片山慎三監督「予定調和は好きではない」 俳優陣と追求した“ナマっぽさ”とは【メイキング・オブ・ガンニバル 連載第2弾】
2022年12月27日 19:00
ディズニープラス「スター」と、柳楽優弥ら日本映画の第一線で活躍する気鋭クリエイター&キャストがタッグを組んだ衝撃のサイコスリラー「ガンニバル」が、12月28日から配信される。全世界に発信する実写ドラマの大作シリーズという画期的なプロジェクトは、いかに実現したのか。その全ぼうを関係者の言葉から紐解いていく。映画.com独占連載第2弾は、片山慎三監督だ。「僕は予定調和が好きではない」と語る片山監督が、綿密なリハーサルを通して、俳優陣と追求した“ナマっぽさ”とは?
2018年に連載が開始され、累計発行部数210万部を超える二宮正明氏による同名コミックを実写ドラマ化。都会から遠く離れた山間にある「供花村」を舞台に、ある事件をきっかけに供花村の駐在として左遷された阿川大悟(柳楽)が、老婆の奇妙な死を境に、「人が喰われているらしい」と噂される村の異常性に飲みこまれていく。
初の長編映画「岬の兄妹」で、かつて助監督として師事したポン・ジュノ監督に絶賛され、商業映画デビューを飾った犯罪サスペンス「さがす」でも鬼才ぶりを発揮。日本映画界の未来を担う片山監督が「ガンニバル」映像化の企画を打診された第一印象は、ずばり「題材に惹かれた」というものだった。
「最初に二宮正明さんの原作コミックを拝読し、すごく面白くて。読み進めていくと、登場人物たちの人間関係がすごく濃い。善とも悪ともつかないような物語があって、これなら映像化しても、単なる怖いドラマやスリラーに終わらないだろうと。そこに惹かれて、物語にどんどんハマっていった感じです。これなら映像化しても絶対ヒットするという手応えも感じました。監督の依頼をいただけて、本当にありがたかったです」
片山監督にとっては、本作で初めて配信ドラマの監督を務める。さらにはディズニープラスによる世界同時配信という“国際基準”の作品となることから、広い世界に届けることを意識しながら撮影を進めていたと明かす。
意識したのは「普通なら思わず目を背けてしまうような描写があっても、そこでご覧になっている方が視聴をやめてしまわないようにすること」だといい、同時に「原作コミックを読んで感じた複雑な人間関係の面白さを損いたくなかった。それをきれいに整理しすぎてしまうと、面白くなくなる可能性があります」と、原作の面白さ、映像ならではの表現を両立させることを目指した。結果的には、その両者が絶妙な“カオス感”を残し、視聴者に「これからどうなるんだろう?」という興味をつなぐバランスが生まれた。
日本の映画やドラマでは類を見ない、5カ月間という撮影期間を通し、1シーン1シーンに徹底的にこだわりながら撮影が進められた。その上で、片山監督が追求したのが、俳優たちから意図せずにあふれ出す“ナマっぽさ”だ。
「予定調和は好きではないんです。実写を撮る良さって、何が起こるかわからないこと。何度テイクを重ねても、毎回違う。ふとした表情や芝居の間が違ったりするんです。役者本人が意図していない演技といいますか。そういうものが出てくるとき、僕は“ナマっぽさ”を感じるし、それを待っている感じです。自分のなかのゴールを目指すというよりは、ゴールになるようなものへ近づくようにしています」
撮影前には、俳優たちが本編に登場するシーンではなく、ドラマの前段に当たる物語のリハーサルを実施するというユニークな試みも。
片山監督は「脚本を読めば、登場人物の設定年齢や現在の状況は分かりますが、演じる俳優はそこに至る過去というのは、記憶がない状態で、想像しながら演じるしかない。例えば、恵介(笠松将)とすみれ(北香那)の場合、ドラマでは会っていきなり揉めるシーンがありますが、このふたりに何があったのか? 俳優に記憶や感情を持って現場に入ってもらえれば、相手の見方も変わるんじゃないかと思ったんです。台本は用意せず、決めていたのは設定だけです。リハーサルをやれば、どんどん吸収してくれるだろうなという思いもありました」と、リハーサルの狙いを語る。
こうしたリハーサルの実施は、片山監督にとっては初めてのチャレンジ。日本を代表する役者陣に対し、自身や相手のキャラクター性をより深く知り、作品をさらに理解するため、一切妥協せず、リアリティを追求していたのだ。観客をも飲み込む張り詰めた緊張感の演出に加えて、役者の鬼気迫る表情こそ、片山監督にしか作り出せない世界観。ぜひ「ガンニバル」の世界に飛び込み、その神髄を味わってほしい。
「ガンニバル」は12月28日から、ディズニープラスで配信開始(全7話/初回のみ、2話配信】。