異なるアプローチで描いた米乱射事件 本源的な問いかけが浮かび上がってくる【「対峙」評論】
2023年2月5日 08:30

アメリカでは、これまでもテキサスタワー乱射事件をテーマにした「パニック・イン・テキサスタワー」(1975)やコロンバイン高校銃乱射事件を描いた「ボウリング・フォー・コロンバイン」(2002)、「エレファント」(2003)など、実際にキャンパスで起こった無差別銃乱射事件を扱った映画が数多くつくられてきた。騒然たるアクション映画から銃社会への警鐘を促すような問題提起を試みるメッセージ的な作品までジャンルはさまざまだが、「対峙」は同工のテーマを掲げながらも、従来の作品とはまったく異なるアプローチによって生み出された映画である。
アメリカのある高校で生徒による銃乱射事件が発生し、10人の生徒が殺害され、犯人の少年も学校の図書室で自ら命を絶った。その6年後、ある地方都市の教会の別室で、セラピストの勧めで、息子を殺された被害者の両親と、事件を引き起こした加害者の両親が対面することになる。
映画は、その模様の一部始終を、回想シーンや再現場面などを一切、使わずに、まるで緊迫した舞台劇をリアルタイムで体感するように、観る者に丸ごと提示するのである。はじめは、おずおずとためらいがちに挨拶をかわし、一見、穏やかな調子で会話を始めた4人だが、次第に、この4人の人生そのものを完膚なきまでに崩壊させた、おぞましい出来事の実相に向けた、さらに事件が起こった背景やふたつの家庭環境をめぐっての熾烈な、仮借ない“言葉”の応酬が始まる。
とりわけ、いつも泣いているような加害者の母親リンダ(アン・ダウド)が、切羽詰まった末に「私は人殺しを育てた」と呟くときの表情が忘れがたい。そして、加害者の父親であるリチャード(リード・バーニー)が息子の抱えていた苦しみや鬱屈を語り出す。いっぽうで、被害者の父親であるジェイ(ジェイソン・アイザックス)が、「あなた方が罰を受けるべきだと思った」、「彼自身が、ほとんど治療不可能なサイコパスだったのではないか」と激しく糾弾し始めるや、懸命に、それを否定しようとするリチャード。
延々と続く、果てることのない堂々巡りのような苛烈なダイアローグの応酬を見ていると、この理不尽な事件の本質を理解することなど到底不可ではないか、ということに思い至る。この2組の夫婦からも、いつしか加害者対被害者という対蹠的な構図が消え去ってしまい、そこから、「ひとがひとを赦すとはどういうことなのか」という本源的な問いかけだけが浮かび上がってくるのである。
「対峙」は、磨き上げられたダイアローグもさることながら、むしろ、俳優たちのささやかな身振りや表情をもっとも重視した入念で繊細な演出によって、類例のない高みに達しているといえよう。
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