F・オゾンがファスビンダーの傑作をリメイク「苦い涙」 物語のキーとなる美青年&言葉を発さない助手役の俳優インタビューを入手!
2023年6月10日 10:00
フランスの名匠フランソワ・オゾンが、ドイツのライナー・ベルナー・ファスビンダー監督が1972年に手がけた「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」を現代風にアレンジし、美青年に恋する映画監督の姿を描いたドラマ「苦い涙」(公開中)。このほど美青年アミール役に大抜擢されたハリル・ガルビアと、本作の影の主役ともいえるキーパーソンである助手役のカールを演じたステファン・クレポンのインタビュー映像を映画.comが入手した。映像では、オゾン監督がファスビンダーと恋人ギュンター・カウフマンの関係を表現しようとしたことをガルビアが語り、劇中では一言も喋らないクレポンの声を聞くことができる。
物語の舞台は、70年代ドイツのアパルトマン。著名な映画監督ピーター・フォン・カントは、恋人と別れて激しく落ち込んでいた。ピーターは助手のカールをしもべのように扱いながら、事務所も兼ねたアパルトマンで暮らしている。ある日、3年ぶりに親友で大女優のシドニーが青年アミールを連れてやって来る。艶やかな美しさのアミールに、一目で恋に落ちるピーター。彼はアミールに才能を見出し、自分のアパルトマンに住まわせ、映画の世界で活躍できるように手助けする。
この2人の若手起用理由についてオゾン監督は、「アミール役には、25~35歳の北アフリカ出身の俳優を探すことにしたのですが、多くの人に断られました。彼ら自身のイメージダウンになるのではないかと不安に思ったのでしょう。ハリル・ガルビアを知ったのは、ジェリー・カールソンの美しいスウェーデン短編映画『The Night Train』でした。私は彼のきらめきと、アミールの曖昧さを体現する能力にほれ込みました。処女のような純真さと、物語の後半に必要な横柄さの両方を持っていました。彼は自分自身の肉体と官能性に対して違和感はなく、それはドゥニ・メノーシェと共演する上で極めて重要でした」と明かす。
カールというキャラクターについては、「ファスビンダー作品の音楽を担当し、彼のアシスタントでもあったペーア・ラーベンから着想を得たものです。カール役には、ファスビンダーの映画で忘れがたい存在だったイルム・ヘルマンのように、印象的なシルエットと強く神秘的な存在感を持つ役者が必要でした。そういう意味でステファンはこの役にぴったりでした。彼の演技には激しさと豊かな表現力があり、観客はあらゆる感情を彼と共有することができます」と語っている。
ファスビンダーの映画の世界をより深く楽しむために、オゾン監督が20年前にファスビンダーの未発表の戯曲を映画化した「焼け石に水」の35ミリフィルム上映、そして、ファスビンダー監督によるオリジナル版「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」(日本劇場初公開)が、6月16日から新宿武蔵館で特別限定上映される。 また、ファスビンダー作品に出演し、「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」で主人公ペトラを演じたマーギット・カーステンゼンが、6月1日に83歳でその生涯に幕を閉じた。貴重な上映の機会に映画館でその名演技を体験して欲しい。