【福永壮志監督「山女」インタビュー】日本人の心の奥にある風景を求めて
2022年10月23日 18:00
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10月24日に開幕する第35回東京国際映画祭のコンペティション部門に、福永壮志(たけし)監督の手がけた「山女」が選出されている。福永監督は現在40歳。北海道の出身で、高校卒業後アメリカに渡り、ニューヨーク市立ブルックリン大学で映画を学んだ。2015年に初長編劇映画「リベリアの白い血」が第65回ベルリン国際映画祭パノラマ部門に出品され、第21回ロサンゼルス映画祭で最高賞を受賞。2作目の「アイヌモシリ」(20)は、第19回トライベッカ映画祭で審査員特別賞を受賞している。今回、初めて東京国際映画祭のコンペティションに選ばれた「山女」は、柳田国男の「遠野物語」にインスパイアされた作品であるが、「アイヌモシリ」と同様、国内外のスタッフでチームを組み、自分の想像を超える作品を目指したという。
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福永:過去作との関係を特に考えてはいませんでしたが、マイノリティを描くということは今までと変わらずに意識していますから、似通った要素は自ずと入りこんでいると思います。
福永:大いに影響を受けていますが、この作品は「遠野物語」を原作にして映画化したというのとは違います。あの本のなかで紹介されている民話群からさまざまな要素を取り入れて、あたらしい物語を草案しました。その一方で、凜(山田杏奈)が語る早池峰山の伝説や、お婆が語る川が氾濫した時の言い伝えは、「遠野物語」でも紹介されている話をそのまま引用しています。
福永:2019年です。自分で初稿を書いた後に、時代物も数多く書いていらっしゃる劇作家の長田育恵さんを共同脚本家に迎えて書き進めました。その後、ベルリンのNIPKOWプログラム(注)に通ったので、現地に滞在して講師の意見を仰ぎながら脚本を書く予定でしたがコロナ禍で行けず、英語で書いたものをおくって、オンラインで講師の指導を受けました。それから日本語に戻して、時代考証の先生に意見を聞きながら、長田育恵さんと一緒に仕上げました。
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福永:海外の人のフィードバックを参考にして、予備知識がなくても明確に物語が伝わる作品づくりを目指しています。自分はアメリカで映像制作を学んで作品づくりをしてきたので、海外スタッフが入った方がやりやすい感覚があります。いろんな背景や感性を持った人たちが集うことで、自分が思い描いていたのとは違うかたちに映画は発展していきます。そのプロセスは楽しいし、そうすることで自分の想像を超える作品ができるんじゃないかという期待もあります。海外スタッフとしかやらないということではもちろんないですが、自分が求める制作環境を作るためにも、国際的な製作チームを編成することは重要だと考えています。
福永:俳優の人選は、プロデューサー陣のエリック・ニアリさん、三宅はるえさん、家冨未央さんの尽力が大きいです。これまでプロの俳優ではない方々に出演をお願いして映画を制作してきたので、同じように物語の世界に染まって、実在感の示せる方を探しました。
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福永:遠野弁の習得は事前の準備段階でいちばん役者さんたちにお願いした部分でした。言葉にはその土地にしかない空気や質感が凝縮されています。フィクションの要素が強い時代物にリアリティを持たせるためにも、とても大事な要素だと思いました。
福永:もちろんそうですし、もっと短い時間軸で言えば、コロナ禍で起きたこともそうです。コロナが流行して不安に満たされていた当初、日本では感染者が過剰に非難される事例が数多く起きて、とても悲しい気持ちになりました。追いつめられた集団が弱い個人を責めるという構図は、歴史上何度も繰り返されてきたことです。パンデミックのニュースを見聞しているなかで書いた脚本なので、当時起きていたことが自然と物語の中に反映されていきました。
また本作は、女性を主人公にして男尊女卑の風習を描いていますが、たとえ時代物であっても、間違った女性の描き方があってはならないと考え、できるだけ女性スタッフに参加してもらいました。共同脚本家の長田さんやプロデューサー陣といろんな話し合いを重ねながら、男尊女卑が脈々と続く現代の日本にも通ずる作品にすることを意識しました。
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福永:ひとつには、凜が居場所を求めて解放される場所という意味合いがあります。自然に対する畏怖の心は古来、日本人の心に受け継がれてきたもので、日本特有の精神性を形作る大事な部分です。映画の中で自然を厳かで恐ろしいものとして描き、日本独特の人間と自然の関係性を表現したいと思いました。自然のシーンはとても象徴的であり、大切な意味合いをもっています。
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