【「パラレル・マザーズ」評論】アルモドバルが愛してやまない強い母親たちが艶やかに競演 作風は一層意味深いものに
2022年11月6日 13:00
自らの人生を投影させた前作「ペイン・アンド・グローリー」(19)からハンドルを切って、再び“母の物語”へと回帰したペドロ・アルモドバル。その最新作では、同じ病院の同じ病室で、同じ日の同じ時刻に、共に望まない子供を産んだ写真家のジャニスと17歳のアナが、病院側の不手際によって運命を狂わせていく様子を描いている。ジャニスとアナを待ち構える偶然の悪戯、観客を置いてきぼりにする展開、真面目なのかコミカルなのか判別不能なタッチは、監督のマニアたち、通称“アルモドバリアン”を大いに満足させるものだ。
病身の妻を差し置いて、一緒にいたいという愛人の身勝手な願いを撥ねつけて、1人で子供を育てることを決意するジャニス。実は妊娠の背後に不幸な過去がある上に、さらなる不幸を2重で抱え込むことになるアナ。そして、そんなアナを見捨てて俳優になる夢を追いかける母親のテレサ。今回もアルモドバルが愛してやまない強い母親たちが艶やかに競演して、監督が追い求める“母性”というテーマが強く浮かび上がるという手法だ。
さらに今作では、ジャニスの現在と過去をまさに“パラレル”で描くことで、より複雑な味わいを残している。ジャニスはかつてスペイン内戦で惨殺され、故郷の村の集団墓地に埋葬された曽祖父と村の男たちの遺骨を掘り起こすというライフワークにも取り組んでいる。一見、何の脈略もない2つの時代とストーリーが、失われた家族への想いというテーマで括られる時、アルモドバルの映画作家としての懐の深さを感じないではいられない。それは、1936年から39年まで続いたスペイン内戦に勝利した後、1975年まで独裁政権を敷いたフランコ将軍が亡くなると同時に、母国に巻き起こったカルチャームーブメント“マドリレーニャ”を先頭で率いてきたアルモドバルの、彼にとってのライフワーク。ヨーロッパ各国の右傾化が進む昨今、彼の作風は一層意味深いものになっている。
そして、いつものお楽しみは映画のアートディレクションだ。今回も、アルモドバルとは少なくとも11回はコラボしているプロダクション・デザイナーのアンチョン・ゴメスが、カラフルな色とパターンとアートで溢れるセットをデザインして、観客をまるで登場人物と同居しているような錯覚に陥らせる。例えば、ジャニスのアパートにさりげなく飾られているアメリカの写真家、アーヴィング・ペン(弟は映画監督のアーサー・ペン)の作品“ディアマレの妙齢の美女”や、暖炉の上に置かれているスペインの現代アート作家、Dis_Berlinの彫刻が、赤を基調としたキッチュでおしゃれな空間を埋め尽くして、誰もが“アルモドバリアン”気分に浸れるのだ。
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