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映画をどのように“デジタルファイル”で保存するか【国立映画アーカイブコラム】

2023年3月4日 10:00

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画像1メディアの確認やバックアップ作業を行うデジタル検査室2

映画館、DVD・BD、そしてインターネットを通じて、私たちは新作だけでなく昔の映画も手軽に楽しめるようになりました。 それは、その映画が今も「残されている」からだと考えたことはありますか? 誰かが適切な方法で残さなければ、現代の映画も10年、20年後には見られなくなるかもしれないのです。国立映画アーカイブは、「映画を残す、映画を活かす。」を信条として、日々さまざまな側面からその課題に取り組んでいます。広報担当が、職員の“生”の声を通して、国立映画アーカイブの仕事の内側をご案内します。ようこそ、めくるめく「フィルムアーカイブ」の世界へ!


作品の完成原版がデジタルデータの形態を採る、いわゆる「ボーンデジタル」の映画や、デジタル復元した映画など、デジタルファイルとして映画を適切に保存・活用することも、今では国立映画アーカイブの大切な活動の一部となりました。

光にかざせば記録された映像を視認できるフィルムに対し、デジタルファイルは視聴するにはフォーマットに応じた再生機器が必要で、メディア(ファイルを保存する媒体)やフォーマットの陳腐化サイクルが早いため、フィルムとは異なる保存上の課題が発生します。原版がデジタルファイルの場合はもちろん、ビデオテープも長期保存のためにはデジタルファイル化が不可欠です。(再生機器の製造・保守サービスの終了など幾多の要因により、ビデオテープの映像は、デジタルファイル化をしない限り近い将来再生できなくなるという危機に瀕しています。詳細→ https://www.nfaj.go.jp/exhibition/unesco2021/#section1-5

画像2DTF(デジタル・テープ・フォーマット)-2やフロッピーディスクは、今では陳腐化してしまった記録メディアである

今回は、当館がどのように映画をデジタルファイルとして保存・カタロギング(目録化)しているかを紹介します。

映画を保存する際には、以下の3点が明確でなければなりません。

[1]:コンテンツ(contents)=映像・音声情報
[2]:キャリア(carrier)=フィルム、光学ディスクなど、コンテンツを記録するメディア
[3」:コンテクスト(context)=上映・再生方法など受容の文脈

デジタルファイルはここで言う「コンテンツ」にあたり、ひとつのキャリア(ハードディスク[以下、HDD]や光学ディスクなど)から別のキャリアに容易に移動できる特徴があります。これは、複製は可能でも、乳剤面に記録された映像情報だけを切り離して別のフィルムに移すことはできず、キャリアがコンテンツと常に一体であるフィルムとの大きな違いです。

さらに、デジタルファイルは、内容が同一でも動画が有する解像度や圧縮などにより映像品質が違っていたり、内容とフォーマットが同じでもコーデック(符号化・復号化)によって再生機器との互換性が異なったりと、無数にバリエーションが派生します。

画像3デジタルファイルは、再生機器とフォーマットに互換性がないと再生できない

そのため当館では、世界の視聴覚アーカイブやフィルムアーカイブ、類似機関が公開する種々のガイドラインを参考にしながら、使用目的に応じたデジタルファイルのフォーマットを以下の通り定め、適切かつ効率的な管理・運用につなげています。

[1]オリジナルマスター:プリザベーションマスターを作成する際の元素材になるデジタルファイル。
[2]プリザベーションマスター:オリジナルの完全なコピーで、非圧縮など、高品質を保つ。保存用のマスターファイルとなる。

現在の典型フォーマット:DCDM(「デジタル・シネマ・ディストリビューション・マスター」の略)。DCP作成用のマスターフォーマットとして標準化されている。

[3]リファレンスマスター:変換・加工をせず再生ができる上映用フォーマットで、公開当時の上映を再現できる。プリザベーションマスターから新たに上映素材を作る際の参考としても使用される。

現在の典型フォーマット:DCP(「デジタル・シネマ・パッケージ」の略)。映画館のデジタル上映はDCPが主流である。

[4]アクセスマスター:主に上映以外の利活用を目的とするデジタルファイル。

現在の典型フォーマット:1つに限定していないが、Prores422HQコーデックのMOVを採用するケースが多い。Prores422HQは高品質を維持できるため、TV放送やWEB配信用のマスターデータなどに適している。

[5]アクセスコピー:主に(4)から一時的に作成された、簡易視聴用のデジタルファイル。

現在の典型フォーマット:H.264コーデックのMOVやMP4がメイン。PCやスマホのブラウザでの視聴に適している。

[6]素材:オリジナルマスター以前の製作段階で生成されるデジタルファイル。

では、デジタルファイル(コンテンツ)を保存する「」であるメディア(キャリア)は何を用いるのが良いのでしょうか。当館のデジタル保存の体制構築を中心になって進めてきた主任研究員の三浦和己さんは、「アクセスコピーであればHDDに入れて管理するのが通常ですが、一般的に、HDDは長期保存には向いていないんです」と教えてくれました。

「HDDは内蔵されたディスクの回転速度が非常に速いうえ、稼働する部品が多くて壊れやすいですからね。長期保存向きなのは磁気テープと光学ディスク。そのなかでも当館では磁気テープのLTOを採用しています。一社が製造するメディアだと、そこが生産を中止してしまったときに大変ですが、LTOは色々なメーカーが共同で規格を決めて作っているんです。

画像4LTO8。サイズは11センチ四方で、非圧縮で12TBもの容量を有している

LTOは、ファイルが記録された磁気テープが円形に巻かれて内蔵された四角い装置。シンプルな構造である上に、電源を使わずに置いておけるのが強みです。読み出しに時間がかかるという難点はありますが、こうした長期保存の適性を重視してLTOを採用しているのです。

デジタルファイルが消失するリスクを回避すべく、当館ではいわゆる「3-2-1の法則」に基づいて保存をしています。まず、保存したいファイルのコピーを3つ(使用目的=運用、保存〈正〉、保存〈副〉)持つこと。次に、それを2種類のメディアで保存すること。そして、災害などのアクシデントによる大量滅失を防ぐためにも、そのうち1つは物理的に別の場所で保存すること。

このように、フィルムとかけ離れた方法で保存しなくてはならないデジタルファイルは、カタロギングでも、フィルムや映画関連資料と同じデータベース「NFAD」を使用することができません。

そこで2017年に構築しはじめたのが、当館のデジタルコレクション管理用データベース「ALFA」です。ALFAでは「メディア」「コンテンツ」「作品」を別個のカテゴリーで管理しています。コンテンツの情報には、収蔵年度、収蔵事由などNFADのフィルム情報と共通する項目もある一方で、データ種別(プリザベーションマスター、アクセスマスターなどの分類)、ファイル情報(ファイル名、サイズ、暗号化等)といった、ALFAにしかない項目も並びます。

メディアの情報には、容量、使用容量、メーカー、機材名といった各メディアの情報と、メディア内のコンテンツが一覧になっています。また、「メディア用途」という項目があり、HDDは「運用用」、LTOは「保管用」と登録されています。「3-2-1の法則」に基づいて、保管用も「正」「副」の二種類を作り、ひとつは京橋、もうひとつは相模原分館で管理をしています。

画像5ALFAのメディア欄では、格納されたコンテンツ情報やメディアの容量、メーカーまで細かく登録されている

作品情報はNFADと連携していて、作品種別、製作年、製作会社、監督やスタッフ、キャストといったNFADから自動抽出された情報が載っています。NFADではフィルムや関連資料の情報が作品にぶら下がるかたちで登録されているように、ALFAでも、作品情報の欄ではその作品にひもづいたコンテンツとメディアの情報を確認できます。

ALFAへの登録作業を担当する研究補佐員の稲垣晴夏さんに、作業の流れを聞いてみました。

「外部からデジタルファイルが届いたら、館のネットワークと切り離されたコンピューターでウイルスチェックをし、まずは外側のメディアの登録を行います。各メディアには、格納されたコンテンツ情報を記載した記録表が同封されています。中に何が入っているかのメモ書きですね。その後、オープンソースのソフトを使ってメディアとそのコンテンツのメタデータを抽出し、記録表との間に齟齬がないか確認しながら、各コンテンツを登録していきます」

メタデータは、ファイルの管理や将来の利活用に向けて重要な情報です。さらに、映像は、同じファイルであっても再生環境(視聴環境)が変われば見え方・聞こえ方が大きく異なってしまいます。

「デジタルファイルは来歴も様々なため、コンテクストに関わる情報については特に慎重に記載していくようにしています。ALFAのコンテンツ情報には視聴環境の項目もありますが、これはファイルがどのような環境で観られる想定でつくられたかを示す情報です。作品がつくられた当時の画の再現性を保つためには、こういった情報をコンテンツ毎に残していくことが大切になってきます」と、稲垣さんも抽出した情報の重要性を語ります。

画像6旧東京国立近代美術館フィルムセンターの広報映像『映画の箱舟』のMOVファイ ルは、色域として、高精細度テレビジョン放送向けの規格である「Rec.709」、 色温度が「D65」、ディスプレイガンマが「γ2.4」と入力されている

国立映画アーカイブがフィルムや資料を一切所蔵していない場合は、NFADへの作品登録も行います。抽出したメタデータと記録表に齟齬が生じることは基本的にないそうですが、記録表も規格が統一されてはいないので、情報に抜けがあって再確認が必要になることもあります。また、当館独自の表記ルールがある項目は、それに合わせて記載を変えて入力しなければなりません。

ALFAへの登録を終えた後、正副のLTOを作成。それを京橋、相模原の定められた保存場所に収めることで、デジタルファイルはようやく、フィルムで言うならば「収蔵庫」に収められたことになります。こうしたカタロギングの工程はようやく構築できたもので、三浦さんは開設当時をこのように振り返ります。

「ALFAの立ち上げにあたっては、世界各国のいろいろな機関をリサーチしました。ヨーロッパでは周辺組織と頻繁にやり取りをする機関も多く、共通したデータベースソフトを使っているケースもありましたね。アーカイブに特化したオープンソースのソフトウェアを使用している機関もありますが、館独自の作り込みをしようとすると途端に難しくなりますし、頻繁にアップデートもされるので、管理が大変な面もあります。専用データベースの作成を外部に発注することも考えましたが、それには国立映画アーカイブのデジタルファイルの管理方針が完全に固まっている必要がある。ALFAに着手したころは手探りの部分が多かったので、ノンコードで開発できる、市販のデータベースソフトでとにかく始めてみました。ALFAの開設当初に登録した情報は内容が不足していることもあるので、今は、館で定めたルールに基づいてそれらをアップデートし、情報を整備していく、ということをやっています。手戻りが多くて苦労も絶えませんが、当館の最適解は他の誰かが教えてくれるものではない。正解を探している間にもデータは失われていってしまうので、とにかく始めて、考え続けながら育てていくということが重要だと思っています」

技術の進化によって、これからも新たなフォーマットやメディアが誕生する可能性はいくらでもあります。当館はその都度、新しい保存の方法を模索しながら、ALFAをアップグレードしなくてはなりません。いまも、目下コンテンツのカテゴリーの表記変更などを試みている最中とのこと。デジタルファイルとして映画を未来に残していく保存活動は、さまざまな変化に柔軟に保存スキームを適応させしていく、絶え間ないプロセスでもあるのです。

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