【「PIG ピッグ」評論】人生の悲哀が血と涙と怨念と共に香り立つ、ニコラス・ケイジ100本目の長編映画
2022年10月9日 21:00

ニコラス・ケイジにとってちょうど100本目になる長編映画は、血塗れになった彼の顔にリベンジの4文字がくっ付いて、どうしても「マンディ 地獄のロード・ウォリアー」(17)を思い起こさせる。確かに、トリュフを嗅ぎ分けるための豚と寄り添い、死んだ妻の声が録音されたテープを子守唄代わりに眠りにつくトリュフハンターが、盗まれた豚の奪還に向かうというプロットはあれに近い。
しかし、今回、主人公のロブを演じるニコケイは、より一層寡黙な分、臓物の中に仕舞い込んだ怒りは半端なく、失くした者たちへの愛と喪失感は別に説明されなくても充分に伝わる。ほぼ表情を変えぬまま、時に怒りメラメラの復讐鬼を、時に食の伝道師を、そして時に悟りを開いた人生の達人へと変化して、まさに痛快そのもの。何をやっても可愛く見えてしまう得な性分も相変わらずだ。
映画は上映時間が91分、3つのチャプターに分かれたシンプルな構成だ。チャプター1では、ロブが、ディーラーの青年、アミール(アレックス・ウルフ:ニコケイも絶賛の名演)を案内人に豚の捜索に着手するまでが描かれる。この幕開けにはワクワクするが、これに意外な捻りが加えられるチャプター2の面白さが格別だ。ここでは、鬱蒼とした森を出て久しぶりに故郷のポートランドに戻ったロブの意外すぎる過去が解き明かされ、ロブはその鋼鉄のような料理哲学と人生観をかざして、豚捜索の過程で出会う人々の薄っぺらい仮面を次々と剥がしていくのである。お前はそれで本当に幸せなのか? というロブの問いかけに相手が屈する時、豚と一緒に森のホームレスの如く生きるロブの姿がなぜか尊く思えてくるのだ。
ロブの最終ターゲットとなる人物にも彼の怒りとさとしの槍が向けられるチャプター3の畳み込み方も上手い。ロブのある画策により家族の思い出が蘇り、それがロブ自身のハートも切なく満たしていく美しいエンディングには、しばし忘れ難いものがある。
食欲の秋、劇場ではレストランの起源を描いた「デリシュ!」がすでに公開中で、11月にはヌーベルキュイジーヌを皮肉ったグルメミステリー「ザ・メニュー」の公開が控える。そんな中、珍味トリュフを介して人生の悲哀が血と涙と怨念と共に香り立ってくる本作の後味も、他の2作に比べても引けを取らない。食いしん坊の映画好きにとって贅沢な季節の到来だ。
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