岸井ゆきの主演「ケイコ 目を澄ませて」 光と音、心の波…感覚が研ぎ澄まされるメイキング映像独占入手
2022年12月30日 18:00
岸井ゆきのと三浦友和が共演し、第72回ベルリン国際映画祭ほか21の映画祭に出品された三宅唱監督作「ケイコ 目を澄ませて」(公開中)のメイキング映像を、映画.comが独占入手。“目を澄ませて”見ることで、日常では見逃してしまうかもしれない光と音を繊細に感じられる、感覚が研ぎ澄まされる映像となっている。
本作は、「きみの鳥はうたえる」の三宅監督が、耳が聞こえない元プロボクサー・小笠原恵子氏をモデルに、彼女の生き方に着想を得た物語。両耳の聞こえないプロボクサー・ケイコ(岸井)と、彼女の実直さを誰よりも認め、見守るボクシングジムの会長(三浦)の交流を描く。ゴングの音もセコンドの指示もレフリーの声も聞こえないなか、じっと“目を澄ませて”闘うケイコを、秀でた才能を持つ主人公としてではなく、不安や迷い、喜びや情熱など、さまざまな感情の間で揺れ動きながらも、一歩ずつ確実に歩みを進める等身大の女性として描き、彼女の心のざわめきを16ミリフィルムに焼きつけた。
2月に行われたベルリン国際映画祭でプレミア上映されると、「すべての瞬間が心に響く」「間違いなく一見の価値あり」と絶賛が寄せられた。第77回毎日映画コンクールでは、日本映画大賞・日本映画優秀賞、女優主演賞、男優助演賞、監督賞、撮影賞、録音賞の6部門にノミネート。公開後、SNSにも「紛れもない傑作!」「世界を心をありのまま映す、これぞ映画」「誰かの人生を変えるパワーに満ちた作品」と熱を帯びた感想が溢れている。
嘘がつけず、愛想笑いが苦手なケイコは、生まれつき両耳とも聞こえない。再開発が進む下町の一角にある小さなジムで、日々鍛錬を重ねる彼女は、プロボクサーとしてリングに立ち続ける。母からは「いつまで続けるつもりなの?」と心配され、言葉にできない思いが、心のなかに溜まっていく。「一度お休みしたいです」と書き留めた会長宛ての手紙を渡せずにいたある日、ジムが閉鎖されることを知り、ケイコの心が動き出す。
メイキング映像は、早朝の練習を終えたケイコと会長が並んで河原を歩くシーンを映す。髪をまとめようとするが手間取るケイコに、会長は自分のかぶっていたピンクの帽子を手渡す。ケイコはかぶってみせるが、会長は手で「後ろ向きでかぶれ」と指示。キャップを後ろ向きにかぶり直すケイコに会長は満足そうに頷くが、そんな会長をよそにケイコは前かぶりに戻すというほほ笑ましい場面で、ふたりの言葉を超えた絆を感じさせる。
注目は、橋脚にゆらゆらと映し出される川面の反射光、電車の走る影や音など、印象的な光と音。本映像の光や音が直接本編に反映されているわけではないが、本編ではそれ以上に光や音が使われている。16ミリフィルムでとらえた画面からは、下町の風の匂い、ジムの床の軋む音、夜の電車の車窓からもれる光など、ささやかな景色が次々と見え、登場人物の小さな心の波さえも感じられるかのようだ。
三宅監督は音の設計について、「劇伴は大抵の場合、観客の感情を誘導する働きがあり、聴者とろう者の受け取る情報に大きな違いが出るので、それはなるべく避けるという方針を事前に立てていました。その上で、環境音については、聴者の観客が、普段は当たり前に感じている『音が聞こえる』ということを改めて意識し、またケイコにはこの音が聞こえていないということを意識するような音の設計を考えました」と解説。タイトルにもなっている“目を澄ませる”ことについて、「映画館の大きなスクリーンで人をじっと見つめることは、それ自体が面白くてスリリングな経験です。日常では見逃してしまうかもしれないごく小さな心の波や、どんな言葉にもできない何かが、映画館では繊細に感じることができると思います。それを信じて作った映画です」と語っている。
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