76回カンヌ国際映画祭のクロージングを飾ったディズニー&ピクサー最新作「マイ・エレメント」は、火・水・土・風といったエレメント(元素)の世界を舞台に描く独創的な長編アニメーション。メガホンをとったピーター・ソーン監督(「アーロと少年」)にとっては、亡き両親の半生が色濃く反映されたパーソナルな一作となった。「もし、両親が完成した作品を見てくれたら、きっと誇りに思ってくれるはず」と語るソーン監督に、作品に込めた思いや挑戦、変化を遂げるピクサー・アニメーション・スタジオの現在など、話を聞いた。
火、水、土、風のエレメントたちが暮らすエレメント・シティ。家族のために火の街から出ることなく父の店を継ぐ夢に向かって頑張っていた火の女の子エンバーは、ある日偶然、自分とは正反対で自由な心を持つ水の青年ウェイドと出会う。ウェイドとの交流を通して、初めて世界の広さに触れたエンバーは、自分の新たな可能性、本当にやりたいことについて考え始める。火の世界の外に憧れを抱きはじめたエンバーだったが、エレメント・シティには「違うエレメントとは関わらない」というルールがあった。
私の両親は、希望と夢を抱いて新しい土地に飛び込んだ多くの家族のひとりでした。やがて、異なる言語や文化が混ざり合い、美しいコミュニティを生み出したのです。まるで一皿のサラダボウルのような場所で、映画の舞台であるエレメント・シティのモデルにもなっています。リスクや犠牲を背負いながらも、大都会で奮闘したすべての人々、特に両親世代のための物語を伝えたいと思ったのです。
私はエンバーに比べて、もっと反抗的だったかもしれませんね(笑)。生まれ育ったニューヨークを飛び出すため、戦っていたという言い方が正しいかもしれません。両親の苦労を理解できたのは、もっと大人になってからでした。子どもにとって、親は親であり、自分と同じように悩んだり、苦しんだりする“人間”であると気づけるのは、少し先のことだと思います。そういった心境の変化は、エンバーというキャラクターにも投影していると言えるかもしれません。
そうですね。もし、両親が完成した作品を見てくれたら、きっと誇りに思ってくれるはず。そう願っています。親への感謝と尊敬を抱くエンバーに共感してくれたら、うれしいです。製作が始まった頃は、まさかここまでパーソナルな作品になるとは思っていませんでしたが、結果的には、伝えたいテーマ性がより色濃くなりました。実は完成した作品を兄が見てくれて、「きっと、両親も誇らしいと思っているよ」と言ってくれて、ふたりで泣いてしまいました。自分としては、精神的に整理がついているとは、まだまだ言えませんが。
そう言ってもらえると、本当に嬉しいです。人とのつながりを思い出してもらう。それこそが、この映画の目指していたことですから。
火のエンバーと、水のウェイドは、まったく違うエレメントであるからこそ、世界を切り開き、ひとりでは気づけない自分の可能性を見出すのです。いわば、新しいエレメントですよね。違いを受け入れることで、互いをより理解し、愛し合える。つまり、私たちを“ひとつ”にしてくれるのです。それは両親が新天地で苦労しながら、新しい価値観を築き上げた過程にも共通しているのではないしょうか。
火と水、さらに土と風といった各エレメントの特性を、いかに建造物のデザインに取り入れるか。さまざまなリサーチと試行錯誤を重ねました。ピクサーといえば、今までも、おもちゃや車、人間や毛むくじゃらなキャラクターをアニメーションで表現してきましたが、今回は“エレメント”という新たなチャレンジに踏み込ました。複雑なエフェクトを処理し、効果的に見せる道筋を見出すまでに、多くの時間が費やされたのです。
その通りです。新しい世代のクリエイターたちが、新しい視点でユニークな物語を生み出し、互いにインスピレーションを与えながら、刺激し合っています。アートとテクノロジーの融合という、ピクサー創設当時からの哲学を継承しながら、オリジナル作品とシリーズ作品の両輪で、さらに限界を押し上げていこうとしているのです。私自身は「マイ・エレメント」の経験を通して、“人の心を癒す”物語というものに、さらに興味を抱くようになっています。
記憶に残っているのは、幼い頃に母親と一緒に映画館で見た「ダンボ」ですね。当時、母親は英語が堪能ではありませんでしたが、それでも、周りのお客さんと一緒に感動の涙を流していました。言葉を超えて、人を感動させることができるんだと知った貴重な経験です。その経験は、人間と恐竜の交流を描いた「アーロと少年」にも生きています。
「マイ・エレメント」は、8月4日から公開。オリジナル短編「カールじいさんのデート」が同時上映される。ちなみに、ソーン監督は、「カールじいさんの空飛ぶ家」(2009)に登場する少年ラッセルのモデルとしても知られている。
PR
©2024 Disney and its related entities
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。