異色のスプラッター×ラブストーリー「PARALLEL」 田中大貴監督「殺人鬼を今までとは違った角度から描きたかった」
2022年9月22日 19:00
田中大貴監督の長編デビュー作「PARALLEL」が、9月16日から10月6日までテアトル新宿で開催中の「田辺・弁慶映画祭セレクション2022」内で、25日から29日まで劇場公開される。公開を前に、作品製作の経緯や込めた思いなどについて田中監督に聞いた。
作品は田中監督が製作・脚本・撮影・照明・編集・特殊造形・VFXを兼任し、“傷を抱えた少女”と“アニメの世界に行きたい殺人鬼”の恋愛模様を描く、異色のスプラッター×ラブストーリー。本作が長編映画初主演となる楢葉ももな、田中監督の前作「FILAMENT」に続いて芳村宗治郎が出演。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2021でグランプリを、インディーズ映画の登竜門である第15回田辺・弁慶映画祭で映画.com賞を受賞した。
無冠で終えた第11回の田辺・弁慶映画祭はとても悔しかったのを今でも覚えています。「FILAMENT」は大学の卒業制作だったので、30分までの作品にしなければならないという縛りはありましたが、当時の全てをぶつけたつもりでした。元々ヒーロー映画というある種のジャンル映画を、入選させていただいただけでも当時は大興奮だったのですが、映画祭からの帰路につく時には、一緒に参加した大学の友人たちと改めて作品の反省会をしたのを覚えています。そして長編映画を作りたいという気持ちが強くなったのを覚えています。
そんな「FILAMENT」が翌年の沖縄国際映画祭に入選し、審査員特別賞を受賞。その副賞として、吉本興業さんから少しだけ助成金をいただき、1年かけて長編を完成させるプロジェクトに参加させていただきまたした。ずっと作りたかった長編映画を作る機会をいただき、とても嬉しかったのですが、いただける助成金で長編映画を制作するには足りず、その他の制作費は自分で捻出する必要があったので、いかに低予算で、自分がやりたい物語と世界観を作れるか考えるのにとても時間がかかりました。
中江裕司監督と脚本家の中江素子さんに脚本をご指導いただきながら、一年後の沖縄国際映画祭での初上映を目指していたのですが、撮影を終えたタイミングで新型コロナウイルスの感染が拡大。完成の締切りが1年延びたので、より編集に時間を費やすことができました。この映画のアイディアは友人から幼少期の心の傷が消えないという悩みと、自身の変身願望について相談を受けていた時から生まれました。友人の悩みにどうやったら少しでも力になってあげられるか、たくさん考えていたのと、昔から変身願望についてはとても興味を持っていたテーマだったので、これを長編映画の物語にしようと決めました。
「悪魔のいけにえ」や「13日の金曜日」といったスプラッターやスラッシャー映画は小さい頃から大好きで、こういう映画に出てくる殺人鬼を今までとは違った角度から描くことはできないかとずっと考えていました。もちろん描き方にリスクはあると思っていたのですが、ドキュメンタリーではなくフィクションだからこそ、描くことのできる表現や物語、苦しみや感情を描きたいと思い、制作しました。アニメにもずっと憧れがあり、こちらも実写ではない、絵の世界だからこそ描けるものがたくさんあるなと思っていたので、今回実写映画に取り入れようと決めました。
理由は予算とスケジュールの都合で、十分なスタッフを確保できなかったからなのですが、そうと決まってからは、普段監督だけをやっていては経験できない部分も経験できる機会だと思い、自分がやらなければ映画が完成しないという状況だったので、自分で上記の役職を全てこなす覚悟が決まりました。中でも一番苦労したことは、撮影中も準備の時も演出のことだけを考える時間がなかなか取れなかったことです。やらなければいけないこと、考えなければいけないことが無数にあるので…。
アニメ部分は、CGではなく、手書きで枚数を書いて動かす、日本アニメが伝統的にやってきた方法で作りたいとずっと決めておりました。そこで絵を描ける友人や、アニメ制作会社で働いていた友人に協力を頼んだのと、Twitterでアニメを描いて投稿している方に片っ端からDMを送って協力を頼みました。なんとか協力してくれる方や大学の後輩が見つかり、1カ月で完成させました。途中から映画の撮影と同時進行になってしまったのですが、アニメを使う撮影に間に合わせることができました。
ヒロインの舞役は事務所さんなどに色々と相談していたのですがなかなか見つからず、困っていた時に、今回アクションコーディネートをしていただいた遊木康剛さんがアクションを教えていた楢葉さんを紹介してくれて、マネージャーさんと楢葉さんと3人でカフェで舞の役について話している時に、演技などは見ていなかったのですが、パーソナルな部分で舞役を任せられると感じ、お願いしようと決めました。美喜男役は、脚本を書いている最後の方には前作にも出演いただいている芳村くんにお願いしようと決めており、脚本完成の前から相談しておりました。その他のキャスティングに関しては、友人の紹介、そして前作で訪れた映画祭で拝見した映画にご出演されている方に声をかけました。
完成した時は、観客の皆様にどう捉えていただけるのか全くわからず、手応えなどはあまりありませんでした。そもそも、このスケジュールと予算とスタッフの数で完成したこと自体が自分でも驚きだったので。ですが、映画祭で本作を見ていただいた方からの感想がとても多く、多様なものでした。その時にようやく手応えを感じられた気がします。ゆうばりでグランプリをいただけるとは思っていなかったので、とても驚きました。と同時に、この映画に込めた思いをちゃんとすくい取っていただけた審査員の方たちと直接お会いして話し、感謝を伝えたくなりました。オンライン開催だったので。そしてグランプリという看板を背負って、この作品をさらに広めていく必要があると思いました。
第11回の田辺・弁慶映画祭で悔しい思いをしてからやっと、あの時に来れなかった場所に来ることができてとても嬉しいです。脚本を書いている時も撮影している時も、編集している時も映画館で上映されるイメージで制作していたので、劇場公開が決まり、数年前から目標としていた形にやっとたどり着くことができたのかなと思います。宣伝は初めてのことだらけで大変苦労しているのですが、東京テアトルの方や田辺・弁慶映画祭の方たちがサポートしてくれているので、大変助けられております。この映画が劇場公開されるまでに、映画祭の審査員の方々や映画を観ていただいた方々、クラウドファンディングで支援していただいた方々、友人たちからたくさんの応援があったからこそ、今があるので、皆さんへの感謝を込めて、できることは全部やろうと決めて宣伝も頑張っています。映画評論家の松崎健夫さんらバラエティに富んだ各界の著名な方々から応援コメントがもらえて感謝しています。
ありがたいことに本作はアメリカ、イギリス、ドイツ、オランダなど世界各地で上映していただいており、嬉しい反面、世界のレベルの高さも実感しております。今後はスタッフと予算をちゃんと確保して、より世界中の観客の皆さまを楽しませられる監督になりたいと思っております。
なお、田中監督とMCの松崎まこと氏(映画活動家・放送作家)とともに上映後にゲストが登壇し、トークイベントを行う。公開初日の25日には女優・岡本玲、26日には俳優・田中要次、27日には映画評論家・デザイナーの高橋ヨシキ氏と映画大好き芸人のジャガモンド斉藤。さらに女優・武田梨奈のほか、映画パーソナリティの伊藤さとり氏、映画執筆家の児玉美月氏、俳優・監督の前野朋哉、松崎まこと氏、ジャガモンド斉藤ほかからの応援コメントが寄せられている。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
【推しの子】 The Final Act NEW
【忖度なし本音レビュー】原作ガチファン&原作未見が観たら…想像以上の“観るべき良作”だった――!
提供:東映
物語が超・面白い! NEW
大物マフィアが左遷され、独自に犯罪組織を設立…どうなる!? 年末年始にオススメ“大絶品”
提供:Paramount+
外道の歌 NEW
強姦、児童虐待殺人、一家洗脳殺人…地上波では絶対に流せない“狂刺激作”【鑑賞は自己責任で】
提供:DMM TV
全「ロード・オブ・ザ・リング」ファン必見の超重要作 NEW
【伝説的一作】ファン大歓喜、大興奮、大満足――あれもこれも登場し、感動すら覚える極上体験
提供:ワーナー・ブラザース映画
ライオン・キング ムファサ
【全世界史上最高ヒット“エンタメの王”】この“超実写”は何がすごい? 魂揺さぶる究極映画体験!
提供:ディズニー
映画.com編集部もドハマリ中
【人生の楽しみが一個、増えた】半端ない中毒性と自由度の“尖った映画”…期間限定で公開中
提供:ローソンエンタテインメント
【衝撃】映画を500円で観る“裏ワザ”
【知って得する】「2000円は高い」というあなただけに…“超安くなる裏ワザ”こっそり教えます
提供:KDDI
モアナと伝説の海2
【モアナが歴代No.1の人が観てきた】神曲揃いで超刺さった!!超オススメだからぜひ、ぜひ観て!!
提供:ディズニー
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。