【「LOVE LIFE」評論】混乱だらけの関係もまた愛と呼ぶにふさわしい開かれた悲喜劇
2022年9月11日 08:00
「淵に立つ」「本気のしるし」の深田晃司監督の新作タイトルが「LOVE LIFE」だと知って、これはひと筋縄ではいかない映画になるぞと考えていた。「愛ある生活」とでも訳せばいいのだろうか。しかし深田監督がこれまで描いてきた家族像や恋愛像は、世間が語る愛情とははるかにかけ離れたものだったからだ。
いったい深田監督はどういうつもりなのか? 本気で愛を描くつもりなのか、それとも皮肉? 詳細が明かされてみれば「LOVE LIFE」は深田監督が大ファンである矢野顕子の曲のことだという。本作は、矢野顕子が歌う「LOVE LIFE」の別解釈であり、映画という形を借りたカバーバージョンといえる。そして完成した映画はやはり、奇妙でイビツで、それでいてひねくれたところが見当たらない、ピュアな深田作品としか呼びようがないラブストーリーだった。
主人公の若い夫婦は、妻の前夫との連れ子を一緒に育てている。しかし想定外の悲劇や珍事が重なって、仲睦まじい家族像からどんどん逸脱していく。夫はどんどん軌道を逸れていく妻の暴走を理解できず、2人が同じ方向を向いていないことはハッキリしている。ヒドいことも可笑しいことも起きるが、基本的なトーンはどこか抜けが良い。深刻な顔をしていいのかバカバカしくて笑っていいのか、大いに観客を戸惑わせるのではないか。
さらに言えば、2人を取り巻く人々もまた、それぞれに間違ったり正しかったり、迷惑だったり優しかったり、役割がコロコロと変わって一定しない。多くのフィクションが登場人物に明快な役割を担わせているのとは真逆で、登場人物たちの一貫しないゆらぎこそが、人間であり現実なのだと言われている気がしてくる。
深田監督はこれまでも、イビツな家族を描くことについて「自分にとって普通の感覚を描いているだけなんです」と答え続けてきた。結果、フィクションが培ってきた「理想の家族」というイメージを映画から引き剥がし続けてきたとも言える。
こんがらがって、ときに意味不明で、ロマンチックとも合理性とも程遠い。そんな人間関係を提示することにどれだけの商品的価値があるのかはわからない。しかし、現実や社会とフィットしない疎外感を日々感じている人たちにとって、正解を求めない本作の風通しの良さは救いにも感じられるはず。誰にも何も強要せず、混乱だらけの関係もまた愛と呼ぶにふさわしいのだと宣言するような、とても大きく開かれた悲喜劇だと思っている。
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