映画「名探偵コナン 黒鉄の魚影」青山剛昌の原画担当シーンの裏側 プロデューサーに聞いてきた
2023年5月27日 12:00
国民的アニメの劇場版シリーズ最新作「名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)」が、現在大ヒット公開中。公開から5月21日までの38日間で、観客動員827万人、興行収入117億円を記録している。5月27日からは、約4年ぶりとなる発声可能応援上映も開催され、ますます盛り上がりを見せそうだ。
劇場版コナンについて、毎回ファンの間で話題となるのが、原作者の青山剛昌先生が原画を手がけたシーン。青山先生は劇場版で、原画のみならず、原案・脚本・画コンテにも携わっている。SNSでは、「青山先生原画のこのシーンが好き!」「青山先生原画には、こんな特徴がある!」などなど、さまざまな意見が交わされ、大いに盛り上がっているのだ。
そこで映画.comは、最新作のプロデューサーを務めるトムス・エンタテインメントの岡田悠平氏にインタビュー。本作で青山先生が手がけた原画シーンやその特徴、さらに青山先生の提案で大きく変更されたシーンなどの制作秘話、さらにシリーズの今後など、ファンが気になるトピックスを語ってもらった。(取材・文/映画.com編集部)
株式会社トムス・エンタテインメントで、第16弾「11人目のストライカー」から制作進行、制作デスクとして、劇場版コナンに携わる。本作で初めて、プロデューサーを担当。最も好きな作品は、両親と映画館で鑑賞し、コナンを好きになるきっかけとなった第2弾「14番目の標的(ターゲット)」。
劇場版第26弾となる本作の舞台は、東京・八丈島近海にある、世界中の警察が持つ防犯カメラをつなぐための海洋施設「パシフィック・ブイ」。そこで、ひとりの女性エンジニアが、黒ずくめの組織に誘拐される事件が発生する。さらに、組織のNo.2であるラムの側近と噂される、新たな組織の一員・ピンガも動き出し、灰原哀のもとにも黒い影が忍び寄る。
沢村一樹がゲスト声優として、「パシフィック・ブイ」の局長・牧野洋輔役を務める。監督は、「名探偵コナン ゼロの執行人」を手がけた立川譲。「スピッツ」が主題歌「美しい鰭」を書き下ろした。
「僕がプロデューサーを依頼されたときには、もうシナリオは出来上がっている状態だったんです。そのシナリオは、灰原とコナンの物語を中心に、黒ずくめの組織が登場するストーリー。さらに、原作で灰原が登場したときの状況(※初登場は18巻)と、彼女が置かれているいまの状況が全然違っていると表現することを重視していました。灰原哀として、新たにいろいろな人と出会っていますから。このシナリオに反映されている通り、僕たち制作陣としては、コナンと灰原の絆、灰原の置かれている環境の変化を重視して作ろうと考えていました。灰原にフォーカスしているからこそ、気持ちが揺さぶられるシーンが多いと思います」
「制作陣でも一度話したんですが、新一と蘭が絶対的に結ばれているなかで、コナンと灰原がどういう関係なのかと考えたときに、恋愛という言葉では済ませられない。体が小さくなったという秘密や苦悩を共有していて、一心同体というか、運命共同体という形で向き合っているんだろうと。灰原がコナンに向ける感情も、明確には語られていないので、見ている皆さんに考えて、感じて頂ければと思っています」
「青山先生からは全編にわたり、セリフやシーンなどの細かい変更はありましたが、1番大きかったのは、コナンと灰原が浮上していくシーンですね。詳しくは話せないのですが、もともとピンチが訪れるアクションも多いシーンだったところを、青山先生の提案で、キャラクター同士の感情が印象的なシーンになりました。制作陣も、青山先生が変更されたシーンを見て、『これは名シーンになるぞ!』と」
「青山先生ご本人しか分からない部分ではありますが、僕から見ると、やっぱり全て決めのカットで、感情が揺さぶられるアップのカットが多いですね。青山先生が絵コンテを見て、『ここに決めカットを入れたいな』『ここは僕が描きます』という形で、修正・リクエストしてくださいます。もともと存在しなかったところに、青山先生がアップを追加して、『描きます』とおっしゃってくださることもありますね。漫画的というか、『ここが重要だ』という箇所を選んでいらっしゃるのではないかと思います」
「コナン、灰原、蘭、ジン、ベルモット、安室、赤井らが登場する、過去最多となる合計10カットを描いてくださっています。青山先生ご自身も、描きたいカットが多かったんじゃないでしょうか。制作陣も事前に、青山先生がどこを描いてくださるか、予想したりもするんですよ(笑)。例えばベルモットのあるシーンは、最初は青山先生が描かれる予定はなかったんですが、立川監督が『描いてくれないんですか?』と言って、『それなら描くよ』と言っていただきました。重要なシーンだったので、立川監督も、青山先生に描いていただきたいという思いが強かったんだと思います。あとは、コナン・赤井・安室が共闘するシーン。赤井、安室、コナンと、青山先生の原画が3シーン続くんです」
「青山先生の絵って、柔らかいじゃないですか。一方で、アニメのキャラクターたちはシャープなんですよ。シャープな線から柔らかい線へ、柔らかい線からシャープな線へ。このコントラストが美しいんだと思います。目の書き方で分かることもありますね。柔らかい線で、感情を揺さぶるアップのシーンは、青山先生の原画であることが多いですね」
「『異次元の狙撃手(スナイパー)』で、沖矢昴が赤井だとバレる、『了解』と呟くシーンです。僕が制作進行を担当していて、『ここは青山先生に描いてほしいな』と思っていて、実際に描いてくださったので、嬉しかった思い出があります。あとは、立川監督の『ゼロの執行人』で、安室が『僕の恋人は……この国さ』と言うシーンのアップ。すごくかっこいいシーンなので、印象的です」
「本作の灰原とコナンを中心に、黒ずくめの組織が登場するストーリーは、コナンファンはもちろん、ライト層や、昔は見ていたけど、少し離れていた層も見たくなる題材なんです。多くの人が見てくれるだろうとは思っていたんですが、あとは口コミで広がっていって、『本当に良い作品だ』と感じてもらえるようにすることが、制作の目標でした。興収100億円は目指していたところではありましたが、それよりもとにかく皆さんが楽しめる作品を作ることに尽きますね。僕と同世代の30代半ば、初期作品を映画館で見ていた層のなかで、いまはもう映画館では見ていないという人も多いと思うんです。僕個人としては、そういう人たちにどう響かせるか、考えていました。僕たちの年代だと、子どもがいる人もいるので、子どもを連れて見てくれると、また新たに楽しんでいただける方が増えますから」
「青山先生を中心に、プロデューサー陣とともに意見を出し合って、構想を練っています。例えば『元太を活躍させたい』となったら、元太にフォーカスしたストーリーを作っていくことになります。青山先生が案を出すこともありますし、プロデューサーから提案することもあります。キャラクター、ストーリー、舞台やその規模、季節など、さまざまな切り口がスタート点になります。おっしゃる通り、第30弾くらいまでの案は出つつありますね。『このキャラクターを何年に1回出す』などのルールはなく、やりたいことを自由に提案しています」
「僕たちは現場の人間なので、数字に囚われないようにはしているんです。制作チームとしては、それだけ多くの皆さんに見てもらえたということが嬉しいです。100億円を達成しそうで、90億円台で止まることが続いたときに、『1度は100億円を達成したいよね』という話はしていましたが、『絶対100億円行くんだ!』という目標を立てて、現場が動いているわけではないです。目標は変わらず、良い作品を制作して多くの皆さんに届けたいということですね。今回の作品で久しぶりに見ていただいた方や、新しくファンになっていただいた方もいると思うので、この次が大事だなと思っています。新規の皆さんも『この前面白かったから、次も見よう』と思ってくださっていると思うので、来年も心を惹きつけるような作品を作りたいと思います」
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