【「星くずの片隅で」評論】香港の片隅の孤独な心をやさしい眼差しと美しい映像で捉えた新世代映画
2023年7月16日 20:00
かつて“東洋のハリウッド”と呼ばれた香港映画産業。1980年頃から約20年間、香港映画は黄金期と称され、世界中の映画人、作品に多大な影響を与えた。そして、1990年代末から20数年が経った現在、スターやベテラン監督たちは中国大陸や海外で映画を撮ることが多くなり、命がけのスタントマンたちの活躍の場も減少。香港映画はかつての輝きを失ってしまったのだろうか。いや、新しい才能が新世代の香港映画を牽引しはじめている。
2019年の香港民主化デモを背景に描いた青春群像劇「少年たちの時代革命」(2021)で共同監督を務めた新鋭ラム・サムが単独でメガホンをとったのが「星くずの片隅で」。コロナ禍の香港の片隅で生きる人々の孤独な心を、やさしい眼差しと美しい映像で紡ぎ出したヒューマンドラマだ。カンフーの達人や凄腕の刑事、マフィアのボスや殺し屋たち、そして滑稽な小市民や幽霊も出てこない。本作の主人公は、不器用でやさしい中年男と、ずる賢くも憎めない若いシングルマザーだ。
2020年、コロナ禍でシャッターが降り、静まり返った香港の街はまるで時間(世界)が停止してしまったかのように見える。清掃会社を経営する中年男のザクは、車の修理代や洗剤の品薄に頭を悩ませながらも、ひとり消毒作業に追われる日々を黙々と過ごしていた。そんなある日、幼い娘ジューを育てるために仕事を求める若いシングルマザーのキャンディが現れる。最初は適度な距離をとっていたが、ジューを挟んで徐々に距離を縮め、恋人でも家族でもない関係を築いていく。しかし、あることがきっかけで窮地に追いやられてしまう…。そんなふたりが眺める香港の夜景は、「男たちの挽歌」(1986)でチョウ・ユンファ演じるマークが「いつどこで見ても目に沁みる」と呟いたように、コロナ禍であっても美しい。
仕事と人生に行き詰まりながらも不正を許さない実直なザクを、香港の人気シンガーソングライターで、映画やドラマではコメディ俳優として定評のあったルイス・チョンが演じ、新境地を開拓。キャンディとジューに手を差しのべ、リウマチを患う母や友人を思いやる姿が、じんわりと心に沁みてくる。娘を生んでから誰にも頼らずに生きてきたキャンディを演じるのは、香港のトップモデルであるアンジェラ・ユン。ド派手な服装で、まともな暮らしもできずにいたが、ザクとの出会いによって徐々に心を入れかえていくキャンディをキュートに好演し、新世代の最注目女優となっている。
息が詰まりそうな中でも、お互いが輝いている瞬間を愛おしく思える気持ちをラム・サム監督は、香港の生活の息吹が感じられる街の光や、朝焼けの空、小さな窓から見上げるまぶしい太陽などの美しい映像とともに、人物の感情を丁寧に描いて、香港映画と言えばという黄金期のイメージ、さらにはウォン・カーウァイ作品のイメージさえも塗り替える。誰にも気づかれずに街の片隅で生きていた中年男が誰かのヒーローとなり、幼い娘のためにも生き直そうとする若い母がヒロインとなる。こんな時代だからこそ、一歩近づいてお互いを見つめ、助け合う姿が、小さな希望を与えてくれる。
2014年の香港反政府運動(雨傘革命または雨傘運動)、2019年3月からはじまる香港民主化デモ、そして国家安全維持法の2020年6月30日施行を経て、多くの人が香港を離れる中、香港映画はどこへ向かうのか。アラサー女性の中国大陸の男性との偽装結婚を題材に描いた「私のプリンス・エドワード」(2019)や、IT企業に勤める青年が香港中を彷徨う羽目になるラブ・コメディ「縁路はるばる」(2021)など、2014年以降の香港の空気感を捉え、世代や国を越えて共感を誘う香港映画は生み出されている。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
【推しの子】 The Final Act NEW
【忖度なし本音レビュー】原作ガチファン&原作未見が観たら…想像以上の“観るべき良作”だった――!
提供:東映
物語が超・面白い! NEW
大物マフィアが左遷され、独自に犯罪組織を設立…どうなる!? 年末年始にオススメ“大絶品”
提供:Paramount+
外道の歌 NEW
強姦、児童虐待殺人、一家洗脳殺人…地上波では絶対に流せない“狂刺激作”【鑑賞は自己責任で】
提供:DMM TV
全「ロード・オブ・ザ・リング」ファン必見の超重要作 NEW
【伝説的一作】ファン大歓喜、大興奮、大満足――あれもこれも登場し、感動すら覚える極上体験
提供:ワーナー・ブラザース映画
ライオン・キング ムファサ
【全世界史上最高ヒット“エンタメの王”】この“超実写”は何がすごい? 魂揺さぶる究極映画体験!
提供:ディズニー
ハンパない中毒性の刺激作
【人生の楽しみが一個、増えた】ほかでは絶対に味わえない“尖った映画”…期間限定で公開中
提供:ローソンエンタテインメント
【衝撃】映画を500円で観る“裏ワザ”
【知って得する】「2000円は高い」というあなただけに…“超安くなる裏ワザ”こっそり教えます
提供:KDDI
モアナと伝説の海2
【モアナが歴代No.1の人が観てきた】神曲揃いで超刺さった!!超オススメだからぜひ、ぜひ観て!!
提供:ディズニー
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。