映画「タイタニック」はどう撮影された? 知ればもっと面白くなる“5つの事実”
2023年6月24日 20:45
巨大な豪華客船、許されざる恋に落ちる若者たち、そして避けられない悲劇。1997年に公開された「タイタニック」は、映画史に燦然と輝くラブストーリーの金字塔です。
その製作の背景にあったのは、当時としては前代未聞の挑戦。撮影現場は技術と芸術が交差し、可能性と限界が共存する壮大な冒険の舞台だったのです。
本記事では、知れば作品がもっと面白くなる、製作や撮影にまつわる“5つの事実”をご紹介。映画「タイタニック」が生まれた瞬間に、思いを馳せていただきましょう。
映画「タイタニック」には、2億ドル(当時の史上最高額)の製作費が投じられました。大掛かりな実写セットと最新鋭のデジタル技術を融合させ、膨大な手間ひまをかけ完成した“超贅沢な一作”といえます。
実写セットとしてほぼ実寸大のタイタニック号を制作し、航海シーンと船上の人物などはCGで補完。実写と最先端CGのハイブリット撮影……というと非常にシンプルに聞こえますが、その過程は驚くべきものでした。
監督のジェームズ・キャメロンは、実際のタイタニック号を映画で忠実に再現することに強くこだわりました。結果として、実際の設計図を基に、右舷側だけのタイタニック号レプリカを、セットとして制作することになったのです。
外側の甲板の高さや幅、デザインだけではなく、救命ボートやカーペット、装飾品、グラスなどの食器に至る内装まで航海当時のもので正確に再現。そのために、染料をも復元したという事実には圧倒されます。
しかし、ここまですればさすがに“予算の壁”にぶつかります。船の全長は、予算が足りなかったため、本物の269メートルよりも少し短くなっていて、3カ所を6メートルずつ短縮して違和感がないように繋げているほか、船首を別で制作しています。そのため、船の全体を見せるようなカットは撮れなかったとキャメロン監督がのちに明かしています。
さらに驚くべきことに、キャメロン監督はこの巨大なレプリカを浮かべて沈没させるためだけのドックと巨大スタジオを、メキシコ・バハ半島のロサリオに建設しました。映画製作が始まってから上がり続ける製作費を捻出するため、キャメロン監督は配給の20世紀フォックス(当時)を何度も説得する必要がありました。結果的に、映画完成までに予定の約100倍もの予算が必要になりましたが、キャメロン監督の本物にこだわる信念がこの作品に類まれな力強さを与えています。
劇中でもひときわ印象的なタイタニック号の出港シーンでは、こんなエピソードが。ロサリオの風向きを考慮し、船はドックに右舷をつける位置で作るしかなかったのですが、映画では史実通り左舷側がドックについた映像にするため、建物や衣装などの文字をすべて鏡文字にして撮影し、のちに映像を反転させるという非常に手のかかる方法がとられました。俳優の立ち位置や衣装の構造もこのシーンのみ逆になっていなければならなかったため、ケイト・ウィンスレットの髪の分け目まで逆にして撮影が行われました。想像しただけでも眩暈がします。
ここまでの実写セットにすでに巨額が投じられているわけですが、このレプリカにはエンジンが搭載されていないため、船を動かすことができません。必然的に、航海シーンとそこで登場する船上の人物は、さらに費用をかけてすべてデジタル合成する手法が採用されました。
つまり、遠景のシーンでの船上の人物は、当時の最先端技術だったモーション・キャプチャーで別撮りされた人々なのです。仕方がないとはいえ、大変贅沢な製作手法でした。CG技術が発達したいまであればなおさら、こんな撮影はもう不可能でしょう。「タイタニック」は、まさに時代が産んだ傑作なのです。
「タイタニック」が製作された1990年代は、ちょうど映画におけるデジタル技術の過渡期。当時、タイタニック号をフルCGですべて再現するのは技術的に不可能だったこと、デジタル処理にはいまよりお金がかかったこと、そしてジェームズ・キャメロン監督のリアルさへのこだわりから、当時の最先端CG技術と大がかりな実写セットのハイブリット撮影が実現しました。
キャメロン監督は、「ターミネーター2」(1991)の成功でデジタル処理技術やCG合成の価値に注目し、VFXの制作会社デジタル・ドメインを設立(98年にオーナーを辞任)。デジタル・ドメインは、キャメロン監督がメガホンをとった「トゥルーライズ」、ロン・ハワード監督の「アポロ13」などを経て、「タイタニック」でその真価を世に知らしめることになったのです。
キャメロン監督とともに作品を完成させたジョン・ランドー(プロデューサー)は、のちにこんなことを明かしています。
「もしかしたら、『タイタニック』は古き良きハリウッドの映画作りができる最後のチャンスかもしれないと思った」
今作は、(お金はめちゃくちゃにかかったけれど)すべての技術的な進歩のタイミングが絶妙だったからこそこの形での製作がかなった、奇跡のような作品といえるのかもしれません。
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