今見てほしい2作! 宗教団体要人の妻の恐怖描く「BEGINNING」&クズ過ぎる元ポルノ俳優に二村ヒトシが苦笑「レッド・ロケット」
2023年5月22日 17:00
TOKYO FMほか全国38のFM局のオーディオコンテンツプラットフォームで、スマートフォンアプリとウェブサイトで楽しめるサービス「AuDee(オーディー)」 と映画.comのコラボ新番組「映画と愛とオトナノハナシ at 半蔵門」。作家でAV監督の二村ヒトシと映画.com編集部エビタニが映画トークを繰り広げる。
今回はジョージア出身の女性監督デア・クルムベガスビリの長編デビュー作で、2020年・第68回サン・セバスチャン映画祭で最優秀作品賞をはじめ4部門受賞のサスペンス「BEGINNING ビギニング」(シネマ映画.comで配信中)と、「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」などで知られる米インディペンデント界の俊英ショーン・ベイカーの新作「レッド・ロケット」(公開中)の感想や見どころを語り合った。
「BEGINNING ビギニング」は映画配信サービスのシネマ映画.comとJAIHO(ジャイホー)とのコラボレーション企画「世界の奇妙な映画セレクション」の1作で、「エホバの証人」の指導者を夫に持つ女性の恐怖を描く物語。「レッド・ロケット」は、口先だけの元ポルノスターの男を主人公に、社会の片隅で生きる人々を鮮やかに描いたヒューマンドラマだ。
二村とエビタニは、邦画やハリウッドの大作以外の作品の魅力や楽しみ方を挙げながら、「BEGINNING ビギニング」は「圧倒的」だったと二村。「まず見てほしいのは撮り方。冒頭の事件はもちろん、その後すべてのカットがすさまじい」と長回しと、緻密に計算された構図に驚いたそう。エビタニは「ジョージアの宗教の事情は映画を見終わるまで知らなかったけれど、丁寧に作られているし、わかりやすい」と文化背景の知識がなくとも、物語を楽しめると紹介した。
エビタニは物語のキーとなる男について、「抑圧された結婚生活を送っている主人公の妄想では?」また、「彼女はさまざまな『~すべき』にとらわれてしまったのでは?」と持論を展開。一方、二村は時に社会的な話題となる新興宗教に触れ「最近は、我々とは違う世界を見て、信じてきた宗教2世の方が、つらさを吐露するようになってきた。でもこの映画では、主人公は教団の幹部と結婚したが、特定の宗教を気味悪く描くようなことはしていない。映画そのものが気持ち悪い。でも、人間というのは、そのものが空っぽだから、宗教や伝統規範があると助かるのかも」と感想を述べる。
「~すべき」「~ねばならない」という考えにとらわれた人間の悲しさ、という点で話題は「レッド・ロケット」に。二村は本作の主人公を「他人事とは思えない。本当にクズなんです(笑)」と自虐を交え主人公を紹介し、「もはや男優として用済みで、そんな能力が無くなっているのに男優で居続けなければいけない男の悲劇。でも、主人公はその苦しさに気づかないようにしている話。人間は何かの役割を自分から選ぶが、宗教、伝統から与えられないと生きられないのかな? でも彼には、誰も男優であることを要求していない。それが面白くて(笑)」と二村。エビタニは「人は一人じゃ生きていけない。生きるためには他者となにかしらの関係を持たなければならない。役割なく生きることは、他人とかかわらないことしかないのかも」と自身の考えを述べる。
しかし、「レッド・ロケット」の自己中な主人公について、鑑賞後の映画ファンからは“愛すべき存在だ”という声も多い中、二村は「僕自身みたいだから、大嫌い(笑)。害悪ですよ。でも、この映画は肯定も否定もしない。何も裁かないからこそ、ラストを見てほしい」と本作の見どころを強調した。
トーク全編はAuDee(https://audee.jp/voice/show/55260)で聞くことができる(無料配信中)。次回は「ゲット・アウト」のジェイソン・ブラムが製作総指揮を手がけたクライムスリラー「ソフト/クワイエット」を取り上げる。