【「PARALLEL」評論】現代社会の壊れた心と歪んだ愛を強烈な狂気と色彩の映像で描いた異色作
2022年10月2日 19:00

他人とのコミュニケーションがさらに希薄になった時代に、必然的に産み落とされた傑作か、それとも問題作か―。田中大貴監督が製作・脚本・撮影・照明・編集・特殊造形・VFXも兼任した本作は、自主製作映画の極みの一本と言え、作家の内から溢れ出た結晶である。
作品は、“心に傷を抱えた少女”と“アニメの世界に行きたい殺人鬼”が織りなす交流をスプラッターとラブストーリーを融合させて描いた異色作だ。賛否わかれるテーマを扱っており、人によっては内容や描写に拒絶反応を示すかもしれない。しかし、主人公たちが抱える傷に、次第に共感していく自分の中のもう一人の“自分”に気づくのではないだろうか。
幼い頃に両親から虐待されていた舞は、つらい過去と折り合いをつけることができず、親友と無為な毎日を送っていた。そんなある日、舞は美少女アニメキャラクターのコスプレ姿で殺人を繰り返している殺人鬼に遭遇。殺人鬼も不思議と舞に興味を抱き、正体を隠して彼女に接近する。舞は自身の心の傷を、殺人鬼は自分の本当の姿を隠しながらも仲を深めていき、やがてお互いの本当の心に触れることになるのだが……。
田中監督は、誰しもが持っているかもしれない心の傷と、他人には見せない本当の自分をつなぎ合わせようとするかのようだ。そのために、現実ではないアニメの世界で本当の自分を見出そうと逃避する殺人鬼による、現実世界での暴力や殺人の描写は容赦なく、赤い血しぶきがスクリーンを覆い、やがて両方の世界の境界線が曖昧になっていく。
だが、暴力によってトラウマを負った舞は、正体を隠していようとも、殺人鬼の中にもう一人の自分を感じとり、矛盾しながらもひかれていくように見える。そこには暴力への記憶を克服したいという願いとともに、痛みと血への欲求、自分も殺されたいのではないかという思いが見え隠れする。そして、この歪んだ思いは、お互いを癒し、現実世界で慰め合っていくかのように見えて、実は決して交わることはなく、他人の真の心を知ることはできないかのようだ。
ボカロ的な音楽とともに、劇中のアニメ作品はそれだけでしっかりと世界観が構築されている。また殺人描写や、過去の記憶、現実世界の日常の映像が、赤と青を基調とした色彩とともに押し寄せ、見る者を圧倒する。その一方で、懐かしい記憶や、静寂の風景と音楽、そして2人のどこか悲しげでありながら、愛を乞うような表情が、それまでの狂気との対比になっている。
楢葉ももなが長編映画初主演とは思えない存在感で舞を演じ、殺人鬼の多面性を芳村宗治郎が繊細に演じ分けている。振り切ったスプラッター映画としてだけでも充分濃度は高いが、ラブストーリーの形をとりながら、現代社会の壊れた心、稀薄化した人間関係、そして現実世界での本当の自分とは何なのか、という田中監督の真の思いが、見終わった後に響いてくるだろう。
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