【「逆転のトライアングル」評論】“曲がったことが大好きな映画監督”が紡ぎ出す意想外のドラマ
2023年2月26日 21:00
「フレンチアルプスで起きたこと」(2014)の一見、平穏な一家を襲う災厄、「ザ・スクエア 思いやりの聖域」(2017)の優雅な美術館キュレーターに降りかかる理不尽きわまりない受難。
スウェーデンのリューベン・オストルンドの映画を見ていると、つくづく“曲がったことが大好きな映画監督”だなと思う。ふつうの監督ならあまり気にも留めないような素材にあえて着目し、重箱の隅を突くようにディテールに細心の注意を払いながら、意想外のドラマを紡ぎ出すのである。
新作の「逆転のトライアングル」でも、巻頭、高級レストランで食事した人気モデルでインフルエンサーのヤヤと男性モデル、カールのどちらが支払いをするかをめぐって起こる言い争いが、やはり見る者をいたたまれないような意気阻喪に陥れる。
その後、ホテルの一室で、ヤヤが勝ち誇ったような表情で「私、人を無意識のうちに操るのが得意なの」とつぶやくシーンで、その“いやな感じ”はさらに倍加する。
次に舞台は超絶セレブを乗せた豪華客船のクルーズの旅の途上へ移る。妻と若い愛人を連れたロシアの新興財閥は有機肥料で財産を築き、「俺はクソの帝王」とうそぶく。武器を製造している上品な英国人老夫婦、高額のチップのためにあらゆる要望に応える白人スタッフがいて、船の下層階では有色人種のスタッフが料理、清掃に従事している。まるで絵にかいたような爛熟した高度資本主義社会の縮図のような世界である。
そして「資本主義世界のコミュニスト」を自称するアル中の船長が客をもてなす<キャプテン・ディナー>が始まると同時に船は嵐に突入し、乗客は船酔いで次々に嘔吐、トイレは逆流して船内は糞尿まみれと化し、阿鼻叫喚の修羅場が展開される。
さらに海賊が投げた手榴弾によって、船は大破し、無人島に漂着した8人のサバイバルを描くパート3「島」となる。そこではトイレの掃除係だったアビゲイルが大活躍し、海に潜り魚を獲って火を焚いて調理する。そして主導権を握った彼女はいきなり「ここでは私がキャプテン」と高らかに宣言するのだ。
これは明らかに、無人島に漂着した上流階級の人妻と使用人の立場が逆転するイタリア映画「流されて…」(1974・リナ・ウェルトミューラー監督)を踏まえた、孤島ものの寓話といえるだろう。しかし、牧歌的なコメディの色合いが濃厚であった「流されて…」とは違って、「逆転のトライアングル」は、いかに“食”と“性”を支配下においたアビゲイルが孤島で君臨しようとも、そのあまりに極端なまでのカリカチュアが、かえって笑いを引きつらせ、どこまでも苦い舌触りとして残るのだ。それは、われわれがコミュニズムも高度資本主義もとうに破産宣告された、暗澹たる終末の時代を生きているせいなのかもしれない。
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