【「チーム・ジンバブエのソムリエたち」評論】見る者の感覚が「意外性」→「衝撃」→「共感」→「応援」と変化する一本。ワインの奥深さに酔う

2022年12月18日 10:00


(C)2020 Third Man Films Pty Ltd
(C)2020 Third Man Films Pty Ltd

ジンバブエ? ソムリエ? この映画のタイトルはどういう意味なのかなと思いながら、映画を見始めてたったの5分。そこで繰り広げられているシークエンスに度肝を抜かれました。

ジンバブエ人のソムリエたちが、ワイングラスに鼻先を突っ込んでブラインドテイスティングをしています。「これはニューワールドだ。パールのシュナン・ブラン、2011年」「いや、ヨーロッパだ。リースリングだと思う。2005年から2007年の間」……4人のソムリエたちのうちの1人が、見事に品種と年代を言い当てます。

世界地図で確認しましたが、ジンバブエはアフリカ南部、南アフリカに国境を接する内陸国です。主人公たちは、家が貧しいとか政治が不安定などの理由で南アフリカに逃れてきました。その南アだって、強盗や暴行が蔓延するかなり危険な国なわけですが、彼らは難民として大変な苦労をした末に、南アのレストランでソムリエの職に就きます。南ア在住ですが、国籍はジンバブエなので「ジンバブエ代表」と認定されて、ソムリエコンテストの世界大会を目指すことになったのです。

ジャマイカ代表が、ボブスレーで冬季オリンピックに出場した「クールランニング」という映画を思い出します。アフリカ人のソムリエって言われても実感は湧かないけど、マサイの人が視覚に優れているように、ジンバブエの人は嗅覚や味覚に優れているのかも?と思い至って俄然、映画を見るモチベーションが爆上がり。

世界大会を目指すことになったチーム・ジンバブエのソムリエたちですが、彼らはそんなに高給取りではないし、貯金もあまり持ってないので、大会が行われるフランスまで行く旅費がありません。どうしたか? そう。クラウドファンディングです。「ジンバブエ人ソムリエを世界大会に送ろう」という案件は、かなりの数の共感とサポートを得て、見事に予定金額を達成します。ここ、1つ目のカタルシスです。

次の目標は、世界大会での上位入賞ということになりますが、そこは映画を見てのお楽しみということにしておきましょう。世界大会は、24カ国から参加がありました。白ワイン6杯、赤ワイン6杯、計12杯をすべてブラインドでテイスティングするというとても難易度の高いコンペティションです。会場で、チーム・ジンバブエは異彩を放っていました。

併せてこの映画では、ワインの世界、ソムリエの世界の深淵なる様子や、業界的にはダイバーシティに乏しい昔ながらの世界であることなどが明かされます。黒人ばかりのチーム・ジンバブエがいかに異色なのかがヴィヴィッドに伝わってきます。

題名から感じる「意外性」、すぐ先に訪れる「衝撃」、彼らの能力とチャレンジに対する「共感」、大会に出た後は「応援」と、次々に色んな感情が湧き上がる希有で素敵な映画です。
もちろん、見終わった瞬間にワインが飲みたくなりますよ。でも、その鑑賞後のワインに何を選びますか? ……そこが悩ましいんですよ!

駒井尚文

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