スピルバーグ自伝映画は納得と発見だらけ トロント国際映画祭で鑑賞した注目作を紹介【ハリウッドコラムvol.324】
2022年10月9日 19:00
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ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米ロサンゼルス在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。
トロント国際映画祭にやってきたのは3年ぶりだ。カナダで毎年9月に開催するトロント国際映画祭は、8月下旬に米コロラド州で行われるテルライド映画祭や、イタリアのベネチア映画祭と並んで、賞レースの始まりを告げる重要な映画祭として知られている。
トロントはハリウッドからも近いこともあって、メジャースタジオは秋冬に全米公開予定の新作映画のプレミアを盛大に行うのが慣わしだった。
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だが、他の対面式イベントと同様、トロント国際映画祭も過去2年は新型コロナウイルスの煽りをうけており、ぼくも参加を見合わせていた。だが、今年はカナダが入国規制を撤廃したこともあって、ひさびさに参加することになった。
上映会はきちんと行われるのか? セレブはやってくるのか? 記者会見などの対面式イベントはあるのか?
トロントに入る前はさまざまな不安があったけれど、驚いたほど変わっていなかった。マスクをしている人をちらほら見かけるくらいで(マスクの着用は任意)、紙だったチケットがすべてQRコード化したことが最大の違いだろうか。
さっそく、トロント国際映画祭で過ごした数日間のあいだに観た映画を紹介していきたいと思う。
「Bros(原題)」は、メジャースタジオ映画としては初めてのゲイ同士のロマンティック・コメディだ。人気ポッドキャストのホストを務める主人公が、マッチングアプリを通じた不毛なワンナイトを脱却し、真の恋人と結ばれるまでを描く。プロデューサーは「40歳の童貞男」のジャド・アパトーで、彼がプロデュースした「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」とアプローチが似ている。「ブライズメイズ」は脚本・主演を務めたクリスティン・ウィグの視点を生かした「女性映画」となっていた。「Bros(原題)」は、「Billy on the Street」というリアリティ番組で注目を集めるコメディアン、ビリー・アイクナーを脚本・主演に迎えて、「ゲイ映画」に仕立てている。いつものようにお下劣な笑いと温かなハートはそのままで、ロマンティック・コメディとしてもしっかり成立している。乱交シーンがちょっと多めだけど、デート映画としてもなんとかいけると思う。
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ハリー・スタイルズ主演の「僕の巡査」も同性愛映画だ。1950年と1990年代という2つの時間を行き来しながら、巡査のトム(スタイルズ)と親友パトリック(デビッド・ドーソン)と恋人マリオン(エマ・コリン)の三角関係を描く。原作はロマンス小説なので、現実逃避したい人にはお薦め。こちらは間もなくアマゾンのプライムビデオで世界配信される。
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「ザ・メニュー」は、孤島にある予約の取れないレストランに招待されたゲストたちと、彼らのために特別に用意されたコースメニューを描く異色作。若いカップルをニコラス・ホルトとアニヤ・テイラー=ジョイ、カリスマシェフをレイフ・ファインズが演じている。ただし、一流レストランでの素敵なひとときのような映画体験を期待してはいけない。「ドント・ルック・アップ」のアダム・マッケイ監督がプロデューサーを務める本作は、Netflixの人気番組「シェフのテーブル」に、人間狩りを描いた「ザ・ハント」を掛け合わせたようなブラックコメディとなっている。
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楽しみにしていた「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」の続編「ナイブズ・アウト グラス・オニオン」は、あいにく観ることができなかった。観客ファーストの映画祭なので、人気作品はチケット入手が困難なのだ。こちらは12月23日にNetflixで世界配信されるので、それまで待つとしよう。
だが、もうひとつの注目作「The Fabelmans(原題)」の上映会にはなんとか滑り込むことができた。
主人公は、ユダヤ系アメリカ人の少年サミー。両親に連れて行かれたセシル・B・デミル監督の「地上最大のショウ」(1952)に感激したサミーは、鉄道模型を使って8ミリ映画で特定のシーンの再現を試みる。これが、それから一生続くことになる映画制作のはじまりだった。コンピューター技師の父(ポール・ダノ)と、かつてピアニストを目指していた芸術家肌の母(ミシェル・ウィリアムズ)はまるで水と油で、相性は最悪だったものの、二人ともそれぞれのやり方でサミーを支援する。家庭の不和や引っ越し、いじめ、初恋などを経験しながら、サミーが映画作家として成長していくさまを描く青春映画だ。
「The Fabelmans(原題)」がユニークなのは、スティーブン・スピルバーグ監督の自伝映画となっている点だ。名前こそ変更されてはいるものの、スピルバーグ監督の人生が下敷きになっている。つまり、映画史上最高のヒットメーカーの誕生秘話として楽しむことができるのだ。
物心ついた頃からスピルバーグ作品に浸り、何度もインタビューさせてもらっている自分からすれば、納得と発見だらけでワクワクが止まらなかった。トロント国際映画祭で最高賞の観客賞を受賞したのも納得で、アカデミー賞の有力候補であるのは間違いない。ただ、この映画の魔法が、普段あまり映画を観ない人にまで届くかどうかはちょっと分からない。
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他にもフランス映画「Driving Madeleine(原題)」のクリスチャン・カリオン監督と主演のダニー・ブーンの取材や、「バビロン」のデイミアン・チャゼル監督のトークイベントに参加したりと、正味3日の参加だったけれどかなり充実した日々を過ごすことができた。
いよいよ賞レースが始まった。今年もいい映画に出会えることを期待している。
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