「縁路はるばる」で描かれる“香港の僻地”を解説 “あなたの知らない香港”が楽しめる「新世代香港映画特集2023」

2023年5月19日 17:00


「縁路はるばる」
「縁路はるばる」

エンタメ性と批評性を兼ね備えた香港映画の傑作を紹介する「新世代香港映画特集2023」と題し、「縁路はるばる」「私のプリンス・エドワード」が、本日5月19日から上映されている。この2作品は、映画祭などで高く評価され、興行面でも香港の年間BEST10にランクインした秀作だ。

アモス・ウィー監督作「縁路はるばる」は、IT企業に勤める青年がタイプの違う魅力的な5人の女性と知り合うも、なぜか5人ともド田舎に暮らしていたがゆえに香港中を彷徨う羽目に……という設定が秀逸なラブ・コメディ。新世代の実力派俳優達が楽しげで伸びやかな演技を披露し金馬奨にもノミネートされた。

同作で印象的なのは、普段は目にすることのない“香港僻地の美”。登場する地域は、香港に詳しい旅行者だけでなく、香港人でもなかなか訪れる機会のない場所だ。同作の字幕を担当した香港文化研究者・小栗宏太氏が、各地域の特徴をまとめてくれた。


画像2

【沙頭角(サタウゴック)】
香港・新界地区東北部、中国大陸側の深セン市と隣接する地域。英領時代より国境管理上の理由から住民以外の立入を制限する「辺境禁区」に指定されており、訪問には特別な許可書(「禁区紙」)が必要。

【茶果嶺(チャゴレン)】
香港・九龍地区、觀塘区にある村。香港がイギリス領となる以前に形成され、約400年の歴史を持つ。第2次世界大戦直後、中国大陸からの移民が建造したスクウォッターハウスが現存する地区でもある。

【下白泥(ハバッナイ)】
香港・新界地区西北部の海に面した地域。夕日の名所。対岸には大陸側の深セン市・蛇口港が見える。

【大澳(ダイオウ)】
香港最大の離島、大嶼山(ランタオ島)西部の漁村。水上家屋の立ち並ぶ観光地としても著名。周辺の公道は「封閉道路」に指定されており、許可書のない車両は通行できない。

【ライ枝窩(ライチウォ)】
香港・新界地区東北部にある客家の村。周囲を山に囲まれハイキングコースとしても人気。

【澄碧邨(チェンビッチュン) 】
大嶼山東南部に1979年に建設されたリゾート住宅地。1997年のアジア通貨危機以降は荒廃。島内の他地域とは一切道路がつながっていない陸の孤島で、交通手段は対岸の長洲島からのフェリーのみ。


なお、アモス・ウィー監督は「縁路はるばる」に登場する“僻地の違い”について、このように語っている。

「今の香港人は、非常に遠いところに住んでいることが、必要不可欠な条件になっています。我々の映画は、これを一つの遊びの道具にしているわけなんです。遠いところに住んでいるということを表現するには、単に住む場所の話をしてしまうのではなく、交通手段をどういうものを使っているかで表現することができると思います」

「縁路はるばる」
「縁路はるばる」

「本作に登場しているある女性が住んでいるところは、遠い場所ですが、バスや車に乗っていけば、家に着くことができます。ところが、別の女性が住んでいるところは、車に乗っても、最終的にその家に到達することができず、また歩かなければならない。車や徒歩だけでなく、船でしか行けないところも多くあります、しかも何回も乗り換えが必要です。映画の中で登場した5番目の彼女の家というのも、ある意味で本当に極端なところに住んでいると設定しました」

「縁路はるばる」
「縁路はるばる」

「映画に登場する5人の女性は、それぞれ非常に遠いところに住んでいますが、住んでいる距離が遠いだけではなく、住んでいる家もそれぞれタイプが違います。例えば、政府公営のアパート、あるいは香港には政府と半官半民で建てた、いわゆる割安の団地もあります。さらに、最後の女性の住んでいるところは、実は村にあった古い建物。しかも築100年以上、ある意味遺跡と言えるような建物です。こういった設定を通して、観客は初めて、この5人がそれぞれ違う人だと区別することができると思います」

「縁路はるばる」
「縁路はるばる」
「縁路はるばる」
「縁路はるばる」

一方「私のプリンス・エドワード」は、新人監督ノリス・ウォンによる長編デビュー作。題材は、アラサー香港女性の「偽装結婚」。ノリス・ウォン監督が同じ女性の視点からつづる物語は世代や国を越えて共感を誘い、中国の批評家が選ぶ中華圏映画の年間1位に選出。香港のアカデミー賞と呼ばれる香港電影金像奨でも新鋭監督賞と音楽賞の2冠に輝いている。

「私のプリンス・エドワード」
「私のプリンス・エドワード」
アン・リー(左)、ノリス・ウォン(右)
アン・リー(左)、ノリス・ウォン(右)

ノリス・ウォン監督は、名匠アン・リーにも絶賛されており、中華圏で最も注目されている新人監督のひとりだ。19年に製作した本作は、市井の男女の小さな物語だが、新たな切り口で中国と香港の複雑な関係も巧みに描いている。長編2作目「填詞撚」はすでにクランクアップ。なお、長編映画企画「人魚紀」は、2023年香港亞洲電影投資會・ARRI影像大奬を受賞している。

縁路はるばる」「私のプリンス・エドワード」には、著名人からのコメントも到着している。

●「縁路はるばる

【大島育宙(映画・ドラマ評芸人)】
モテ期の話なのに、こんなに主人公に冷たいラブコメも珍しい!強かに生きる女子たちになじられて責められて顔色をうかがってばかりのITオタク男子。やがて彼ではなく、彼を取り巻く女性たちが主人公に思えてくる。恋愛や結婚を主体的に選び取ろうとする女性陣が輝く、とことん現代的な恋愛群像劇だ。

【雪下まゆ(アーティスト)】
映画の冒頭からローファイな音楽に引き込まれた。特にRoom307の楽曲は香港に住む若者達の飾らない日常を聴覚から感じさせてくれる。煌びやかなイメージのある香港だったが主人公ハウと一緒に彼女達の住む自然豊かな街並みを旅して、ぜひ実際に味わってみたいと思った。

●「私のプリンス・エドワード

枝優花(映画監督・写真家)】
自由になるために動いたことが
不自由になっていく歯痒さ
結婚ってなんだろう
誰かと一緒に生きていくとはどういうことなんだろう
そんなもどかしさが蠢いていた

【児玉美月(映画批評家)】
男女のロマンティックな恋愛の文脈ばかりで語られることの多い「結婚」が、この映画ではその社会に固有の政治事情と絡められながら制度や手続きの問題として提示されてゆく。
これは新世代の香港の女性映画作家が鋭いまなざしで女性の自由を探求した「反=恋愛映画」だ。

【 伊藤さとり(映画パーソナリティ)】
コミカルなのに社会問題もしっかりと。
香港から見た中国の事情を散りばめつつ、
トラディショナルな結婚観を横目で見つつ、女性の生き方を照らす。
届いて欲しい、将来に悩める人達に。

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