映画.comでできることを探す
作品を探す
映画館・スケジュールを探す
最新のニュースを見る
ランキングを見る
映画の知識を深める
映画レビューを見る
プレゼントに応募する
最新のアニメ情報をチェック
その他情報をチェック

フォローして最新情報を受け取ろう

検索

“残る映画”ってなんだろう?「シン・仮面ライダー」配信開始に寄せて【氷川竜介の「アニメに歴史あり」】

2023年7月21日 22:00

リンクをコピーしました。
画像1(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会
映画.comが運営するアニメ情報サイト「アニメハック」(https://anime.eiga.com/)では、アニメに関するコラムを複数掲載しています。コラム群のなかから、庵野秀明監督の「シン・仮面ライダー」をテーマにアニメ・特撮研究家の氷川竜介さんが書いたコラムをご紹介します。(アニメハック編集部)

庵野秀明監督の映画「シン・仮面ライダー」が、Amazon Prime Videoで7月21日から配信されている。3月18日に公開開始、6月4日に主な劇場での上映を終了したばかりであるものの、配信ならではの価値が付加されるのでは、と期待している。

もちろん劇場映画だから、映画館の鑑賞が基本である。映像や音響も、暗闇の中で光と音に集中することを前提に作られている。しかしながら本作の場合、1971年のテレビシリーズが原点であり、怪人単位でエピソードを積んでいる構造があるから、分割視聴も可能となっている(実際にクモオーグ編を切り出してテレビ放送、先行配信もされた)。

落ち着いた家庭内の視聴環境も、優位に作動するかもしれない。子ども番組として曖昧だった設定情報に言葉の厚みをつけてある一方、感情面での描写は抑制気味になっているため、初見ではするっと見逃しそうな部分が多々ある映画なのだ。たとえば冷徹に見せている緑川ルリ子が最初期に目を泳がせるカットがあったり、本郷猛が最終的な決意をする直前に身体を震わせ続けていたり、心理面は非言語的な伝達が多い。

気になったところを再確認することが容易になったり、前とは違う角度で見直すことも可能な配信には、有利な点が多々生まれるのではないか。自分自身、「繰りかえしの鑑賞」によって、この映画に救われたと思ったから、余計にそう願ってしまう。

ゴールデンウィーク期間中の5月頭、筆者は人生観に影響を受ける体験をした(詳細は省く)。それが落ち着いた連休明け、「EVANGELION:3.0(-46h)劇場版」を追加併映とする「シン・仮面ライダー」を見に行った。元来「シン・エヴァンゲリオン劇場版」のパッケージ用特典映像で、スクリーンでも見なくてはという動機だったが、結果的には映画「シン・仮面ライダー」のタイミング良い再見が非常に有意義であった。

パンフレット仕事を通じ、未完成のラッシュなど含めて数多く鑑賞済みだった作品である。しかし完成後も見直すことで、ストーリーラインは同じなのに、意味が違って感じられる箇所が随所にあって驚かされた。心の違う部分に新鮮な刺激が作用する。そして映画そのものも違って見えてくる点で、なかなか希有な映画体験が生じる。

この時は併映の「エヴァ」が作用したかもしれない。世界が滅亡に瀕する中、ひとり生き延びた北上ミドリが苦闘する様を描く短編で、体験性が向上した結果、死生観の揺らぎが増幅された。それに続く「シン・仮面ライダー」は本来無関係だが、気分や生理は短時間で刷新できない。こうした一期一会的な映画体験は、公的な評価とはまた別であって、とても貴重なものだと考えている。

サブスクリプションによる映像配信になれば、いつでも何度でも好きなだけリピートが可能である。となると「作品と観客の関係性」において、また新たなチャンスが生まれるかもしれない。「今日こんなことがあったから、もう一度見てみよう」みたいな行為さえできるなら、それに向いた映画が「シン・仮面ライダー」なのである。

それでは、自分の心のどこに何が残ったのか、もう少し展開しよう。

初号を兼ねた完成披露試写会のときから、「これはリレーのようにバトンを渡す映画だな」と感じていた。バトンのシンボルの代表が、赤いマフラーである。

本作ではショッカーの設定が「悪の秘密組織」から大幅に改訂された。「絶望と幸福」の対置が物語を貫き、「辛」と「幸」の文字が多面的に対照されている。自分を取りまく状況や降りかかった事件を、そのどちらに位置づけるのか。乗りこえ方の選択は、何を基準にどう行動するのか。特に自分が孤独であるのか否か、認識力がカギだと思った。仮に孤独が絶望だとして、否定することで先へ進むのか、受け入れて乗りこえるのかでは、大きく結果が違うように描かれている。

これもまた「世界観の問題」だなと思った。主人公・本郷猛は世界の変革が不可能であると知り、自分の変化、世界との関係性の変化を選択し、最後の行動に出向く。すっかり流行らなくなった言葉で語るならば、これは「克己(こっき)」である。

だとすると「克己のバトン」をどう渡すかが描かれているのではないか。そんな思索が映画が終わった後も続くことが貴重なのである。多くの登場人物が、「自分は孤独だ」「分かってもらえない」と煩悶し、内閉するタイプとして登場する。緑川博士、ルリ子、本郷猛、一文字隼人。表出に違いがあっても、根に共通性がある。オーグメント側も世になじめないタイプが主流であり、AIはそれを「絶望」として定義したようだ。

ところがハチオーグのヒロミとルリ子の愛憎関係に代表されるように、オーグメントの抱える「絶望」とは一面的な定義にすぎなかった。人工知能端末のケイはその多面性を観測し、意外性を「面白い」と学習していく。

主人公サイドに顕著だが、多くの絶望は「孤独からの解放」で解消されている。託す人ができた、分かってもらえる人が見つかった、真意が伝わった……。その解放感と同時に、孤独の主格は「泡」となってこの世から消え、映画から退場する。そこに「バトンリレー」のイメージが見えるのだ。

特筆すべきは、退場する者の誰も絶叫しないことである。オリジナルの「仮面ライダーシリーズ」では、途中から怪人たちが爆発して退場するパターンができるが、火薬の炎も絶叫に近い。そんな人間の生理を直撃するカタルシスよりも、「泡による静かな退場」が通底されているため、動物的解決より人間的な解決に思考が向くのかもしれない。

一文字隼人だけが「本郷!」と絶叫し、映画は終幕へ向かう。彼もまた本郷猛との戦いを通じ、孤独から解放されたはずなのに。しかし、彼はリレーのアンカーである。だから、ただひとり絶叫を許されたのではないか。かつてそう考えて鑑賞した結果、一文字と本郷がともに走り続けるというラストシーンの意味が、また違って見え始めた。

諸事情で今まで以上に「残り時間」を意識せざるを得なくなった自分にとり、この「継承」のイメージは大きい。「もうすこしみんなと走ってみなよ」と言われた締めくくりには、感謝さえ覚えた。

映画の客観的な評価とはまた別に、こうした個人的な鑑賞の価値は確実に存在する。であれば、配信の鑑賞は「個」に分離された状態で無制限に可能となるがゆえに、大変貴重だと言える。映画をループするごとに思考、思索の細部が変化する映画は、「残る映画」なのである。その日、その時の自分の考えていることや成長度合いに応じ、映画と自分の対話が変わる。1年、2年、5年、10年と時間が経過するにつれて、この対話も熟成する可能性が高いのだ。

少し蛇足を続ける。実は自分のSNS(Facebook)周辺では、世間とは隔絶した「シン・仮面ライダー」ブームが起きていた。

劇場に日参して連続鑑賞回数を記録し、10回、20回は当たり前、中には30回、60回というリピーターが複数出てきたのだ。業界関係者も含まれるが、映像や芸術リテラシーの高い人、クリエイションやアートで何かを乗りこえた人に、言外の意味が強烈に刺さっているように思えて、過去なかった現象なので興味深く推移を追った。

「シン」を冠した4作品の中で本作だけに、何らか特別性が宿ったのかもしれない。ゴジラ、ウルトラマン、エヴァが「巨大なもの」の「大状況」を描いてきたのに対し、等身大の仮面ライダーはあくまでも「個の物語」である。その差違が、予想以上に強く出た結果なのだろうか。

ネット時代の「劇場映画」は鑑賞も感想も、大きな同調圧力にさらされ続けて、かなりの時間が過ぎた。考えを熟成させず、議論も深めず、反射的な……動物的とも言える結論を急ぐ傾向さえ時に感じる。自分も興行収入のサイズで映画を語ることも多々あるから、その傾向に手を貸してきたかもしれず、反省もある。

しかし「何十億円」という数字は「水圧」のようなものだ。その水圧も千円規模の木戸銭の集積が生むものであり、「水一滴」はあくまでも「作品と個々人」の体験性に根ざしている。それが忘れられたような「コンテンツ」「IP」という呼称に対し、昨今の筆者は危機感を覚えている。

配信の収益は公表されることが少ないため、本作の受容も不透明な時期が続くかもしれない。しかし「残る映画」と認識した個々人は、確実に増加する。

もう少し「なぜ残ったのか」を、そこ個々人が折にふれて考え続けてほしい。できることなら、時間がたっぷり経ってからも、思い出してほしい。こうしたリレーバトン的な継承をともなう「水一滴」の集積は、いつか大きな水圧となることを確信しているからである。

氷川竜介さんによるコラムのバックナンバーは、以下から読むことができます。
https://anime.eiga.com/news/column/hikawa_rekishi/
▼他にも、ジャーナリストの数土直志さん、アニメ評論家の藤津亮太さん、アニメライターの前田久さん、「ホビーマニアックス」の島谷光弘さんら執筆陣によるコラム、音響監督の明田川進さんの聞き書きコラムなど、アニメハックでしか読めない充実したコラムが掲載中です。ぜひチェックしてみてください。(アニメハック編集部)
https://anime.eiga.com/news/column/

庵野秀明 の関連作を観る


Amazonで関連商品を見る

関連ニュース

映画.com注目特集をチェック

関連コンテンツをチェック

シネマ映画.comで今すぐ見る

凶悪

凶悪 NEW

死刑囚の告発をもとに、雑誌ジャーナリストが未解決の殺人事件を暴いていく過程をつづったベストセラーノンフィクション「凶悪 ある死刑囚の告発」(新潮45編集部編)を映画化。取材のため東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤と面会した雑誌ジャーナリストの藤井は、須藤が死刑判決を受けた事件のほかに、3つの殺人に関与しており、そのすべてに「先生」と呼ばれる首謀者がいるという告白を受ける。須藤は「先生」がのうのうと生きていることが許せず、藤井に「先生」の存在を記事にして世に暴くよう依頼。藤井が調査を進めると、やがて恐るべき凶悪事件の真相が明らかになっていく。ジャーナリストとしての使命感と狂気の間で揺れ動く藤井役を山田孝之、死刑囚・須藤をピエール瀧が演じ、「先生」役でリリー・フランキーが初の悪役に挑む。故・若松孝二監督に師事した白石和彌がメガホンをとった。

HOW TO HAVE SEX

HOW TO HAVE SEX NEW

ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。

愛のぬくもり

愛のぬくもり NEW

「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。

卍 リバース

卍 リバース NEW

文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。

痴人の愛 リバース

痴人の愛 リバース NEW

奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。

セルビアンフィルム 4Kリマスター完全版

セルビアンフィルム 4Kリマスター完全版 NEW

内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。

おすすめ情報

映画ニュースアクセスランキング

映画ニュースアクセスランキングをもっと見る

シネマ映画.comで今すぐ見る

他配信中作品を見る